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Vol.10(2008/11/20発行)

【特集】

専門家が語る金融危機 日本野村総合研究所の谷川史郎常務にインタビュー

谷川史郎常務

1980〜2002 日本野村総合研究所 (現在)

専門分野

 入社以来経営コンサルタントとして、自動車、ハイテク、情報通信等の業界を中心に、中長期戦略、国際事業戦略、M&A・アライアンス、研究開発、マーケティング、営業改革、新規事業参入等の戦略策定から実行支援まで数多くのプロジェクトを経験。

 危機感は中国より日米の方が強い

 アメリカの住宅バブル崩壊を発端とする金融危機の波紋が世界中に広がっている。世界の各株式市場が急落し、各国がさまざまな金融政策を講じ救済に踏み込んでいる。実体経済は今度の危機からどれだけの影響を受けるのだろう。日本と中国は、金融危機に直面してそれぞれどのような反応をして、どのような将来を迎えるのか。人民網の記者が日本野村総合研究所の谷川史郎常務にインタビューした。

――米国を中心に起こっている金融危機は世界中に広がっています。グローバル経済は現在、最悪の時期に入っているといえるのでしょうか。それとも今後悪化し続けていきますか。日本から中国にいらっしゃった谷川常務は、金融危機に対する両国の反応の違いについて、どのような実感をお持ちですか。

 今はいくつかの米国の政策決定を待っているところもありますが、時間が立つ間に、経済がもう一段悪化するだろうと思います。株価が下がることで高級商品の消費が止まってしまい、車やテレビが売れなくなるなどのことが今急速に起こっている。消費が縮まってしまうと、経済全体の成長率が抑えられてしまいます。実需が冷え込んでくるのが、年末にかけて起こってくるだろうと思います。

 私が上海や北京で感じたことですが、中国国内で皆さんが感じられる危機感よりも、欧米や日本のほうが高いです。中国はグローバル経済とのリンクがまだ緩いので、金融危機の中国経済への影響はそんなに深刻ではないと思います。日本の株価はこの数ヶ月で約20数パーセント下がって、個人の資産だけで約200兆円が一気に消えてしまいました。見かけ上持っていたお金がすぐ消えてしまって、将来に対して貯蓄をしていたものが目減りし、そういう意味で個人に対する打撃の深刻さはすごく大きいといえます。

――各株式市場には悲観的な傾向が見えますが、株式市場の変化は実体経済の反映のでしょうか。金融危機は日本の実体経済にどのような影響を与えるのでしょうか。

 株式が基本的に実体経済の将来を予測して動いているものだとすれば、時間差を伴いながらも、実体経済には同じ動きが現れます。今の株価が非常に悲観的な状況になっていることが、ひとつの方向感としては働いているのではないでしょうか。

 日本経済への影響というと、基本的に株価が下がることで、個人の消費意欲が抑えられてしまい、その結果として国内でものが売れなくなって需要そのものが小さくなり、経済規模が縮小します。海外も同じように消費が縮まって輸入が減るので、それに伴い日本産業は輸出で支えられる分が小さくなって、景気が悪くなります。株価が下がること自体が日本の経済そのものの成長率をものすごく悪化させます。 米国は公的資金注入の法制化を急げ

 ――今度の金融危機は90年代のバブル崩壊と酷似していると指摘した報道もありますが、両者は比較できますか?また、日本の銀行業は前回の金融危機でどのような教訓を汲み取ったのですか?それは今度の危機を乗り越えるための経験になるでしょうか。

 日本国内でも類似性が非常に高いという声もあります。資産価値の低下によって、信用を創造していたものが壊れてしまい、銀行の機能が停止してしまいました。米国政府は現在、悪化した銀行がもっている資産を買い取る仕組みだけを動かそうとしていますが、当時の日本も同じことをやったものの金融危機は止まらなかった。最終的に政府の公的資金を銀行そのものに注入することで、銀行の機能を安定化させたのです。高額の所得をもらって銀行に勤めている人が責任を取らないまま、政府の税金を積み込むことに対して、国民から納得感が得られず、全面的な対応が遅れた。そのため、日本経済の回復は結果的に時間がかかるようになってしまいました。

 アメリカの場合にひとつの教訓として、われわれが伝えなければならないとすれば、公的資金を銀行に注入する仕組みを法律として成立させるべきだということです。アメリカも時の日本と同様に多くの納税者からの納得感という問題をまだ解決できないでいます。ニューヨークの株がもう一段下がってみんなが大変だと感じ始めれば、(公的資金を銀行に注入する)その仕組みが起動し始まると思います。そこまでの準備が整わない現在は、銀行間のお金の融通がまったくできない状態で、経済そのものが麻痺した状態が続いています。それを解決するというのが差し当たった一番重要なステップではないかと思います。

――野村HDや三菱UFJフィナンシャルグループによる米国の金融大手の部門買収についてご意見をお聞かせください。日米の企業文化は融合しにくいと言われますが、それは企業の編成・運営に問題をもたらすのでしょうか。

 これだけ大規模な海外とのアライアンスというのは、日本の金融機関としては初めてです。MUFGはモルガン・スタンレーに20数パーセントの資本参加をします。一番難しいのは、モルガン・スタンレーの資産評価はどうやって適正に行うかということですね。

 野村證券がリーマンブラザーズのヨーロッパとアジアの人員を野村グループの中に取り込むということはM&Aとも少し違いますね。事業そのものを買ったのではなくて、人材を取り込むという形をしているのです。ヨーロッパとアジアのオペレーションを買っているので、国籍でいうとアメリカ人よりもたぶんヨーロッパとアジアの人が多いです。野村證券のヨーロッパオペレーションの職員は1000人ぐらいで、ヨーロッパのリーマンブラザーズの社員は2000数百人。今回の買収は以前より倍以上の人をいっきに組織の中に取り込むことですね。成功させるためには、文化的に融合するというより、オペレーションのイメージからすると、リーマンブラザーズのオペレーションそのものを上手に生かしていくことをやるのじゃないかと思います。

――日本の高度成長期にも日本企業が盛んに海外買収を行いました。当時の海外進出は成功しなかったですね。今度の買収と前回のそれと比較することができますか。有名なペブルビーチやロックフェラーの買収が失敗した原因はどこにあるとお考えですか。

 ペブルビーチやロックフェラーの買収が失敗したことについて、いろんな見方があると思いますけど、前は企業を買収したというよりも北米の資産を買ったところが大きく、買った時の価格が高すぎて、オペレーションのなかで利益がなかなか出し切れないという問題があった。今回やっているのは事業そのものです。資産より人を買うというまったく新しいスキームであり、特にリーマンブラザーズの人材を買うというアプローチは、日本でも非常に珍しいやり方です。そういう意味では難しいところはかなりあると思います。 中国の海外買収は技術向上を目指せ

――金融危機が中国の経済に与える影響を分析していただけますか。

 短期的にはプラスの影響はないでしょう。一番響いているのは、中国からの輸出の減少です。輸出企業の活動が低下するでしょうし、そこで働いている人たちの給料も影響をうけるので、経済全体の景気が悪くなります。中長期から見ると、新興国のマーケットが確実に成長することに対する期待が、世界的にはものすごく強くなると思います。

 今回アメリカで起こっているのはバブルが破裂した現象です。バブルが起こるのは、投資対象を探して余剰資金が行き先を失うためです。もし新興国がしっかりとした需要を育て余剰資金が吸収できるなら、結果的には世界経済が円滑に回るかたちになります。新興国が確実に経済発展を遂げることに対しての期待値は今まで以上に高くなるでしょう。そのための協調関係はいままで以上に強く求められると思います。中期的にみると、中国経済にとってプラスの効果はないものの、中国自体が活躍するという場面が今まで以上に大きなポーションを占めるようになるでしょう。

――中国経済は欧米と同じような危機の状態に陥ると思いますか。安定成長はこれから続いていきますか。

 政府の舵取り次第ですが、中国政府が持っている金融政策にしても、行政指導の能力にしても、コントロールする余地を相当多く持っていると思います。それが上手に機能すれば、欧米と同じような状態にはならずに済むと思います。

――中国国内でも盛んに議論されていますが、中国企業は日本と同じように海外買収を行うべきだと思いますか。中国企業の海外買収についてのアドバイスをお聞きしたいです。

 慎重に考えるべきですが、中国企業にとってはすごくいいタイミングだと思います。日本企業にとってもそれは同じで、各社が検討しています。日本の企業がグローバル化をしていく中で、海外企業の足場がほしいと思っている産業は多いです。

 中国の製造業の分野を想定すると、技術開発力を持った企業をどうやって傘下に入れるかは大きなテーマだと思います。また、人材のマネジメントは中国企業のなかで意外に十分に研究されていません。エンジニアがモチベーションをちゃんと維持して、会社の中に残ってもらえるという仕組みを作るのが一つのポイントだと思います。生産力という意味では中国本体の方が競争力のあるものを持っているわけで、中国の企業がもう一段力をつけるとすると、技術開発力をどうやって手に入れるかというのを対象とするM&Aはひとつあるでしょう。

(編集WQ)--「人民網日本語版」

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