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Vol.19(2009/04/5発行)

【NRIの視点】

経済危機の日本·アジアに対する影響と危害

松野豊

清華大学・野村総研中国研究センター所長

 

 

清華大学・野村総研中国研究センター

清華大学・野村総研中国研究センターは、2007年4月に株式会社野村総合研究所が中国清華大学と共同で設立した。清華大学をベースに、中国の他大学・研 究機関と連携してプロジェクトチームを編成し、中日両方の経験やノウハウを生かし、中国の経済・社会・産業を総合的に研究する。

松野豊 清華大学・野村総研中国研究センター

1,経済危機の日本に対する影響と危害。

 今回の経済危機により、外需(輸出)主導型の日本経済は大きな痛手を被った。しかし日本の企業には昨年8月の時点で4兆5600億円に上る手元資金(預貯金、有価証券)があり、家計には1,500兆円に上る個人資産がある(これは実に世界全体の1/4にもなる)。また日本と外国との関係で言えば、対外純資産は2007年末で250兆円もあり、2位ドイツの2倍以上である。ちなみに同時期の中国の対外純資産は79兆円で、米国はマイナス302兆円である。もちろん経済危機後の有価証券の価値下落などでこの数値は低下しており、日本政府も800兆円以上の借金を抱えているが、それでも日本経済にはトータルで余裕があり、今回の危機で日本の社会が混乱するということはない。日本企業の製品に国際競争力があり、金融や徴税のシステムがしっかりしているので当面は心配はない。

 直近四半期の実質GDPは2桁減と大きく落ち込んだが、名目GDPでみると1桁減であり、日本のマスコミは警笛を鳴らす意味で悲観的に報道しているが、国全体として何ら危険的な状態ではない。こんなに落ち込んだとしても年間換算で500兆円ものGDPを生み出している国は世界で米国や中国以外にはないのである。

 日本社会には、派遣社員の解雇問題や学生の内定取り消しなど一部で混乱は確かにある。しかし学校に行けないとか、病気になっても医者に行けないとかいう問題はほとんど起きない。これは教育制度や医療保険、失業保険、年金などの社会保障の仕組みが既に完備されているからである。

 事実、この不況下にあっても、世界の有名ブランド(バックや貴金属などの贅沢品)の購入量は、未だに日本が一位だそうである(世界贅沢品協会調べ)。ちなみにここ数ヶ月で見ると、中国が米国を抜いて世界第2位になったそうである。

 世界的に競争力のあるハイテクの材料・部品関係などは、自動車やエレクトロニクスなどの在庫調整が進めば、今年の年末から来年にかけて一定の回復に向かうだろう。また中国の内需拡大投資のうち、質的な転換を伴うもの(設備の高度化、付加価値製品へのシフトなど)については、日本の企業もその恩恵を受けて収益向上に貢献するだろう。

 今回の経済危機の日本に対する影響は確かにかなり大きいものあるが、産業基盤や社会システムがしっかりしているので、これまでのオイルショックやバブル崩壊の経験を生かすことで経済全体はゆるやかではあるが徐々に立ち直っていくだろう。ただし需要をリードする米国や欧州の立ち直りがあまりに遅いと日本への影響が深刻化する懸念はある。

2,現在日本政府の経済危機への対応策。

 日本政府はこの経済危機に際し、昨年8月に中小企業の信用保証、防災・震災対策などで11.5兆円、10月に定額給付金や金融機関への資本注入などで27兆円、そして12月に「生活防衛対策」と称して雇用創出基金設立、地方交付税増額、住宅ローン減税などで10兆円、これに金融への不安解消のために資本注入枠拡大と「銀行等保有株式取得機構」の資金枠33兆円を加えて、総額は重複を除いて75兆円規模の経済対策を発表して、すでに一部実施に入っている。

 このうち財政出動や減税などの財政措置は12兆円にのぼり、名目GDP比で約2%となって、これは先進国ではドイツと並んで最大規模になると言う。

 もちろん経済対策は、規模よりもどれくらいの効果があるかどうかが重要になるが、景気対策としての公共工事は効果が出るのが遅くなるし、減税などの措置も実際の雇用拡大に繋がるのかなどの懸念がある。日本は政治的な混乱で法案の成立などが遅れがちであるので、いかに早く政策を実行するかが重要なポイントになっている。

 個人的な観測では、日本は今後選挙などがあり、現在の経済対策が後手後手に回るため、あまり即効性のある成果は現れないと思う。しかし日本の民間企業の再生能力は高く、1,2年後に民間の国際競争力のある製品が牽引役となって経済回復に向かうとき、日本の今の巨額な経済対策は、結果的にアジア全体の経済回復に一定の貢献をしていくと思われる。

3,経済危機の将来の趨勢、そしてアジアに対する影響。

 中国においては、今回の金融危機は米国の消費指向や管理機能の不全が原因のように言われることが多いが、これは原因の一部にしか過ぎない。経済のグローバル化と情報技術や金融システム技術の発展は、人類に大きなメリットをもたらした。中国も例外ではなく、グローバルな投資マネーの恩恵を受けて経済発展をしてきたことを忘れてはならない。

 現在の危機は、この人類が生み出したグローバル経済システムの大きな欠陥が露呈してしまったものであり、我々は英知を結集していくつかの欠陥を修復し、正常なものに戻していかなければならない。

 幸い世界のどの国でも、グローバルマネーが行き渡らなくなったことで自国の経済構造を見つめ直す良い契機になり、自国を中心とした環境、エネルギー、社会福祉システム、食糧の問題などにも真剣に取り組もうとするだろう。

 アジアは労働者の質的な高さ、産業チェーンの中での位置づけ、以前の経済危機の教訓などから、今後は世界の経済回復の中心的な役割を果たすことができる。特に東アジアの国々は、産業チェーンにおける各国の役割をお互いにしっかり認識しあい、各国が自国の経済構造の質を高めるように努力することが最も重要であり、そうすることで比較的早い時期に地域として経済危機からの脱出が可能になると思われる。そのためには、日本と中国の役割は我々の想像している以上に重要である。欧米の経済回復状況に関わらず、日中はしっかり連携を取って主体的にこの危機を克服していく必要がある。

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