延辺朝鮮族自治州というところ―後編 

確かに朝鮮族の彼らは小学生の頃から公用語として中国語を学び、母語と併用して来たために特に聴解には苦労せず2言語を使い分けているように見える。しかし彼らの使う中国語は「朝鮮族の使う中国語」である。例えば中国語の疑問文には2通りの形がある。有無を確認したい時「有没有〜?」と「〜有吗?」、日本人が日本語の語順と同じように単語を並べるとどうしても後者の形になってしまうが朝鮮族も同様なのだそうだ。前者が「漢族の使う中国語」だ。

また母語である朝鮮語も「中国の朝鮮族が使う朝鮮語」なのだ。彼らの会話をよくよく聞いてみると所々に中国語が単語の形で入り込んでいる。朝鮮語での言い方を知らないわけではないが延辺の朝鮮族の間ではその方が通じる、あるいは中国語の方がニュアンスを良く表せるなどの理由からだ。また実際、朝鮮語での言い方が分からない単語もあるらしい。

虻蜂取らず、ではないが両言語を各々の母語話者同様に操れるわけではないのだ。また朝鮮語と日本語は文法上似ていることから日本語の習得も非常に早い。中国語で話すより日本語で話す方が楽だ、と同僚の中国人教師が言っていた。それでもどんなに日本語に精通した学者でも日本人同様に話せるわけではない。

上記の事柄は客観的な事実であるがもちろん全ての延辺朝鮮族にあてはまるわけではない。朝鮮語、中国語両者を流暢に使い分けられる学生もいる。主観的な意見を言うと、バイリンガルでもない日本人(私)から見て、完璧ではないにしても3言語を使いこなせる彼らの能力は賞賛に値するし、日本企業にも今以上に評価されるべきだと思う。延辺州朝鮮族の日本語能力は日本での知名度が低すぎるのではないか、とまで肩入れするのはやりすぎだろうか。

学生に将来何をしたいかと聞くと「給料の高い仕事」「日系企業で働く」という答えが非常に多い。実際に延辺大学日語系の学生は卒業後、過去5年を平均して20%が日本留学、大学院へ進学し、80%が就職する。その中でも日系企業に就職した者が勝ち組とされる。日系企業への就職率は5%弱である。

中国の発展に伴い日本企業が続々と進出してきている。特に西岸地域では日本語人材が不足しているらしい。今年の6月であるが日本のコンサルティング会社が延辺州の視察に訪れた。延辺朝鮮族の日本語人材を調査する目的であった。日系企業、州労働局、延辺教育学院、そして延辺大学でヒアリングを行い、レポートをまとめている。その中で延辺大学の項目に「卒業生の就職について:インターンシップでそのまま採用という方法も考えられるのでは」との所感があり、学校側も歓迎の意を表している。これが現実となれば延辺の日本語人材の知名度も上がり可能性が大幅に広がるだろう。

他の中国各地方同様、延辺州内中等教育でも日本語のクラスが削減されてきている。3年後には州内の高級中学で日本語を学ぶ生徒は全くいなくなる。一見衰退しつつある延辺の日本語教育であるが、日本語を使う仕事への就職率が上がれば延辺大学や他の教育機関で日本語を学ぼうとする学生数は、今後増えこそすれ減少することはないだろう。上記のインターン制度が実現され、軌道に乗るまでにはもう少し時間が必要だ。それまでに延辺朝鮮族のレベル高い日本語人材、また潜在的な可能性を引き出すために出来ることはないか。今、それを模索しているところだ。

吉林省延辺大学外国語学院日語系 日本語教師 山口恵美湖