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日本観察記(7) 素顔で皇帝に会う薩蘇

 事件が発生したのは、10年ほど前だが、今でも佳代子さんに会うと、そのことで冗談を言いあう。

 ある日、私は急な用事ができ、旧友を訪ねた。その時、彼はちょうど数人の友人をもてなしていた。邪魔をわびると、旧友は「そんなことは構わないよ。ちょうどいいから君に紹介する」と言う。

 集まっていたのは、大多数が彼の同僚たちで、あるプロジェクトが一区切りついたので、祝っていたところだという。旧友は同席していた一人の若い女性を指して、「あ、ここには外国人の友達もいるんだ」と言う。

 「外国人の友達?」と私。

 「そうさ。彼女は日本人で、我々の供給先である××公司なんだ」と彼。

 「ああ、××公司ですか」と私。「それは、偶然ですね。去年、会議があって、私は中国支社の社長さんと一緒に食事しました。ああ、その時、一緒に食事したなかに、御社の佳代子さんという方がいました。ご存知ですか? 本当にきれいな古典的美人ですよね......」

 ここまでしゃべった時、空気がおかしいことに突然気づいた。女性は名刺を出そうとしていたのだが、それを引っ込め、大きく目を見開いて私を見つめている。食事中だった数人は箸をとめ、振り返って私を見つめ、その様子は動物園のチンパンジーを見るようである。旧友は私に目配せし、「冗談だろう? 君、ほんとに彼女の会社の人たちと食事したのかい?」と言う。

 一人の女性の前で、別の女性を誉めたのがいけなかった、と私ははっとし、自分の間抜けさを悔いた。けれど、その佳代子さんという秘書は本当に端正な美しさで、印象が深く、思わず口に出てしまったのだ。

 私はあわてて謝り、「ああ、本当に××公司は凄いですね。女性スタッフの一人一人が美しく、佳代子さんは古典的な美しさ、こちらの方は、現代的な美しさで......」

 空気は相変わらず変である。誰も私のあとに話を続けず、私は芸を披露したのに、誰も笑ってくれない漫才師のような有様になった。どうやってこのあと、話を続ければいいのだろう?

 旧友が口を開き「君、彼女が誰だかよく見てごらん」と言う。

 しげしげと彼女を見てみると、女性はうつむいており、しばらくして顔を上げた----けれど、初対面である。彼女が誰だか、私が知っているわけがない。

 突然、蚊の鳴くような声が聞こえてきた。「私が......食事をご一緒した佳代子です」

 「えっ!?」今度は私が驚愕する番だった。

 渡された名刺を見て突然、自分の大間違いを悟った。けれど、この見慣れない女性があの佳代子さんとは?!

 けれど、事実は言われた通りであり、その時のみっともなさといったらなかった。

 実際のところ、この事件の原因はすべて私というわけではなく、元凶は「化粧」だった。端正な美しさで私に深い印象を残したのは、化粧をした佳代子さん、今回、初対面となった活発な佳代子さんは、素顔だった。

 佳代子さんは、中国での仕事の時、女性の同僚から肌がきれい、お化粧をしないほうがいい、と言われ、心を動かされて、よく知った間柄の友人の集まりでは化粧をしないようになり、そこで私と再会した。

 素顔で見ると、おおいに隔たりがある、というのは、何も珍しい話ではない。常に「東方美人」と称えられていた宋美齢だが、蒋介石の、あるボディガードの記憶によれば、夜の巡回警備のときに会った素顔の蒋夫人は、幽霊と間違えてしまうほどだったという......。

 化粧は、女性の必修科目である。けれど、素顔で出かけるというのは、別にありえないことではなく、中国の女性には、素顔や、特別な時だけ化粧する人も多い。「素顔での外出は裸で外出するようなもの」という概念からは程遠い。中国の古代には「素面朝天(素顔で皇帝に会う)」という成語がある。それは唐の楊貴妃の姉である虢国夫人は、とても美しかったため、天子である唐の玄宗皇帝の御前に出る時さえ、素顔だったという故事である。実際のところ、若い女性にとって、化粧は逆に彼女の天性の美質を殺してしまうことがある。「青春に敵なし」とはまさにこのことである。

 佳代子さんの例も、化粧後の美しい彼女は、日本語では「きれい」、中国語では{ディエン・ヤ}「典雅」と形容され、素顔の彼女は、日本語では「かわいい」、中国語では直感的に{ティエン}「甜」と形容され、それぞれの良さがある。

 けれど、なぜ、私は佳代子さんの時にこんな間違いをしたのだろう? 中国の女性の前では、私はこんな誤りをしたことはない。

 その理由は、日本の女性は薄化粧を好み、実に上手に自分の顔を整えることにあると思う。神戸や大阪の電車のなかで見かける若い女性たちはまるで「素面朝天」に見え、化粧をしているのか、素顔なのか判別できない。けれど、あとで分かったのは、一見、天然のままに見える顔は、毎朝、極上の化粧品を使い、1、2時間もかけて工夫したもので、その化粧の目標は「天然の美」だということだった。

 だから私は佳代子さんに会った時に化粧をしているとは思わず、もちろん素顔は一変するだろう、などと思いもしなかった。それに対し、中国の女性は化粧をすると一目瞭然であり、「化粧をしています」と告げているようなものである。たぶん、三十年前の中国で化粧は退廃的な行為だとされ、多くの女性たちが素顔だった反動かもしれない。現在では化粧が復活したので、比較的濃厚な化粧が好まれ、すぐにそれは分かる。

 けれど、全員が反動というわけではない。私はかつて、とても化粧の濃い若い女性に向かい、なぜそんなに化粧をするのか、と聞いたことがある。なぜなら彼女はまだ20歳で、まさに「青春に敵なし」だったからだ。彼女は笑って「だって、あなたは私のカレでもないし、真実の自分を見せる必要はないでしょ?」というものだった。

 しばらく、何も答えられなかった。

 薩蘇

 2000年より日本を拠点とし、アメリカ企業の日本分社でITプログラミングプロジェクトのマネジャーを務める。妻は日本人。2005年、新浪にブログを開設、中国人、日本人、およびその間の見過ごされがちな差異、あるいは相似、歴史的な記憶などについて語る。書籍作品は、中国国内で高い人気を誇る。文学、歴史を愛するITプログラマーからベストセラー作家という転身ぶりが話題。

 「人民中国インターネット版」より

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