中国若者の8割「親孝行が自らを奮い立たせる糧」
先日行われた冬季オリンピックのスピードスケート・ショートトラック女子1500メートルで、中国人選手として唯一決勝に進んだ周洋選手は大会新記録で金メダルに輝いた。大会後に開かれた記者会見で、「オリンピックの金メダリストになったことは、あなたにとってどんな意味をもちますか」との質問に対し、周選手は「いろいろ変化すると思う。さらに自信が付くだろうし、親にも楽をさせてあげられると思う」と語った。この一言は多くのネットユーザーの胸を打った。「中国青年報」が伝えた。
中国青年報の社会調査センターは先週、ネットユーザーの声を反映することを目的とした調査サイト「民意中国網」を通じて、2856人を対象に調査を実施、84.2%の人が周選手の金メダル獲得に関心を寄せていることが分かった。被調査対象者のうち、実家が都市部にある人は45.7%、農村部にある人は54.3%だった。家庭の経済水準について、「上」と答えた人は1.9%、「中の上」は12%、「中」は49.2%、「中の下」は30.9%、「下」は6%だった。
周選手の金メダル獲得よりもさらに関心を集めたのは、「『親に楽をさせてあげる』という発言に共感する」で、89.5%だった。注目すべきは、家庭の経済水準について、「中」、「中の下」、「下」と答えた人がこの項目を選んだ比率はそれぞれ91%、92%、88.9%で、「上」(85.5%)、「中の上」(76.4%)を明らかに上回ったことだ。
▽周選手の言葉を人々はどう受け止めているか
もともとスポーツファンではない劉栄さんだが、冬季オリンピックは熱中して観戦したという。「中国チームの活躍に胸が高鳴った。特に周選手の試合は劇的で、素晴らしかった!」と語る劉さん。「親に楽をさせてあげる」、周選手のこの言葉に共感し、より大きな感動を覚えたという。「これまでのスポーツ選手は、勝利インタビューというと、決まり文句ばかりで、準備万端という感じ。よそ行きで白々しい部分があった。それに対し、周選手の一言は心に響くものがあった」。
調査によると、「周選手の言葉には心がこもっており、真実味があった」と答えた人は79.9%、「周選手の親孝行ぶりや責任感を学びたい」は73.4%、「家庭を愛してこそ、国を愛せる」が45.4%に上った。一方、「スポーツ選手の保障体制に不備がある」と答えた人も43.1%、「両親の生活が肩に圧し掛かっているのは、精神的につらいものがある」は28.9%という結果だった。
中国人民大学社会学部の馮仕政準教授は、周選手の言葉がネットユーザーの共感を呼んでいることについて、「これまでの金メダリストの決まり文句に対する嫌気や、今の若者たちがより自然体であることと関わりがあるのではないか」と分析している。
「周選手の家庭に対する責任感を学ぶべきだ」。馮準教授は「若者は家庭からのプレッシャーがあるからといって、責任を放棄してはいけない。もちろん、若者自身も親の世話と自らの人生の折り合いをしっかり付けて行くことも必要。親の世話に固執しすぎても良くない。守りにはいってしまい、せっかくのチャンスを逃してしまうことになりかねない」、と両者のバランスを保つ重要性を語った。
華東政法大学社会発展学院の若手講師・童瀟さんは「周選手の言葉は純粋さへの回帰。背伸びをすることもなく、謙遜することもないが、どれだけ練られたコメントよりも心の琴線に触れる」と話す一方で、「スポーツ選手の特殊性から、ここ数年、二極化が進んでいることも否定できない。スポーツ選手の福祉体制はさらなる改善が求められる」と、スポーツ選手をめぐる福祉体制の不備にも言及した。
▽今の若者が糧とするものは?
インターネットで周選手の勝利インタビューを見た李暁蕾さんは、思わず涙が流れたという。18歳の頃、広東省潮汕から単身で深センに出てきた。当時の李さんを支えたのは、「親に楽をさせたい」という思いだった。「高校を卒業したばかりで、潮汕弁しか話せなかった。深センという都市に溶け込もうと、3ヶ月かけて、広東語と標準語をマスターした。仕事は小さな店の店員から始めた。月給は500元にも満たなかったが、毎回、もらった給料を繰り返し数え、夢に見るほどうれしかった」、と当時を語る李さん。
現在、李さんは宝飾店の店長をしている。収入は以前の10倍になったが、弟や妹を学校に通わせるため、自分の手元に残るお金は毎月1000元に満たないという。友人たちは李さんのような生き方は疲れると言うが、李さんにとっては当たり前になっている。実家に電話をかけ、両親のうれしそうな声を聞くたびに、新たな力が湧いてくるという。
「両親の稼ぎは私よりも多い。仕事を頑張っているのは、自分の夢のため」、と語るのは孟媛媛さん。孟さんは2年前、大学を卒業すると同時に、研究所への就職を独断で決めた。仕事の世話をしようと考えていた両親に相談すらしなかった。現在、孟さんは自分の好きな仕事をしている。残業のある時は、何日も徹夜が続くこともある。「収入が少なくても、自分が稼いだお金で両親にご馳走したり、旅行に連れて行ったりするのは、気分がいい」。
今の若者が糧とするものは何か。今回の調査によると、「両親に楽をさせること」が79.3%で最も多かった。うち、家庭の経済水準が「中」、「中の下」、「下」だと答えた人の比率はそれぞれ、81%、82.7%、77.8%で、「上」64.7%、「中の上」66.4%を明らかに上回った。
また、「自分の運命を変えること」と答えた人は67.7%、「自分の生活を向上させること」は66.8%、「子どもに楽をさせること」が62.4%という結果だった。
「経済的に豊かな家庭で育った若者は、自分の趣味に基づいて進路を選ぶ傾向にある。自分のやりたいことができる」と語る童さん。一方で、「経済的に貧しい家庭で育った若者はまず金銭面を考慮せざるを得ない。財力、権力、名誉という社会階層を評価する3要素は相互に関連している。お金や権力があれば、名誉もそれに伴ってくる。ここに社会構造の硬直性が浮き彫りとなっている。社会構造が封建的であるほど、家庭環境が個人の進路にもたらす影響が大きくなり、下層にいる人々は成功への欲求と挫折感にかられることになる。逆に、社会に柔軟性があり、お金と権力、権力と名誉がイコールでなければ、各階層の選択肢もそう大差はなくなる」。
馮準教授は家庭条件や環境が若者のモチベーションに与える影響について、「一概には言えない。若者の成功は個人の努力のみによるものでもなければ、家庭環境のみによるものでもない。両者がうまく噛み合うことが重要だ。歴史的な規則性から見ても、家庭環境の良い若者は社会的地位を向上しやすい傾向がある。ただ、社会的地位が高ければ良いというものでもない。人生の素晴らしさは、正しい価値観と社会的貢献度に関係するのだ」と語った。(編集YT)
「人民網日本語版」2010年3月3日