Vol.18(2009/03/20発行)
【NRIの視点】
金融危機後の中国と日本企業の対応
此本臣吾
此本臣吾(このもとしんご)
執行役員コンサルティング事業本部副本部長
専門は機械・自動車、電機などの事業戦略
中国・アジアの事業戦略と産業政策立案

本稿の冒頭で述べたように、グローバルな金融システムの不安定化、米国の個人消費の落ち込みに起因する世界経済の低迷は最低でも2、3年、米国以外でも、地域によってはそれ以上の長期低迷を余儀なくされる。そのなかにあって、財政に余力があり、内需が旺盛な中国経済は比較的早く回復するのではいかと思われている。また金融危機後の数年後の世界はどうかというと、それは中国を中心とした新興国が世界を席巻する姿、言いえればそれら新興国の「中流世帯(中国で言えば世帯可処分所得で5万-20万元)」が勃興する姿ではないかと筆者は考えている。そのような観点で見ると、これから数年間続く厳しい冬の時期を抜けた後の中国の戦略は、大変重要な意味を持つ。
ここではもう一度、金融危機後の中国戦略のポイントは何であるかを考えたい。
第1は「地方の時代」、すなわち、沿岸部に偏重した市場構造が変化して成長の源泉が内陸へシフトし始めること、第2は「中流の時代」、すなわち、地方において膨大な中流世帯向けの新市場が勃興すること、そして第3は「成熟化」、すなわち、沿岸大都市の消費が成熟化・多様化すること−これらの市場構造の変化への備えが大切と筆者は考える。
「地方×中流」市場向けの中・低価格帯の製品やサービスについては、この市場ニーズを徹底的に考え抜いて、必要な機能を絞り込んだ設計として原価率を下げた専用モデルを自社開発する、あるいは買収や提携を駆使してこの市場セグメント向け製品をOEM(相手先ブランドによる生産)で調達する、さらは事業そのものを買収先に任せる−という選択肢もある。どの選択肢とするかは業種や製品によって異なるだろう。
また、日本企業が持っているブランドを大切に維持しながら、「地方×中流」向けには事業体を分けて、別ブランドで対応することも考えられるだろう。ただしこの市場セグメントは、韓国企業、台湾企業あるいは中国大手企業がしのぎを削る激しい競争が常態化しているため、機能を単純に落とした低価格製品を投入しても競争に飲み込まれてしまうだけである。価格を下げる必要はあるが、価格競争には陥らないようなブランド戦略の巧拙が勝負の分かれ道になるかもしれない。
世界最大の中流市場で勝ち残れば、中国以外の新興国に広がる中流市場でも優位な戦いができることとなり、日本企業はこの市場を徹底して分析し、それに応じた戦略を考える価値は十分にあるだろう。
もう一つの重要な視点は沿岸大都市市場での「成熟化」への対応である。量的な拡大は確かに緩やかになるかもしれないが、沿岸大都市市場はハイエンド製品やサービスにとっては大変魅力のある市場となるだろう。この市場だけでも1300万世帯あり、周辺の沿岸一般都市までを加えれば6500万世帯ある。十分に大きな市場といえるだろう。この市場は今後、日本企業が得意なきめ細かなサービスや製品仕様が訴求できる市場となってくる。「地方×中流」市場への投資を支えるだけの高収益事業を展開したい。
景気回復期に想定される市場や競争の構造的な変化をしっかりと見据えて、この時期に中国戦略の再検討をしておきたい。

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