貴州省で種をまく

 水曜日、午前7時。中国南部とはいえ、貴陽市は雲貴高原の東に位置している。この季節の朝はまだ肌寒い。今日は私が住んでいるキャンパスでではなく、スクールバスで40分ほどの別の校舎で授業があるため、停留所へ急ぐ。途中、図書館を横切る。その前には広場があり、学生たちがさまようように歩いている。ある学生は英語のフレーズを、またある学生は日本語の文章をつぶやきながら。

 誰が話したことだったかはっきりと覚えていないが「中国の学生は放課後になると校庭で輪を作るように歩きながら教科書を朗読している」という話を聞いたことがある。そのときは話半分に聞いていたが、多少の違いはあれど、実際に目にしたときは衝撃的な光景だった。もちろん、学生がみなそうであるとは限らないと思うが、早朝から勉強に励んでいる姿を見ると、学生の本分をまっとうしているなあ、と感じてしまう。そう感じるのは、きっと私が学生の本分をまっとうしてこなかったからなのかもしれない。

 私の配属先である貴州師範大学の日本語学科は2004年に設立された。卒業生はもとより、4年生もいない、新しい学科である。学生は上記の例にもれず、大部分が勤勉な学生である。しかし、学科の歴史が浅いゆえの弱点か、日本語の書籍の絶対数が不足している。現在の最高学年である3年生は、来年度には卒業論文の執筆が控えている。初代隊員として、まずは図書の充実が私の使命と考えている(図書の現状について、この文章および写真をご覧になって関心をお持ちになった方、是非お力添えをください)。

 最近、課外活動の一環として邦画の上映会を始めた。学生たちは感情を素直に表す。感動的な場面であれば嘆息し、面白いシーンでは、次のセリフが聞き取れなくなるほど大笑いする。見せる側としてもやりがいがある。映画で表現されている日本はほんの一部分でしかないが、日本についての情報が少ない貴州省において、鑑賞を通じて何かを感じ、そのことが日本の理解、また日本語学習へのモチベーションの向上につながってくれればと思う。

 貴陽市に来て2ヶ月半、日本語教師としての活動が始まって1ヶ月半が過ぎた。おそらく2年間の任期はあっという間に過ぎるのだろう。そのとき問うのかもしれない。「私は彼らのために何かを成し遂げたのだろうか」と。しかし、それは私が出すべき答えではなく、学生を始めとして、私の活動に関わってくれている人たち、そしてこれから関わってくれるであろう人たちが出す答えなのだろう。たとえ私がこの地にいる間にその成果を目にすることができなかったとしても、いつか結実することを信じて種をまきつづけていきたいと思う。

18年度2次隊 貴州師範大学 日本語教師 益子 曉