地域レベル自由貿易協定に「巨大化」の流れ
ここ数カ月の間に、世界の重要な経済体の間で自由貿易協定をめぐる話し合いがスタートしたり、深まったりしている。東南アジア諸国連合(ASEAN)は昨年11月に「東アジア地域包括的経済連携」(RCEP)の交渉をスタートすると宣言し、今年2月には米国と欧州が6月末をめどに「環大西洋貿易投資パートナーシップ」(TTIP)の交渉をスタートすると発表し、日本は今年3月に「環太平洋戦略的経済連携協定」(TPP)の交渉への参加を表明。また日本と欧州連合(EU)は4月に自由貿易協定の交渉もスタートさせる予定だ。誕生する可能性があるこれらの自由貿易圏は経済規模が巨大で、日・EU自由貿易圏が成立すれば世界の経済規模の30%近くを占めるようになり、RCEPは3分の1、TPPは40%近く、TTIPはなんと半分近くを占めるようになる。このような巨大規模の地域間自由貿易協定の交渉がスタートし、深化していることは、貿易の地域ブロックの形成を推進するとともに、グローバル貿易のルールと基準の制定に極めて大きな影響を与え、ひいてはグローバル貿易の発展局面を左右することになる可能性がある。
過去10年間に、世界貿易機関(WTO)の多角的貿易交渉(ドーハラウンド)は停滞して前に進まなかったが、さまざまな自由貿易協定が急速に誕生して、グローバル貿易の自由化を推進してきた。アジア開発銀行(ADB)がまとめた統計によると、アジアの自由貿易協定は2002年には70件だったが、その後急速に増加して2013年1月には257件になった。このうち189件は二国間の協定、68件は2カ国以上の多国間自由貿易協定だ。今年1月末現在、アジア各国が調印した132件の自由貿易協定のうち、109件がすでに発効しており、このほかに交渉中のものが75件ある。
ドーハラウンドが袋小路に入ったためだけでなく、自由貿易協定の隆盛がより重要な原因となって、世界の貿易モデルに重大な変化が生じたと考えられる。過去数十年間に、世界の貿易は一つの国が製造した製品を別の国で販売するという伝統的な貿易モデルから、生産ネットワークが主導する供給チェーン型貿易へ、数カ国での加工を経て最終製品が完成する国際製造方式を中心とする貿易へと転換した。中間製品を取り扱う貿易がアジアの輸出全体のうち半分以上を占めるようになった。そこで各国はグローバル・地域生産ネットワークに参与し、他国市場に参入する際に有利な待遇を受けることを確保するため、さまざまな二国間・多国間の自由貿易協定に調印するようになった。