演劇発表会
「チッ!うるさい!邪魔するな!」
突然のこの言葉に、同じ教研室にいた中国人の同僚が、驚いてこっちを見た。
もちろん、私がこの言葉を言ったのではない。この声の主は学生である。
私が、古都洛陽にある河南科技大学の日本語科に赴任してから、すでに一年半の月日が流れた。学年末である6月に会話の授業の総まとめとして、演劇発表会を行うことにした。そのため、発表会前には、学生が教研室までその台詞の練習に来ていたのだ。
今回演劇発表会に参加したのは、1年生と2年生。二年生は、去年も演劇発表会をやったので、慣れたもの。
去年の発表会の時は、「日本語で劇なんて無理です」なんて言ってたのに、当日は堂々と演じきった。演劇発表会の告知をすると、早々と台本作成にとりかかった。台本の締め切りの二週間も前に提出したグループもいた。むしろ、「先生、時間がありませんから、早く台本をチェックしてください!」と、私のほうが急かされてしまった。
一方一年生は日本語を勉強して一年足らず。「全部日本語でやりますか?」「台本は自分で書きますか?」「台詞は全部覚えますか?」演劇をやるのも初めてで、ましてやそれを日本語でやるなんて、非常に不安そうだった。ところが、台本ができあがるにつれて、学生たちにエンジンもかかっていき、二週間前には台詞を覚えきっていた学生も少なくなかった。
発表会当日。二年生は、中国の伝統的な衣装を街中で借りてきて使うなど衣装や小道具、それにBGMにも気合が入っていた。去年の発表会ではここまでの準備はなかったが、やはりその経験が生かされているのだろう。そんな二年生の姿に触れた一年生は、「来年はもっとおもしろい劇をします!」と言ってくれた。
そして、私が一番驚いたのは、いつもの授業では声が小さく、なかなか自分から積極的に発言することのない学生たちの熱演である。授業では見られない、学生たちのキラキラした姿だった。私が授業でまだまだ引き出せていない、彼らの一面がしっかりと出ていたのだ。
学生の生活は忙しい。朝7時から音読をし、8時から授業。夜も夕飯後は自習をする。土日も選択授業などで、休みがつぶれることが多い。アルバイトやサークルに精を出していた私の大学生活とは全く違う。
そんな学生達の生活の中で、このような活動は、日本語学習のためだけではなく、大学時代の一つの思い出として残ってくれればと思う。卒業しても、日本語と離れたとしても、日本語で熱演したことや、日本人と関わったことが、出来事だけではなく、その時の気持ちとともに、彼らの心の中に残ってくれたらと思う。
そして、私は残された半年という期間を、学生たちとどっぷり向き合って、互いのいろんな面を見つけあっていきたいと思う。(2007年7月)
河南科技大学 日本語教師 野口祐子