ナースコールと中国人
私の活動している病院の“張家口市第2医院 内科病棟”の仕事は朝の7:30に始まる。その後、7部屋ある病室を回り29床あるベッドの整理、患者の身の回りの整頓、掃除などを30分で行い、8時からは医師も含めたカンファレンスを行う。その後ほぼ満床である患者に、1人平均2~3本(大体1ボトルには、250mlの点滴が入っている。)ある点滴を準備し、8:30から患者達の点滴が開始となる。その後は、患者達の点滴を更新する事が私達看護師の主な仕事となる。この活動を始めて半年強が過ぎ、今は同僚達と日々スムーズにこの流れを実施している。しかし、この日々の活動の中でも驚く事や学びとなる事がある。今日はその一つを紹介しようと思う。
中国の病院にも、日本と同じ役割を持つナースコール(患者のベッドサイドに設置されている押しボタンの事。患者が看護師に用があるときに、このボタンを押すと看護師と連絡が取れる)が設置されている。そのため、患者は点滴がなくなるとベッドの上にあるボタンを押し、点滴の更新を看護師に知らせる仕組みになっている。多くの方がご存知のように、ナースコールとはそのボタンを一度押せばメロディーが流れる。(時にベッド上のボタンの接続が悪く、押しても鳴らない時もあるが、大体一度押せばそのメロディーなどが鳴るようになっている。)ここ中国では、♪ハッピバースデイトゥーユゥー♪がナースステーションから一番奥の病室まで聞こえるほどの音量で鳴り響く。どこの病室から鳴っているのかを確認し、うるさいのでその音楽を消してから点滴の更新のために向かうのだが・・消音のボタンを押しても一度でそのメロディーが鳴り止む事が無い。初めは私の消し方が悪いため、その大音量のコールが消えないのだと思っていたため、一生懸命にその音楽が消えるまで消音ボタンを押していた。ある時は、最初にそのメロディーを聞いてから3分間消し続けた事もある。やっと消音できたと、点滴を更新する準備をしていると、先ほど私と共にナースコールで戦ったであろう、患者の家族がナースステーションに来て、「106号室の2番ベッドの点滴が無い。」と教えてくれる事が日々ある。そして、病室で点滴を更新しているとその患者や家族が「ナースコールは鳴ったか?聞こえていたか?」と私に問う。鳴っていたから、心配しないで。と言うと「でも、呼んでから来るのが遅かった。点滴が無くなると空気が体に入ってしまいそうで凄く心配だし、怖いんだよね。」と言われる事が多々あった。
初めは、私の消音のやり方が悪いのだと思った。しかし、ここでの活動にも慣れてきた頃、他の患者の点滴を更新しナースステーションに戻る時に、私はその現場を何度か目撃する事が出来た。点滴が無くなった患者に付き添っている家族、または患者自身が、ベッドの上についているボタンを爪の色が変わるほどに力を入れて押し続けている姿を・・その後は、同室の他の家族や患者達も一緒にナースコールを押していた。
この光景を見た時には、驚き、言葉をも失ってしまった。しかし、その後私なりに考えてみた。日本でも時に認知障害などのある患者においては、ナースコールが鳴り止まないと言う事がある。しかし、点滴の更新で看護師を呼ぶときにここまで、必死になって看護師を呼ぶ姿を見た事があっただろうか?そして、ある付き添いの家族は、点滴を受けながら休息している患者の横で、半分以上点滴薬が残っているのに、2〜3分に一度は点滴があるかどうか、滴下しているかを自分で確認している。
その姿を見たときに、中国での患者や家族の“自分の事は自分で守り、お互いに助け合う。”と言うか、彼らの“志”に触れたように感じた。しかし、一番短くても2時間程度かかってしまう点滴の間、気の抜けない患者や家族を思うと、(患者は、具合が悪く、家族は、心配でしかたない。)点滴の事で気を使わせる事を、とても心苦しく感じている。そのため、私達が関わる事で少しでもその負担を軽減できるように、日々同僚達と一緒に活動を進めている。今後も、“安心と信頼が置ける医療現場“を目指して、同僚達と切磋琢磨していきたいと思っている。
張家口市第二医院 看護師隊員 三瓶久美子