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Vol.17(2009/03/5発行)

【NRIの視点】

地方経済の勃興と消費市場の拡大

此本臣吾

此本臣吾(このもとしんご)

執行役員コンサルティング事業本部副本部長
専門は機械・自動車、電機などの事業戦略
中国・アジアの事業戦略と産業政策立案

1、地方市場のセグメンテーション

 今後の中国経済を考えるとき、成長率の高さという点で見ると成長の源泉は沿岸部から内陸部へとシフトしていくことが予想される。2008年の上半期の省別GDP成長率を見ると、内陸部ほど成長率が高く、上海、広東、北京の沿岸大都市ほど成長率は低い。つまり、今後の中国市場でのマーケティング戦略を考えるとき、内陸の都市部需要への関心を高める必要がある。中国は2010年代、「地方の時代」を迎えるのである。

 図7は、中国の都市人口約5億人、300都市を所得水準で、

 @沿岸大都市(北京、上海、広州、深圳の4都市)

 A沿岸一般都市(珠江デルタ、長江デルタ、環渤海の大都市)

 B地方省都級都市(武漢、成都、瀋陽などの内陸大都市)

 C地方中心都市(重慶、貴陽などの内陸都市)

 Dその他の地方小都市

 ——という5つのセグメントに分けて考えたものである。

2、急拡大する地方市場への対応戦略

 この5つのセグメントごとに世帯当たり年間可処分所得の分布とその予測を筆者らが行ったものが図8、図9である(詳しくは張翼(NRIグローバル戦略コンサルティング一部副主任コンサルタント)「2020年までの中国都市部消費者」『NRIマネジメントレビュー』19号参照)。

 予測方法は以下の通りである。まず、各地方政府統計年鑑から世帯の年間可処分所得別の構成を把握する。一方、世帯の所得分布は1人当たりGDP(所得の中央値)によって決まるとして、複数の中国の都市の過去の1人当たりGDPと世帯の可処分所得の分布パターンとの相関関係を整理しておく。当該都市の将来の1人当たりGDPを予測し、その値を1人当たりGDPと世帯所得分布パターンの相関関係に代入すると、当該年のその都市の世帯所得分布が推定される。

 沿岸大都市と沿岸一般都市でこの推定をしたものが図8で、沿岸大都市、沿岸一般都市はいずれも、現在年間世帯可処分所得は5-20万元というゾーン(世帯年収ベースの概算で20万元、日本円で300万円前後、「中流世帯」と称する)が急拡大するタイミングに差しかかっている。高級乗用車などの高額耐久消費財や住居用不動産の購入ブームが起こっているのもその証左である。しかし、2015年ごろには8割近い世帯がこのゾーンに入ってしまうため、消費市場は量的拡大が止まり、消費の成熟化、ニーズの多様化などの質的な高度化へと移行しているだろう。このような消費ニーズの変化に豊富な経験を持つ日本企業にとって、沿岸都市部はこれからも重要な市場であり続けるはずである。

 一方、図9は内陸地方部の予測である。ここでは世帯年間可処分所得で5-10万元(帯年収ベースの概算で10万元、日本円で1万円前後、「中の下世帯」)のゾーンが急拡大するタイミングに差しかかっている。このレベルの世帯所得であれば、乗用車は10万元以下のエントリーカーが購入でき、生活コストを考えればローンを組むことで住居用不動産の購入も可能になる水準である。中•低価格帯の製品やサービスを持つ中国企業にとって、今や地方市場はきわめて魅力的な市場となっているはずである。

 また、年間可処分所得で5万元以上の世帯が2007年から15年までにどれだけ増えるかを推定すると、沿岸大都市では300万世帯、沿岸一般都市で2200万世帯、地方省都級都市で2600万世帯、地方中心都市と小都市の合計で1900万世帯が増えるということになる。つまり、今後の増加分だけで考えると、中国における「中流世帯」は、沿岸大都市はすでに成熟段階となっており、これからの市場拡大の中心は、沿岸一般都市と内陸都市となることがわかる。

 ところで、図10は今回の予測で都市部全体を足し合わせたものを示している。都市部の年間可処分所得で5万元以上の世帯数は、2005年の3500万世帯から20年には1億3800万世帯へと拡大する。このゾーンの世帯数は2005年から10年までの5年間で3100万世帯増え、その後、2010年から15年で3500万世帯、15年から20年までで4000万世帯と、5年ごとに3000万から4000万世帯のペースで急拡大する。その中心は、世帯可処分所得で5万-20万元のいわゆる「中流世帯」であり、2005年には3400万世帯でしかなかったものが、20年には1億1000万世帯にまで膨れ上がる。すなわち、2010年代に1億世帯に達する「中流世帯」による消費ブームが大ブレイクすることが予感されるのである。

 このように今後は、沿岸大都市だけではなく、沿岸部の幅広い中堅都市群、内陸大都市へと需要が拡大していくことになる。詳しくは本特集の緒方卓「中国の地方市場におけるマーケティング戦略の課題と対応」に譲るが、広範囲に形成される「中流世帯」巨人市場でどうやって成功するか、おそらく、今までのような限られた沿岸大都市だけに焦点を当てていたときとは、戦略の考え方を変える必要があろう。

 まず、地方市場向け、中流世帯ポリュームゾーン向けの製品やサービスの開発が課題となるだろう。それには、製品機能をできるだけシンプル化して製品原価を低く抑えた設計が求められるし、場合によっては、沿岸大都市市場向けのハイエンド製品と区別するためにマルチブランド化を進める必要もある。中国統括(持ち株)会社の傘下に複数のブランドの事業会社を置き、異なるビジネスモデルをつくり込む必要もあるだろう。あるいは、ハイエンド向けは自社で開発し、ボリュームゾーン向けは現地企業(あるいは台湾系企業)の買収などで経営資源を調達することも考えられる。後者では、いずれ中国以外のアジアの「中流世帯」向けにも出荷し、中国をこれらの製品の開発生産基地に育てていくこともありうるだろう。

 また、製品以外にも、地方市場での成功に向けて地域密着の事業体制とするために、地域ごとに地区本部組織を設置していくこと、あるいは、中流世帯に対応した広告戦略も必要となるだろう。

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