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Vol.13(2009/1/5発行)

【中日交流】

日中若者の意識の違いはあっても相互理解は進む

〜日中青少年友好交流年に思う〜

東海大学 政治経済学部 教授 小野豊和

 米国発の金融危機が世界の市場に大きな影響を与え、企業と直接の雇用契約がない非正規労働者が仕事を失う時代を迎えています。世界の市場を席捲してきた日本の自動車業界においても、トヨタは「正社員と内定者は守る」と言いながら生産調整をせざるを得ない状況に追い込まれています。トヨタは否定したとしても、気になることは大学生の“内定取り消し”です。新たな巣立ちを夢見てきた彼らの心に大きなショックを与え、立ち直れるだろうかと危惧しています。格差社会と自殺が社会問題化される時代の中で若者はどのように生きようとしているのだろうか。

 日中友好30周年の意義ある2008年に“鑑真和上記念・逆渡航日中青年交流計画実行委員会”を立ち上げ、全国から公募した学生30人を連れて中国を訪問しました。約1250年前の唐の時代に遣唐使を通じて大和朝廷から強い要請を受けた鑑真和上は国禁を犯して5度の失敗にもめげず6度目に日本に上陸し仏教の戒律だけでなく当時の最先端技術を日本にもたらしました。逆渡航と銘打った旅はフェリーで中国に渡ることから始めましたが、鑑真ゆかりの寺などの訪問だけでなく、青年交流を実現するため揚州大学、南京大学、浙江大学、そして復旦大学の4つの大学を訪問しました。ここでは「自殺」と「女性の社会進出問題」について復旦大学での討論を通じて確認できたことを紹介しましょう。

 討論の材料としてアンケート調査(対象は日本人学生と中国から日本に来ている留学生および中国で学ぶ中国人学生と日本人留学生)を事前に実施し、データを見せながら議論を進めました。

 統計によると日本人の年間自殺者が約33000人に対して中国人は28万人と言われています。人口比でみると自殺率は日本の2.5%に対して中国は2.1%と低い。日本の自殺の原因を学生に聞くと、日本人学生は「家庭崩壊」を第一とし、次いで「学校のいじめ」「少子化による他人とのコミュニケーション不足」と続くが、日本に住む中国人留学生によると「学校のいじめ」を第一とし、次いで「家庭崩壊」「インターネット犯罪」を挙げています。中国現地の学生が考える日本人の自殺については「入試、就職の失敗」を第一に挙げ、「家庭崩壊」と「いじめ」が続きました。

 一方、中国人の自殺の原因について、日本人学生は「入試、就職の失敗」を第一に挙げ、次いで「両親の子供への期待過剰」を挙げています。中国人学生も「入試、就職の失敗」を第一に挙げているが、「家庭崩壊」も同レベルとしています。留学生で見ると、中国人留学生は「入試、就職の失敗」を第一に挙げたが、日本人留学生は「入試、就職の失敗」「家庭崩壊」「インターネット犯罪」「コミュニケーション不足」を同レベルで挙げているため決め手になる回答がないとも言えます。

 実際の討論においては、日本人学生が、昨今流行している若者によるインターネット犯罪(自殺勧誘の自殺サイトなど)を挙げたが、中国人学生は「理解できない」とし、中国の場合は、アンケートが示すように「入試、就職の失敗」が多い実態を説明してくれました。そして、現実に多いのは生活苦に悩む農村女性で全自殺者の過半数を占め、都市部の場合は、「受験や就職の失敗」「両親等のプレッシャー」が原因による自殺が多く、日本で流行している自殺サイトを通じた見知らぬ者同士の自殺には理解を示さなかった。

 次に「女性の社会進出における深刻な問題」について議論を行いました。日本社会の現象について中国人学生に聞くと「いまだに残る男尊女卑社会」を一番に挙げ、次いで「高学歴による未婚率の高さ」が続いたが、中国からの在日留学生も同じ傾向で、3番目以降は「少子高齢化に伴う介護問題」「経済的自立」と続いた。一方、日本人学生に聞くと「少子高齢化」が一番で、二番目が「男女差別」「高学歴による未婚率の高さ」「子育てが大変」と続いた。中国に留学中の日本人学生は「子育てが大変」を一番とし、二番目が「未婚率の高さ」となったが「言われるほど深刻でない」という意見もあった。

 一方、中国ではどうかということについて中国人学生は日本人の場合と同様に「男尊女卑社会」を第一に挙げ、次いで「高学歴女性の未婚率の高さ」「一人っ子問題」「家庭崩壊」を挙げたが、日本人学生の見方としては「一人っ子問題」を第一とし、次いで「男尊女卑」「経済的自立」を挙げた。留学中の日本人学生も「一人っ子問題」を第一に挙げ、次いで「未婚率の高さ」「就職の困難さ」と続きました。

 13億という世界最大の人口を抱える中国では、改革開放政策を始めた1970年代に「一人っ子政策」を導入し、通常は1家族に付き子ども1人、2人目が生まれると高額の罰金を強いる政策を導入したのです。結果として一人っ子は、両親と祖父母の6人(全員存命であった場合)の大人から一身に愛情を受けることになりました。「一人っ子」側から考えると、親の病気、老後の面倒などを一人で背負わなければならない義務を負うことになりました。逆に大人から一身に愛情を受けて育った「一人っ子」(小皇帝と呼ばれる)は甘やかされて育ち、家事などを一人で行う経験も乏しいため自立できない問題も起きています。「一人っ子問題」は一言では解決できない複雑な側面を持っています。今回は女性にスポットを当てたことから問題視されましたが、男性についても親の負担はもちろん、甘やかされて育った一人っ子は社会への適応性に欠ける問題も起きています。

 議論の中で日本人学生にとって意外な質問が出た。中国側から「日本は専業主婦が多く、彼女たちはその存在に大きな価値を見出しているのか」「スキルを身につけていないと離婚した時に困るのではないか」という質問に日本人学生は一瞬言葉に詰まってしまった。中国では女性の社会進出は当たり前で、仕事も結婚も女性自らが持つ力で選択する権利がある。中国人学生から「日本人も大いに権利を主張すべきだ」という意見が多く出た。日本では、雇用面で保障される福利厚生の充実という環境も原因となり、女性が夫の扶養の範囲で働き、「結婚休暇、育児休暇を取っても、また復帰できればいい」という考えを持つ女性が少なくない。つまり「社会よりも家庭における自分の所属意識が高い」ということで、生活慣行の違いが浮き彫りになった。さらに興味深いことは、高学歴の女性が結婚できない理由として日中ともに「三高」を挙げたが、中国の場合は、女性自身が「高収入」「高学歴」「年上」で、釣り合う男性が不足しているそうだ。日本女性が期待する「三高」とは、「背が高く」「高収入」「ハンサム」の男性に巡り合う機会が少ないということで、ここでも折り合うことがなかった。

 全体を通して、男尊女卑社会という悪習は日中両国に共通して根強く残っている問題ということが分かった。意識とは伝統と社会慣習の中で育つものともいえるが、男女格差を温存する原因としての男女差別社会が女性の社会進出の妨げになっている中国と、ある面保護下にある日本人女性の意識の差を感じた。結婚願望が無いわけではない中国の高学歴女性は「一人っ子政策」が続く限り結婚難を解消できないのではないか。食糧問題など人口抑制を行わなければならない事情があったとしても、この国の将来は安泰なのかという不安が脳裏をかすめた。

 白熱した議論で双方の主張には激しいものがあったが、青年たちの頭脳は柔軟で互いに受け入れる姿勢があった。違いを知り、理解する努力を示し、違いを認め、そして新たな相互理解の糸口をつかもうとする若者を見て日中の未来に明るい光が見えてきた。政冷経熱と言われた日中関係の氷が解け、春を迎える動きの中で民民外交の重要性を感じた中国の旅での出来事を紹介しました。

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