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【第44回】労災保険制度に関する最新動向

 1 「労災保険条例」の改正

 中国では、従来まで労災認定に関する規定は2004年1月1日に施行された「労災保険条例」(以下、「条例」という)に定められていましたが、社会経済の急速な発展にともない、絶えず発生する新しい状況、問題に条例が徐々に追いつかなくなり、とくに実行面では、労災を被った従業員の合法的権益を十分に保護できない条例に対する批判の声が各方面から高まりつつありました。そのため、2009年7月24日、国務院法制弁が「『労災保険条例』(募集意見稿)」(以下、「募集意見稿」という)を公布し、「条例」の改正に踏み出し始めました。その中で、外商投資企業が注意すべき点をいくつか今回はご紹介していきたいと思います。

 2 労災認定の範囲の調整

 (1) 通勤中の交通事故による負傷について

 募集意見稿(5条)では、労災に認定されるべき事由の中から、「条例」では14条6項にあった通勤途中の交通事故による負傷の項目が削除されています。その理由として、主に次の事由が考えられます。まず、2006年に「自動車交通事故責任強制保険条例」が施行されてから、出退勤途中の自動車交通事故によって傷害を受けた従業員は、自動車交通事故責任強制保険制度から補償を受けることができるようになり、民事賠償のルートでも賠償請求が可能になったことが挙げられます。次に、自動車交通事故による傷害を労災として認定するのに対し、非自動車交通事故による傷害を労災に認定しないという従来の規定は、客観的に見て不合理な印象が否めません。また、いったいどのような場合が「通勤途中」に該当するかといった判断が難しく、実務でもこの判断をめぐる紛争が多発していることも一因のようです。

 (2) 労災に認定されない事由の範囲について

 「条例」(16条)には、治安管理に違反した行為および道路交通安全管理に違反した行為は労災には認定されないとされていましたが、負傷した従業員の生活を最大限に保護すべきという観点から、募集意見稿(6条)では、この二項が労災に認定されない事由から削除されました。

 3 労災認定、鑑定および紛争処理手続の簡潔化

 (1) 迅速な報告制度の確立

 これまで、多発する労災事故の発生と労災認定の申請との間隔が長すぎて、証拠を取得しにくいといった実務的な問題がありましたが、これを解決するために、募集意見稿(2条)では、重大な労災事故が発生した場合は24時間以内に企業が書面の形で労働保障部門に報告することを義務づけています。

 (2) 行政再議手続の省略可能

 「条例」では、労働者および企業が労災の認定に納得しない場合や、企業が主管部門によって定められた保険料の納付比率に不服を申し立てる場合などは、行政訴訟を提起する前に必ず行政再議を経る必要がありました(53条)。「募集意見稿」(19条)では、このような規定が削除され、当事者は従来どおり行政再議を申し立てるか、人民法院に直接行政訴訟を提起するかを自由に選択できると定めています。

 4 企業の負担軽減

 募集意見稿(11条、14条)では、「条例」に定められている企業が支払うべき労災従業員の入院時の食費補助金、労災従業員と企業が労働契約を解除する際に企業が支払うべき一度限りの労災医療補助金(34条)などの費用について、労災保険基金の支出項目として調整し、企業の負担を軽減させています。

 5 労災保険に加入しない企業に対する処罰の強化

 「募集意見稿」(20条)では、労災保険未加入の企業に対して、人的資源・社会保障部門が期限付き加入、未納付の保険料の追加納付に命じることができ、かつ1日当たり未納付保険料の0.05%の滞納金の徴収もできる、と定めています。期限を過ぎても保険料と滞納金を納付しない企業に対しては、前年度に納付すべき労災保険料の2倍以上5倍以下の過料に処することができ、それをさらに拒否した場合、人的資源・社会保障部門が人民法院に対して強制執行を申請することができる、として労災保険未加入企業への罰則強化を図っています。

 2008年1月1日の「労働契約法」施行後、労働者の利益を十分に保護するために、中国政府はさまざまな側面から関連法の整備を行っています。今回の「条例」に対する修正意見が正式に採択されれば、労災保険に関する労働者と企業のそれぞれの権利、義務がより一層明確になるでしょう。


 作者:韓晏元 潤明法律事務所パートナー弁護士 神戸大学博士(法学)
 

 作者: 李航  潤明法律事務所弁護士 神戸大学法学修士(同大学法学研究科博士後期課程中退)

 「人民網日本語版」2009年11月5日

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