村上春樹の小説「ねむり」 中国語版が出版
作家・村上春樹氏の小説「ねむり」(1989年出版「眠り」の改稿版)の中国語版出版記念イベントが19日、北京で行われた。東京大学文学部・大学院人文社会系研究所の藤井省三教授(中国文学)によると、「この小説は1989年に出版されたもので、莫言氏の『花束を抱く女』(中国原題:懐抱鮮花的女人)が創作された時期に近い。この2つの作品は明らかに、ロシアの作家レフ・トルストイの長編小説『アンナ・カレー二ナ』の影響を受けている」という。
中国語版の翻訳を担当した施小●の説明によると、村上氏は小説「ねむり」(1989)を執筆する以前、執筆活動や人生における低迷期を迎えていたのだという。その頃、小説をほとんど書けずにいた村上氏は、ギリシアやトルコなどに行って旅行記などを書くしかなかった。しかし、翌年の春になると、村上氏は一気に「眠り」を書き上げ、作家活動を再び軌道に乗せた。村上氏自身の言葉を引用すると、「ノルウェイの森」と「ダンス・ダンス・ダンス」で想像できなかったほどの成功を収めたことで「心が堅くなり、冷え込んでいた」。それが「春の訪れとともに、少しずつ柔らかくなり、融け出して」一気に書き上げたものだという。
短編小説「ねむり」は村上氏が女性一人称を使って描いた小説だ。物語は深刻な不眠に陥った家庭の主婦が描かれている。病気でもないのに突然眠れなくなった女性は、時間があれば小説「アンナ・カレー二ナ」を読み、夜は寝ている夫をしげしげと観察する。この女性には現実と夢に間がなく、現代的な不条理にあふれた小説は、読者に強烈な心理的緊張と恐怖をもたらす。
中国文学者・翻訳家でもある藤井氏は、同じ頃に執筆された村上春樹氏の小説「ねむり」と莫言氏の小説「花束を抱く女」の似通った点を挙げた上で、村上氏に最も影響を与えた作家は中国の魯迅であると説明した。
当日の出版記念イベントでは、村上氏の随筆集「雑文集」(2011年)の中国語版も出版されることが発表された。この本には村上氏の未発表の約60篇の随筆、散文が収録されている。これ以外に、本の中では長編小説「IQ84」の女性主人公・青豆の名前の由来も紹介されている。(編集MZ)
*●火へんに韋
「人民網日本語版」2013年3月21日