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【第60回】 労働契約の競業制限条項について

 【事例内容】

 A社の華南区マネジャーとして勤めていた甲は、会社の経営政策に不満を感じ、その労働契約期限である2008年9月を待たず、同年2月にA社を退職した。A社との労働契約第36条(以下「第36条」という)には、離職1年以内の競業制限条項は定められているものの、競業制限期間の補償金支払い基準、地域および違約責任などについては定められていない。

 再就職を考えた甲は、第36条には競業制限そのものは定められているが、補償金の支払い基準については定められておらず、さらに同件については別途会社と協議できないため、当該競業制限条項が無効だと主張、2008年6月に仲裁を申し立てた。その結果、仲裁廷は甲の主張を支持した。

 仲裁裁決を不服としたA社は訴訟を起こした。一審は、第36条が当事者間に有効な意思自治であり、その内容が法律、行政法規の強制規定に違反しておらず、かつ補償金の支払い基準が競業制限条項の発効要件ではないと認定、有効な条項だとの判決を下した。甲は上訴、二審は一審判決を維持し、上訴を棄却した。

 その後、甲は二審判決を根拠とし、第36条が有効である以上、A社に競業制限期間(2008年3月から終身判決が確定されるまで)の補償金の支払いを要求した。A社は、甲に支払った在職期間中の賃金に競業制限補償金が含まれるとして、上記要求を拒否。甲は再び仲裁を申し立てたが、終審判決は甲の主張を支持、A社に補償金の支払いを命じた。

 【弁護士コメント】

 1)労働法などにおける競業制限(公司法上の規定)とは、企業が従業員と合意の上で、離職する従業員が一定期間内に同社と競争関係を有するその他の企業に就職しないこと、企業と競争する業務に従事しないというものです。

 実務上には、労働契約法第23条「企業の労働契約または秘密保持協議には、競業制限条項、かつ労働契約が解除または終了される場合、競業制限期間の補償金を毎月支払うことを約定できる(下線は筆者による)」に基づき、競業制限そのものを定めると同時に、補償金の支払い基準も規定する必要があります。規定されていない場合、競業制限条項は無効となり、補償金の支払い基準を競業制限条項の発効要件と主張する考え方はよく見受けられます。

 しかし労働契約法第23条を見る限り、「約定できる」とは「約定しなければならない」のではなく、同時に補償金の支払い基準を約定しない限り、競業制限条項が無効になるとは言えません。補償金の支払い基準は競業制限条項の発効要件ではなく、競業制限そのものについて企業が従業員と合意すれば、競業制限条項は直ちに発効されます。従って、理論的には企業と従業員は競業制限条項を締結すると同時に、補償金の支払い基準について約定できるし、従業員の離職前または離職後にも約定できると考えます。

 もちろん、在職中の従業員と競業制限条項を締結し、離職直前に当該従業員の競業制限コストを考慮したうえで競業制限が必要ではないと考えれば、競業制限条項を解除(事前に、就業規定には解除できる権限を企業に付与する旨の規定を明確化する必要がある)するのが、企業にとって最適な方法だと思われます。必要である場合は、労働契約法第23条に基づき、毎月補償金を支払う必要があると考えられます。

 2)補償金の支払い基準を約定していない競業制限条項が有効になっている場合、企業が競業制限の解除意思を離職従業員に明示しないという前提で、かつ従業員が競業制限の義務を履行したことを証明することができれば、従業員は競業制限期間の補償金の支払いを企業に要求することができると考えます。

 しかしこの場合、いかに補償金の支払い基準を確定するべきなのか、明確な法定基準は定められていません。判例を見る限り、このような場合、補償金の支払い基準について仲裁廷および裁判所は独自で判定する傾向があります。

 上海市労働・社会保障局により公布された「『上海市労働契約条例』の実施に関する若干問題への通知(二)」(以下「通知」という)第4条によれば、競業制限協議には補償金の支払い基準、支払い形式を約定している場合はその約定に従い、約定がなければ、従業員が補償金の支払いを企業に要求することができます。双方当事者が補償金の支払い基準、支払い方式につき争議しているならば、企業が従業員に競業制限義務の履行を引続き要求する場合、労働争議処理機関により確定された基準および約定した競業制限期間に基づき、補償金を一括で従業員に支払います。企業が残り期間の競業制限義務の履行を要求しない場合、労働争議処理機関により確定された基準に基づき、実際に履行した期間の補償金を従業員に支払わなければなりません(これは労働契約法実施前の上海市の規定であり現在も有効ですが、補償金の支払い方法の部分は労働契約法第23条に基づき、毎月支払わなければならないことにご注意下さい)。

 上記裁判例では、甲は離職前の12カ月分の賃金(約25万元)をA社に要求しましたが、裁判所は最終的に12カ月分の現地平均賃金(約2万元)の支払いをA社に命じました。当該基準の合理性には疑問が残るため、その論述は省略します。

 実務上では、既に支払った在職中の賃金には競業制限期間の補償金が含まれ、離職後の競業制限義務の履行を離職従業員に要求しながら、補償金を別途支払う必要はないと主張する企業はよく見受けられます。

 しかし、従業員に支払う賃金と競業制限期間の補償金とは、その性質、支払い時間上から見ても全く異なるものです。従って、上記A社の主張を認めれば、会社が競業制限期間の補償金の支払い義務を容易に避けることになり、一般的には、裁判所の支持を得られ難いと考えます。
 
 3)競業制限についての立法動向

 従来、企業が労働契約法の約定に違反し、労働契約を解除または終了する場合、競業制限条項の効力が引き続き有効かどうかについて争議しています。

 最高人民法院の新司法解釈の草案を見る限り、企業が労働契約法の規定に違反し、労働契約を解除または終了する場合、または従業員が労働契約法第38条に基づき労働契約を解除する場合、企業が従業員に競業制限の補償金を支払うならば、当該競業制限条項が引続き従業員に有効になります。




 作者:周暘 潤明法律事務所弁護士(早稲田大学法学研究科 法学修士)
 


 作者:高嵩 潤明法律事務所パートナー弁護士(北京大学法学部卒業、元北京第2中級人民法院裁判官)

 「人民網日本語版」2010年3月4日

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