−蘭州− 黄砂の町、水を求めて闘う町

 私は現在中国の北西部、蘭州市の蘭州大学という大学で日本語を教えている。蘭州市は蘭州牛肉ラーメンという名物があるので、町の名前くらいは聞いた事がある人が多いと思う。この町に私が赴任してからすでに1年半が過ぎたが、以下に蘭州の現状と一つの問題点について書きたいと思う。

 蘭州市は地理的には北西部という区分けであるが、地図で見るとちょうど中国の真ん中に位置する。西安からヨーロッパまで到るシルクロードの中継地点で、東西に流れる黄河に沿って横長の町が広がる。町の周囲には黄土高原が広がり、春には黄砂を含んだ強風で空が黄色くなることもしばしばだ。標高も高いため日差しが強く、夏ならジーンズが1時間で乾いてしまうほど乾燥も激しい。このような環境の下で、市民の生活に大きく影響するのが「水」の問題である。

 先に述べたとおり、蘭州市には黄河という恵まれた水源がある。雨がほとんど降らないため、蘭州は何百年も前から黄河の恩恵を受けてきた。しかし最近は黄河の水位の低下が激しく、大きな問題となっている。地元の新聞によると、去年は黄河の上流(青海省)の一部で黄河の断水が起きたそうである。そして上流地域では、流域の砂漠化が進行している。以前黄河だった場所には無数の穴ができているそうだ。この穴はネズミの巣穴である。ネズミは天敵が特にいないので繁殖し、主に植物やその種などを食べる。そのためこの地はほぼ植物がなくなる。そうすると稀に降る雨水も地下に留めておくことができず、黄砂と共にすぐに下流に流れてしまう。こうして上流部は干からびた土地とネズミだけが残る。このような黄河周辺の環境悪化が、最近急激なスピードで進行しているのだそうだ。現に蘭州市内を流れる黄河は、長江とは比べ物にならないほど貧弱で、日本の町を流れる川と大差ない。

 もちろん、蘭州市でも水の確保の努力はしている。夏の西風が強い日、蘭州市から少し西の空で時々稲妻を見ることがある。そしてその直後に、熱帯地方のスコールかと思うような雨が短時間降る。実はこの稲妻は自然な雷ではなく、人工的に空に放電し雲を刺激して雨を降らせるものらしい。しかし雨が上がって2時間もすれば水溜りも消えてしまう。

3月12日は中国の「植林の日」だそうだ。蘭州市の周辺でも現在植林が盛んであり、蘭州大学でも学生が裏山に植林活動を定期的に行っている。植えた木には黄河からはるばる引いてきたパイプラインで水を与えている。彼らの努力もあって徐々に裏山の木が増えてきている実感はあるが、この木々が根付き成木となるには多くの月日と費用が必要であろう。その前に黄河の水が更に減少し、植えた木にスプリンクラーで撒いている水が止まってしまったら・・という危険性も無いとは言い切れない。

 人工雨にしても、パイプラインにしても、ここでは水を得るために膨大な費用と労力が使われている。しかしそれが無ければ生活する事ができない。古代、シルクロードをヨーロッパへ向かう旅人は、蘭州で西に広がる砂漠を横断するための水分を補充したという。植林した木々が大きく育ち、黄河が再び「母なる河」として豊かな川になることを願っている。

16−1 蘭州大学外国語学院日本語科所属 八田 学