ちんらい日本語キャラバン

「世界で一番美しいものは何ですか。」
 「ええっと,ええっと…,それは…,そ,草原です。」

 これは,3月に北京で開かれた『高校生によるスピーチコンテスト』で,私の学生が言った言葉です。

 私が活動する吉林省鎮賚県は何もない小さな町です。その代わり見渡す限り何もさえぎるもののない平原が広がっていて,夏には一面草原となり,のんびりとした時間のなかで,羊,牛,馬たちが気持ちよさそうに草を食べています。ここに来たことのない人が聞いたら,彼女が考えぬいて答えた「草原」という答えはぴんと来ないかもしれませんが,一度でもここに来たことがある人なら,きっと彼女の気持ちが理解できる,そんなところです。
私は,そんな草原の広がるのどかな鎮賚の町で,高校生に日本語を教えています。それと同時に,時間があるときには初級中学にも行って,授業を見せていただいたり,授業をしたりしています。今回は,その初級中学巡回キャラバンについて少し紹介したいと思います。

 ここ鎮賚県では,現在7校の初級中学が日本語クラスを開設しています。そのうち,町の中にある中学校は2つ,残りはみんな農村の中学校です。私と三中の樋口隊員は,時間があるときにこの7校のうちどこかを訪問させていただき,授業を見学させてもらったり,授業をさせてもらったりしています。歩いて行けるところもあれば,タクシーで1時間半ほどかかる農村のところもあり,遠いところは1日がかりでの訪問になります。

 このキャラバンで最も楽しいのは,生徒たちの笑顔を見るときです。こんな自分でも彼らにとってみれば他の国からやってきた外国人。みんな,私たちがどんなことをやるのだろうと興味津津でこちらを見てくれます。そして,私たちの話すことを一生懸命に聞こうとしてくれます。自分に質問してほしそうに身をのりだしてくる子,目が合うと恥ずかしそうに目をそらす子,本当は何か言いたいけどそうじゃないふりをする子など,いろんな子がいて,でもみんな素敵な笑顔をもっています。そういえば,私も中学生のときに初めて来てくれた外国人の先生の授業では,何だかわからないけどわくわくした思い出があります。そのときの私も外国人の先生から見たら,そんなふうに映っていたのかもしれません。まあ,私の場合は彼らほど純粋ではなかったからかもしれませんが。

さてこのキャラバンですが,私たちの時間があるときしか行けないため,同じクラスには多くても2か月に1回ほどしか行くことができません。だから,私たちの授業は生徒たちに楽しんでもらうことが目的。ビンゴをしたり,背中に文字を書いて伝言したり,どのひらがなも1回しか使えないというルールで単語作りをしたり,とにかく遊んでばかりです。その中で一番大変なのがルール説明。私たちの中国語ではなかなかうまく伝わらず,いつも中国人の先生に手伝ってもらってなんとかわかってもらうという感じです。それでも,やつらルールを守らないこと守らないこと。反則だらけで,何が何だかわからなくなってしまったこともありますが,まあ,楽しめればそれでいいかと思っています。

 そして,このキャラバンがきっかけで,もう1つうれしいことが。ある農村の初級中学の先生が,日本語を勉強するためにわざわざ私たちのところにきてくれるようになったのです。その先生はとても熱心で,授業がない土曜日や日曜日にわざわざ私たちのところに日本語の会話を練習しに来てくれます。私たちにとっても土曜日・日曜日は休みの日なので辛いところではあるのですが,でも,わざわざ来てくれるのに嫌だというわけにもいきません。先生は毎回自分のメモ帳に聞いたことをこまめにメモして,翌週にはちゃんと覚えてきてくれます。その熱心さのおかげで,日本語の力もかなり伸びてきました。先生自身も,最初,なかなか聞き取ることができなかった私たちの日本語が,だんだん聞き取れるようになってきたことを実感しているようで,うれしそうに喜んでくれます。それで,この前はお礼に彼女を探してあげると真剣に言われて困ってしまいましたが。

 私に残された期間はあと1年。これからもこの活動を通して,いい交流ができればと思います。

平成17年度第1次隊 日本語教師 鎮賚県第一中学 近藤智行