朝鮮語を学ぶ漢族の子供たち 

朝夕の風がひやりとしはじめた東北の田舎町、口前鎮、朝鮮族が比較的多く住むこの地域では、9月に入り大量の唐辛子の売り買いが始まった。あちこちに、天日干しの唐辛子で一面真っ赤な絨毯のような風景が広がっている。長くて寒いという東北の冬に向けて準備が始まった。それにしても、エナメルのようにきらきらと光る唐辛子の赤というのは、秋空に映えて本当に美しい。

 鎮全体の人口が4−5万というこの町にやってきて一ヶ月、「田舎で不便!」と思っていたのも束の間、今ではこじんまりとして、のんびりしたこの町の雰囲気がとても気に入っている。日本語教師として赴任した私であるが、元来、中学校で英語教師をしていたため、ここでは日本語の授業をするだけでなく、英語の授業にも参加させてもらうことがある。多くの生徒が「こんにちは!」とか、「Hello!」と言って、元気に声をかけてくれるのがとても嬉しい。学校の紹介も含め、朝鮮族中学の特色を中心に驚いたことや自分の活動などについて述べたいと思う。

「語学教育を突破口として全体教育を行い、一流の朝鮮族としての風格を備える民族教育を行う中学として努力奮闘する。」この標語は私の赴任した中学校の入り口に書いてある標語である。本校では中等部での4カ国語教育(朝鮮語を母語としている生徒に向けての中国語、英語、日本語)が実施されている、高等部へあがる際に英語か日本語かにわかれる。まさに語学教育を軸とした民族中学である。

 開学以来、朝鮮族のための朝鮮族中学であったこの学校が、新しい試みとして今年から高等部に2クラス(約80名)の漢族の子供達を受けいれることになった。高校で英語と朝鮮語が学べるというのが売りである。この漢族の子供達は、朝鮮語は全くの初心者である。授業を何度か聴講させてもらったが、ゼロ初級から始まり週に5時間朝鮮語の授業がある。朝鮮語と英語ができれば将来の就職などが有利になるだろう、と考えての入学のようだ。そして9月1日は漢族と朝鮮族のクラス混合で生徒達の交流会が行われた、午後の一時間を使ってクイズや騎馬戦、風船つぶしなど小さな運動会のような短い交流会だ。すぐに友達になれるわけではないだろうが、交流会は良いきっかけとなったと思う。同じ校舎で二つの民族が共に互いの言語について勉強をすることはとても良いことのように思えた。多くの少数民族が中国語を話すことはできるが、反対に少数民族の言語を漢族が学ぶ、ということは大変貴重なことではないだろうか。この新しい動きは、朝鮮半島との活発な貿易や人との交流がある東北地方らしい特色であると感じる。

 漢族の子供達が毎日ハングルを覚え「発音が難しい」と叫びながらも一生懸命勉強している。そしてその近くの教室では韓国から中国語を学びにきた留学生が授業を受けている。彼らの中国語中級クラスに共に参加しながら中国語を勉強しているが、文法の説明はすべて朝鮮語なので、はっきりはしないまま授業を受けている。自分の日本語の授業の合間に聴講する中国語や朝鮮語の授業。授業準備や作文の採点に追われると聴講を休みたくなることもあるが、自分の協力隊への参加動機を思い起こすことで重い腰が動くのである。

 私は現職の教員として任地希望は「中国」でやってきた。中国語(そして少しでも朝鮮語)を身につけ文化を知り、こちらの生徒と共に時間をすごすことで、帰国後日本に多くやってくる中国人、韓国人の生徒たちの言語面、文化面での摩擦を理解し支えられるような教員になりたいと思ってやってきたのだ。毎日日本語の授業をするだけでは私の夢・・目標に達することはできない。東アジアの交流の橋渡しなんて大それたことはできないが、人や文化の交流の多いこれらの地域での教室レベルでの仲介役となることができればとても幸せなことである。疲れている日も、初心を思い出すことで「さて今日も聴講にいこう!」という気持になれるのである。山登りでもそうだが、目の前の道だけ見ていては途方にくれてしまうことがある、そんな時は遠くの峰や風景を見て次の一歩を踏み出すことができる。長いようで短いであろう任期、何のためにきたのか忘れずに目の前の生徒たちと共に過ごしていきたい。

     18年度1次隊 永吉県朝鮮民族第一中学校 日本語教師 鳴海麻衣子