同僚と一緒につくる授業

 私は新疆ウイグル自治区アクス市アクス職業技術学院医学系に看護学教師として配属された、青年海外協力隊看護師隊員です。中国の協力隊員の中では最も西部の隊員で北京事務所から最も離れた任地です。

 まずはアクスと配属先を紹介します。アクス地区はシルクロード(南山北路)の一つの街で、クチャへは車で3時間、タリム河へは車で2時間半で行け、観光地へも比較的近いです。夏にはたくさんの日本人観光客が訪れます。北は天山山脈、南にタクラマカン砂漠、南西にはタリム河が位置しており、キルギスタン国境まで200qの所にあります。少数民族(ウイグル族が大半を占めます)色の強い地域です。アクスとは、「白い水」という意味で、砂漠気候ではありますが、水が豊富で農作物では米と富士リンゴが有名です。任地では初めて長期滞在する日本人という事でとても大事にされています。

 配属先の学校は2003年3月に、アクス地区の6つの中等専門学校を合併し、職業技術学院として設立されました。医学系・生物化学系・器械電力水力系・コンピューター系・経済管理系・基礎部の6つの教育部門があります。

 配属先は医学系の看護学校で、医学系学生総数は約2400人で看護科・助産科・薬学科・歯科衛生学科に分かれています。少数民族(主にウイグル族)は学生全体の8割を占めています。現在39クラスあり、中卒後3年・5年クラス、高卒後3年クラス、更に漢民族と少数民族(以後「民族」と記載)クラスと複雑に分かれています。また民族クラスは、1年時中国語を学ぶので漢民族より1年就学年が長いです。

 私は「基礎看護学」の担当をしています。中卒後4年普通助産科(04−9班)と高卒後4年高等看護科(04−5班)の2つの民族クラスの看護技術を、各クラスの看護学教師(共に20代前半の教師、以下同僚とする)と一緒に2人ずつで授業をしています。私の担当は主に校内実習担当で、実習時看護技術のデモンストレーションを行い、その後グループに分かれて練習してもらい実習指導を行っています。

 任地に来てすぐ気になっていたのは、学生の実習時の服装や態度でした。実習態度と実習スタイルについて良い悪いの写真を撮って比較したパワーポイントを作り、実習前にオリエンテーションを行っています。学生の実習スタイルや実習態度はだいぶ良くなってきています。同僚と相談して日本ではピアスは厳禁なのですが、アクスでは民族性も考慮して小さいピアスは可にしています。

 また任地の看護学校には清潔行為の習慣の違いもあり、日本では必須の日常生活援助の実習が「口腔ケア」のみになっています。同僚と相談したところ「床上洗髪」「全身清拭」を実演だけですが2クラスの実習に導入することになりました。

 床上洗髪は、一般的にはケリーパッド(馬蹄形のゴム製で空気を入れて使用するもの)か洗髪車(電動シャワー付き)で実施しますが、学校には洗髪の実習がないので物品が無く、今回の実習では新聞紙を使って丸めて芯を造りタオルで保護し大きいビニールをかぶせバケツへ排水する方法「自家製ケリーパッド」を使っての授業を行いました。また実演の授業では出来るだけ実際に近い方法で行うのが良いとされていますが、任地では模型を使うことがほとんどです。

 先日04−9班での床上洗髪のデモンストレーションでは実際に学生に患者モデルとなってもらい、床上洗髪を体験してもらいました。モデルの学生は緊張しており、ガーゼ越しに目をうっすら開けて操作を確認していました。見学していた学生達も興味深く洗髪の操作をじっと観察していました。また洗髪方法(頭皮マッサージの方法)の表を作り、実施時にその表を見せながら説明を加えました。説明の足りない部分は同僚に補足してもらいました。練習の成果もあり患者モデルの学生への洗髪は、衣服を濡らすことなく実施出来ました。終了後モデルの学生も安心した様子でした。

 この授業を通してモデルの学生は床上洗髪される患者体験が出来、患者心理の理解が深まったと思います。また見学していた学生も、実際に床上で洗髪する時の注意点も理解しやすかったと考えます。実施後の同僚からの意見として、今後もこのような実習の機会(新しい実習の機会)を設け、一緒に勉強していきたいとのコメントをもらいました。

 デモンストレーション時特に注意していることは、模型であれ患者に対する「実施前に患者確認と実施説明、操作の同意を得る」「実施後のねぎらいの言葉がけ」です。これは日本と中国で共通している「患者中心の看護(中国では整体看護)」ですが、なかなか実際の臨床では行われていないが現状です。毎回実習時この点を強調して指導しています。この患者に対する声かけ、同意を得る、実施後のねぎらいの言葉は同僚にもだんだん浸透して来ており、彼女達も授業時に学生に「患者への声かけ・説明」を実施するよう指導するようになってきました。とてもうれしい事です。

 日本の臨床現場における先進的な技術や看護理念の紹介との要請で配属された為、赴任当初は日本の看護の紹介をメインに考えて実施していました。しかし将来学生達が臨床で使うのは、中国の看護です。看護は生活や文化・風習に密着しているため、日本の看護をそのまま導入しようとしてもダメなことを学びました。日本の看護の看護紹介は、まずは中国の看護を理解し、次に日本の看護と比較して更に同僚と一緒にクラスを担当し、同僚と一緒に最良の教育方法や内容を考え計画する、そして理解を得て一緒に行う。同僚の理解を得ることで、スムーズに授業ができ、協力も得られ学生にも伝わりやすい授業になっています。この同僚と一緒に考えて作る授業は、赴任して約一年かけ中国の看護を理解し、またいろいろと失敗しながら学習し、学ぶ事が出来たのだと思います。準備や練習に時間がかかり忙しいですが、毎日が充実していてとても楽しいです。

 残りの任期は7ヶ月ですが、今後も同僚と一緒に考え協力し合いながら、同僚や学生たちへ「患者の立場に立った看護(患者心理の理解)、患者中心の看護」を伝えていきたいと思います。また学生達を空きさせない興味を引くような授業にしていきたいです。

平成16年度2次隊 看護師隊員 アクス職業技術学院医学系 石山洋子