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創刊号 Vol.1(2008/6/20発行)
【NRIの視点】
 「NRIの視点」は、日本の野村総合研究所(NRI)がメールマガジン「中日経済情報週刊」に設けた特別欄。中日両国の経済・社会などに関するNRIの最新研究結果を両国の読者に提供し、経済研究領域での両国の交流と協力を促すねらいだ。
新たな経営が求められる日本の素材産業
野村総合研究所 木村靖夫、中川隆之
T 業界概況
(1)業績の改善が著しい素材企業
 ここ数年、製造業の業績が回復するなかで、素材企業の収益も順調に向上している。特筆すべきは、素材企業から見てユーザーとなる自動車や電気機械分野の伸びと比較しても、それらに素材を提供する企業群の売り上げの拡大、利益の伸びが目覚ましいことである。電気機械が踊り場に入ったように見えるのに対し、素材企業の足取りは強い。
 足元の2005年4〜6月の収益の状況を見てみよう(図1)。鉄鋼業の売上高利益率は、他産業と比べても極めて高い。また、前年同期と比較して、鉄鋼、化学は大幅な増収増益となっている。素材企業の過去3年間の個別業績も順調に推移している(表1)。過去3年間に売上高は年率7%、営業利益は同48%で成長している。素材企業の収益率は、エレクトロニクス企業と比較しても高い水準にある。
図1 製造業上場企業の売上高経常利益率と前年同期比成長率

表1 主要素材企業の業績推移

 ここで、鉄鋼と石油化学を例にとって、収益が回復した要因を分析してみよう。図2に鉄鋼と石油化学の過去5年間の国内向けと輸出入の数量の推移を示す。鉄鋼、石油化学とも、2001年、2002年を底として生産量は回復傾向にある。
図2 鉄鋼と石油化学の国内向け、輸出、輸入の需要推移

 1990年代以降、日本の素材企業は内需を中心に展開し、内需が減少すると輸出に力を入れてきた。しかし、この数年間は、マクロ的には輸出比率は全生産量の3割程度で推移しており、輸出市場への販売数量に大きな変化は認められない。
 図3は、輸出市場に注目し、単価と数量を分析したものである。鉄鋼の単価は2003年から2004年にかけて急上昇している。この理由としては、中国の旺盛な材料消費により鉄鋼製品の価格が世界的に上昇したことがあげられる。プラスチック原料は、輸出数量、単価とも増加、上昇している。特に、液晶向けなどの電子材料分野では日本の素材企業が強く、これら電子材料は数量、単価ともに輸出市場の拡大に寄与している。
図3 輸出市場における単価と数量の差異分析(2003年と2004年の比較)

 以上から、素材企業が業績を改善した要因としては、中国という大市場の出現と、電子材料などの新たな需要分野の成長の両面から、価格が上昇に転じたことが大きいことがわかる。価格低下圧力に長くさらされてきた素材企業にとって、このような大幅な価格の上昇は、まさに干天の慈雨であり、一足早く業界構造再編を終えていた鉄鋼企業にとっては、まさに収益を急拡大させる絶好のタイミングだったといえよう。
 このような価格上昇を招いた2つの要因は、ここ数年は維持されると見られる。つまり、中国では需要が供給を大幅に上回っており、しばらくは中国向け市場の拡大が続くと予想される。また電子材料の市場も、表示デバイスなどを中心として、数量的に拡大すると予想される。しかし、こうした価格上昇が中長期的に(2010年頃まで)続くかどうかは不透明である。現在の事業環境を覆す4つの外部環境変化が起こりつつあるからである。
(2)日本の素材企業を取り巻く4つの不安
 中国発のアジアにおける販売価格の上昇と電子材料の好況に支えられている一方で、素材企業には潜在的な脅威となる4つの不安が存在している(図4)。
図4 日本の素材企業を取り巻く4つの不安

 第1に、原料調達では鉄鉱石や石油などをほぼ100%輸入に依存している日本の素材企業にとって、多数の脅威が存在する。
 世界的に資源開発企業の寡占化が進んでおり、鉄鉱石の場合、大手3社によって寡占されつつある。石油開発・精製会社も、国際的に買収を進める動きを加速している。こうしたなかで原油、鉄鉱石などの価格急騰は、素材企業が原料価格の上昇分を価格に転嫁できなくなると、その収益を直撃する。
 最近、不安要因として急浮上しているのが希少資源の調達である。電子・電気機器の高度化により、それらに使用されるレアアース(希土類)などの調達に不安が生じるようになった。もともと供給力に限りがあるうえ、それらは中国に偏在しているため、長期の安定的な供給が不安視されている。たとえば、液晶の製造に欠かせないインジウムの供給不足はすでに顕在化している。希少資源の供給の不安定性は、素材企業の収益に影響を与えるだけでなく、川下の部品生産に直接影響を与えるという意味で、産業界全体が抱える大きな不安要因ということができる。
 第2に、素材企業の好調を受けて、主として海外企業の新規参入や増産投資による供給過剰の懸念が拡大している。
 鉄鋼の場合、韓国、中国企業の追い上げが脅威となっている。韓国のポスコは、インドに総投資額120億ドルに上る高炉を新設する計画を発表した。2010年頃からインドでの生産を本格化する計画で、この投資によって同社の生産能力は世界第3位に浮上し、日系企業を抜くと見られている。台湾の中国鋼鉄、中国の宝鋼集団なども、生産能力を拡大する計画を発表している。また、ユーザーによる自社内生産という新たな脅威も登場しそうである。現代自動車が韓国国内に2010年をめどに高炉建設を決断するなど、需給環境に大きな影響を及ぼすことが予想される。
 化学分野の基礎素材では、中国企業が欧米の資本と技術の導入を図り、生産能力を急拡大している。また、エレクトロニクス向け材料など高付加価値品分野を中心に、韓国企業が後発参入しつつあり、日本の素材企業の独占という状況が崩れる可能性が出てきた。
 第3に、税制や法規制についても注意が必要である。世界的にFTA(自由貿易協定)の締結が進むなど、関税の段階的な引き下げが進められている。この結果、日本国内の素材市況が世界市況とより直結することになる。また、環境に対する規制強化についても、製品における有害物質の許容度が厳しくなり、対応コストがかかることが危惧されている。
 第4は、顧客からの価格低減圧力の増大である。現状でもエレクトロニクス市場では、商品値下げ競争の激化や技術自体の成熟化などに伴って価格低下のスピードが速まっていることもあり、価格低減圧力が強い。今後も強まりこそすれ、弱まることはなさそうである。
 これら4つの不安要因を見てみると、現状の追い風は、数年内には止んで逆風の時代に突入してしまうことが予想される。逆風になった場合、日本の素材企業にとってどの程度のインパクトとなるのだろうか。次章で簡単に試算してみよう。
U 市場展望
(1)2010年の市場規模は現状程度か
 現在、素材産業は、表1に示したように大手15社の売上高累計で18兆円の規模がある。これをベースに日本の2010年の素材産業を展望してみる。これら15社の事業分野は、図5に示すように、資源・基礎素材、機能材料・電子材料、建材・エンジニアリング、医療バイオ、その他の5つに分けられる。
図5 市場見通しのケースと市場規模予測の結果

 まず、各分野別に2010年における市場を予測するうえで考慮すべき項目をあげ、楽観と悲観のケースを想定した。楽観のケースとは、需給の逼迫に支えられて単価が上昇する場合、悲観のケースとは、供給力過剰になり価格の大幅な下落が生じる場合である。
(2)個別分野の見通し
 @資源・基礎素材
 資源・基礎素材分野の2004年の市場規模は11.9兆円である。この分野の2010年の市場を論じる場合、現在の価格水準を継続できるかどうかが問題となる。そこでポイントとなるのは、新規参入者の登場による供給力拡大の影響である。
 楽観的には、新規参入者が限定的であり、さらに日本企業が海外企業との提携や買収を進めて業界の構造改革が図られた場合、4%程度の成長が予想され、2010年には14.2兆円まで拡大する。
 悲観的なケースでは、需要の拡大は続くものの、アジアを中心に新規参入が進んで供給が拡大する一方で、国内の供給力の調整は行われず、結果的に需要と供給のバランスが一気に崩れて単価が下落、再び2002年頃の水準となり、市場規模も現状から3割ほど縮小する。この場合の市場規模は8.3兆円と試算される。
 日本企業は新たな設備投資に対して慎重だが、アジアを中心に海外企業が積極的な投資を行っているため需給バランスが崩れる可能性があり、2010年において現状の規模を維持するのは難しいのではないかと見られる。また、原料の調達価格についても高止まりが懸念され、今後さらに高騰した場合、コストアップ分を価格に転嫁できるかどうかは、収益上の大きな懸念材料である。
 A機能材料・電子材料、医療バイオ
 現状の市場規模は機能材料・電子材料が2.4兆円、医療バイオが0.7兆円である。
 機能材料・電子材料の分野では、楽観的には、デジタル関連機器の需要拡大が継続し、特に液晶ディスプレイの大型化など素材のコモディティ(普及品)化が進まないなかでの市場拡大が続いて、市場は年率10%程度の成長が期待される。一方、悲観的なケースでは、最終製品の価格低減圧力が強まり、それが素材にまで波及、さらに素材のコモディティ化の進展により新規参入者が増えるなどして、数量は増加するものの単価は下落し、市場の成長が足踏み状態となる。2010年の市場規模は、楽観的には4.3兆円、悲観的には2.6兆円と試算される。
 医療バイオ分野は、高齢化社会の到来とバイオ技術の進展により、楽観的には、市場は年率10%近く成長すると期待される。しかし、バイオ関連技術を受け入れる社会的素地、とりわけ法制度の整備状況によっては、市場の拡大が遅れる可能性もある。また技術の完成度も市場の開花速度に与える影響が大きい。2010年には、楽観的には1.2兆円、悲観的に見ても現状と同程度の0.7兆円の市場規模になろう。
 これら2つの分野は、技術革新のスピードが速く、日本の素材企業は技術革新を牽引する技術開発力を潜在的に持っていることから、コモディティ化を避けながら市場拡大を実現できる可能性が高い。また、量的な拡大も当面続く可能性が高く、2010年の市場規模は、楽観的なケースに近いのではないか。
 B建材・エンジニアリング
 建材・エンジニアリング分野は、現状では0.8兆円の規模を有する。この分野では、国内の建築着工数の減少に伴って市場は縮小するが、環境・エネルギー関連のエンジニアリング分野の拡大が期待されている。また、環境規制の強化に伴ってリサイクルに対する関心が高まり、その市場も拡大すると予想される。ただし、競合が厳しくなっていることもあり、単価が低下した場合には横ばいとなる。2010年の市場規模は、楽観的には0.9兆円、悲観的には0.6兆円と推定される。
 この分野は、業態としては、環境・エネルギー関連が拡大するものの、市場規模は緩やかな拡大にとどまるだろう。
 以上の考え方によれば、2010年における対象企業15社の売り上げ規模は、図5に示した範囲で変動すると予想される。資源・基礎素材分野はアジア圏の需給の影響を受けやすくなっており、今後数年をピークとして、2010年には再び事業環境が悪化する可能性が高い。一方、機能材料・電子材料分野については、今後、事業規模を拡大できる可能性がある。これらを勘案すると、2010年の市場規模は現状程度か、現状をやや下回る程度、17.5〜18兆円になるのではないか。
 このため2010年に向けて行うべきは、資源・基礎素材分野の事業収支の悪化リスクに備えつつ、機能材料・電子材料分野の事業を育成していくことだろう。
V 業界構造の変化
(1)勝ち残りのための事業構造改革
 数年後に訪れる激変の時代をどう戦い抜くのか、そのための体質改善をいかに進めるか、早急に対応策を講じる必要がある。収益が出ている今こそ、将来のリスクに対する備えをすることが必要だろう。2010年頃までには風向きが変わると考えられる。そのための準備に残された期間はわずか2、3年である。では、2、3年内に講じるべき対応策とは何か。
 実は、勝ち残りのための秘策があるわけではない。勝ち残るためには当たり前と思われることを当たり前のように実行できる体制をきちんと構築することが最も重要と思われる。それでは、素材企業に最も欠けている「当たり前のこと」とは何か。
 筆者らは、時代や顧客の変化に合わせて事業構造をダイナミックに変えること、すなわち事業構造改革能力を獲得することではないかと考えている。日本の素材企業でも、これまでさまざまな事業構造改革の取り組みが行われてきたが、大きな成果に結びついた改革は少ない。ここでは、素材企業が事業構造改革に成功するためのキーファクターについて考えてみたい。
(2)事業構造改革の4つの方向性
 素材企業でも、過去において事業構造改革に関心がなかったわけではない。1980年代後半から、いろいろな方策が検討されてきた。これまで志向されてきたのは、@川下展開、A山元還元、B高度化と新規分野展開――の3つである(図6)。第4の方向性としては汎用一般品の強化が考えられるが、業界再編を伴うため、欧米では事例が見られるものの国内では一部を除いて実現していない。
図6 素材企業の事業構造改革の方向性

 @川下展開
 素材企業が事業構造改革を目指す方向性の1つ目は、材料供給分野から材料加工分野への進出といった、いわゆる川下展開である。川下展開のもう1つのパターンとしては、自社プラントの設計や運用のノウハウを活かした展開がある。素材企業が自社のエンジニアリング部門を独立させた例や、鉄鋼会社が自家発電の運用ノウハウを活かして発電事業を展開している例がある。
 A山元還元(リサイクル原料の活用)
 自社で扱っている素材の再利用を事業化しようとする展開が山元還元である。近年、セメントおよび非鉄業界は、リサイクル原料の比率を拡大することで素材の収益源化を進めている。この2つの業界は、外部から産業廃棄物を有料で引き取り、これを処理するとともに、処理済み物質をリサイクル原料として活用している。
 セメント業界では、この10年ほどでリサイクル原料の比率が急速に拡大している。この理由として、日本国内の建設需要が減少したためセメントの単価が低下しており、セメント販売だけからでは利益を獲得しづらい環境になっていることがあげられる。非鉄業界でも、鉛蓄電池の鉛や、OA機器、携帯電話に含まれている貴金属などのリサイクル化を進めつつある。
 B高度化と新規分野展開
 自社で保有している素材技術を高度化し、新しい用途へ展開する方向性が考えられる。主としてエレクトロニクス向けの材料や部品に見られるケースである。エレクトロニクス分野には、1980年代以降、鉄鋼会社をはじめ、多くの企業が多角化の一環として参入した。
 エレクトロニクス分野以外では、バイオ分野、製薬分野への参入事例が最近では多く見られる。主として化学メーカーが展開しつつあり、企業を買収することによって参入・展開スピードを加速しているケースが多い。
 C既存の基礎素材分野への展開
 既存の基礎素材分野において、業界構造再編を通じて再強化することにより、コスト競争力を再構築する方向性である。
 欧米の石油化学会社では、この10年間に事業の売却・買収により事業構造改革を推進し、基礎素材分野の集約化を行いつつ、選択と集中の経営を行ってきた。一方、日本では、セメント業界と鉄鋼業界の一部において大型な企業合併が行われた以外は、事業構造再編はあまり進んでいない。
(3)これまでの事業構造改革の成否と成功要因
 先に示した4つの方向性のうち、最初の3つの方向性への事業構造改革は、それぞれの業界でこれまでにも行われており、多くの成功体験、失敗体験が蓄積されている。結果的に、業界ごとにある程度の成功パターンが見えてきているように感じられる。業界別の事業構造改革の動向を表2に示す。
表2 業界別の事業構造改革の動向

 鉄鋼業界では、一部の川下展開が成功している以外は、あまり多角化に成功していない。特に、高度化と新規分野展開については多くが失敗に終わっている。JFEスチールの誕生に見られるように、鉄鋼業界は唯一、既存の基礎素材分野への展開を志向した業界再編によってグローバル競争力を回復した素材業界であるといえよう。
 非鉄業界では、鉄鋼業界と比較して、新たな事業分野への展開に成功している。この成功要因の1つとして非鉄業界で扱う素材の用途や機能の多様性があり、かつ加工分野にも早い段階から参入していた。このため、新しい事業機会の登場をうまく捉えることができた。さらに、本業である鉱山の閉山などにより、鉱山経営に当たっていた優秀な人材を新たな事業の担い手として活用できた点も、もう1つの成功要因と思われる。
 石油化学業界では、1980年代から注力した新規事業の分野によって、その後の成長が左右された。半導体、液晶などの主要な材料、薬液に展開した企業は、市場の拡大とともに売り上げも拡大している。一方、利用量が少ない副資材分野に展開した企業や、上記以外の分野に展開した企業は、その後、事業が伸び悩んでいる傾向が見られる。
 セメント業界では、前述したように廃棄物の発生量削減に向けた規制強化を事業機会と捉え、リサイクル分野において従来と異なる収益獲得モデルを確立しつつある。
 以上見てきたように、事業構造改革を成功させるためには、自社や業界の特性を踏まえた方策の検討が重要であることが再確認できる。一方、筆者らが今の時点での事業構造改革の必要性を訴えているのは、近い将来、市場環境が激変する時代が来ることを予想しているためである。この事態に対応するには、本業を支えられる程度の事業規模を期待したいところであり、かつ成功確率が高いものを選びたい。上記の分析の結果からは、川下展開、または高度化と新規分野展開がそれに該当する方向性であるように思われる。
 素材企業は通常、既存の顧客の事業と競合することから、川下展開を避ける傾向がある。しかし、次のような要件に適合する場合は、外部から加工技術を取り込むなどして川下展開に成功している。
 素材供給が可能な企業が限られているため、川下メーカーよりも優位となる。
 川下領域の市場が急拡大したことにより、競合企業が少ない。
 このような要件を満たす事業分野が発見できる場合、川下への展開策が最も成功確率が高く、大きな事業機会を獲得することもできよう。しかし、一般的に、このような分野を発見できる企業は限られている。このため、通常の場合、高度化と新規分野展開の検討を進めることが必要であると考えられる。
 表2に示したように、高度化と新規分野展開では、非鉄企業や化学企業が、電子素材、電子部品の分野に進出して成功を収めているケースが存在する。一方、進出しながらも、限定的な事業展開にとどまっているケースも多数ある。次章では、電子素材・電子部品分野を題材に、高度化と新規事業展開における成功要因について分析してみたい。
(4)二極化が進む電子材料分野の事例
 電子素材・電子材料を手がける企業は、売り上げ規模で二極化する傾向が見られる(図7)。売上高が比較的多く、しかも利益率も高い勝ち組企業と、売上高が比較的少なく、単品商品に依存する事業展開となっている一本足型企業である。単品一本足型企業でも、比較的高い利益率を誇っているケースが多い。
図7 二極化が進む電子材料企業

 さらに、この両者の間に一部の企業が存在し、それらの企業はおしなべて利益率が低い、「弱者の谷底」とでもいうべき領域を形成している。この谷底領域では、単品一本足型企業が勝ち組企業を目指して商品ラインナップを拡充したものの、主軸商品以外ではシェアを獲得できず、売り上げの伸びに比べて固定費が大きく増大し、利益率を押し下げる、という状態になっていると思われる。
 図7の右上に位置している勝ち組企業の特徴は、図8に示すように、正のスパイラルの勝ちパターンを形成していることである。
図8 勝ち組素材企業の正のスパイラル拡大循環

 すなわち、有力デバイス企業と密接な関係を構築することで、その企業から新製品情報や増産計画を早い段階で入手することが可能となり、この結果、他の企業に先がけて、あるいは適切なタイミングで、新材料の開発や増産のための投資を行うことができる。この実績によって当該分野で高いシェアを獲得するため、他の有力デバイスメーカーも当該企業の技術力や供給力を無視できなくなり、当該企業は市場においてますます独占的な地位を構築することになる。このようなスパイラルが形成できるかどうかは、有力デバイスメーカーと早い段階でいかに密接な関係を構築するかに大きく左右される。
 また、先端プロセス製品では、素材のコモディティ化が進んでいないため、他社製の素材・部品への切り替えコストが膨大であり、先行した素材企業が有利となる状況も存在する。さらに、顧客の事業の拡大に伴って、素材の製品供給能力の拡大を求められ、結果として供給面での競争優位性が拡大する。
 このような拡大スパイラルでは、対象とする商品の技術進歩と市場拡大が連続的に続く限り、つまり技術が汎用化する前に次の新技術が必要とされる限り、先行した素材企業が優位となる。
 では、後発企業に参入余地はないのだろうか。かつてDRAM(記憶保持動作が必要な随時書き込み読み出しメモリー)では、集積度が上がるたびに主要プレーヤーの劇的な入れ替わりが見られたことを考えると、おそらく技術の世代交代のタイミングが参入のきっかけになると思われる。新世代の技術開発の方向を見極めておくことが重要であろう。
(5)顧客志向に脱皮できない素材企業
 今後、素材産業が成長するうえでは、高度化と新規分野展開が重要であり、この領域では、上記のように、顧客との密接な関係の構築が成功のためのキーファクターとなる。しかし、このような顧客接点の形成に苦労している素材企業は数多い。他の製造業でも同様の課題を抱えているケースは多いが、素材企業の場合には以下に述べるような共通の特徴を有しているといえる。
 @自社都合の商品ラインナップ
 素材企業は、規模の大小を問わず、自らの技術開発力を強化することが、市場で競争優位を築くために必須と考えてきた。この考え方は今後とも否定されるものではないが、結果として生み出された商品は、技術中心型のプロダクトアウト的なものが多くなっている。顧客が求める商品よりも、自社の技術が活きる商品開発を進めてきたといえよう。
 このため、ラインナップされる商品は、販売面での相乗効果が考慮されていない場合が多い。また、売り上げが小規模の商品が多数乱立する状態に陥り、効果的な営業体制を構築しにくくなっている。
 A希薄なソリューション提供の視点
 素材自体の技術へのこだわりが強い一方で、その素材を使いこなすために必要となる加工技術への関心は、その必要性から比べると十分とはいい難い。ユーザーは素材を購入して何らかの加工を施すのだから、競争力のある素材とその加工方法は、セットで提供されるべきものといえる。
 加工技術が自社にないならば、外部からの導入も当然検討すべきだろう。顧客が持つ技術的課題に対し、自社の提供できる技術の総合力を活かしてソリューションを提供するという姿勢が重要である。
 B効果の薄い試作対応の増加
 もちろん、多くの素材企業は、顧客接点の強化の必要性について十分に理解している。そのため、自社製品を評価してくれそうな顧客に対しては、積極的な営業活動を展開してきた。しかし、顧客の見極めが十分でない場合には、積極的な営業姿勢は、繰り返される試作発注への対応に走りがちで、結果として開発部門が疲弊してしまう結果を招く。
 それでも、大型受注につながればよいが、試作発注だけが続く場合は悲劇的である。こういうケースが続くと、開発部門は試作対応に慎重になり、本来行われるべき試作対応ができなくなるなど、営業と開発の深刻な対立を招くことさえある。
(野村総合研究所の提供より)
作者紹介
木村靖夫
 1960年生まれ。1989年野村総合研究所入社。技術・産業コンサルティング部長、アジア・中国事業コンサルティング部長をへて、現在コンサルティング事業本部コンサルティング事業推進部長。専門は技術戦略、アジア事業戦略。
中川隆之
 1965年生まれ。1990年野村総合研究所入社。技術・産業研究部を経て、現在、技術産業コンサルティング部グループマネージャー。専門は素材、部品、エンジニアリング企業の事業構造改革、成長戦略。
野村総合研究所(NRI)の紹介
 現在の野村総合研究所(NRI)は1965年、野村證券の調査部門が独立して出来た旧野村総合研究所と1966年にやはり野村證券電子計算部門が独立して出来た野村コンピュータセンターの2社が1988年に合併した会社です。野村総合研究所(NRI)の強みは“トータルソリューション“を提供する総合力を備えていることです。
 野村総合研究所(NRI)は、日本の民間総合研究所のなかで最も歴史があるだけでなく、売上や従業員数等の経営規模も最大で、2001年には東京証券取引所に株式を上場しています。
 日本以外では、英国、米国(ニューヨーク、ロスアンゼルス)、ソウル、北京、上海、台北、香港、マニラ、シンガポール等に拠点を設置しています。中国大陸では、野村綜研(上海)諮詢有限公司、及び、野村綜研(北京)系統集成有限公司を設立しており、政府機関、民間企業に対して、政策コンサルティング、経営コンサルティングから情報システム構築・運営に至る“トータルソリューション“サービスを提供しています。また、清華大学と共同で清華大学・野村綜研中国研究中心を設立して、中国の経済・社会に関わる研究を実施し、研究成果の情報発信などを行っています。

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