中国の可愛いものを版画で紹介する丁未堂さん

胡同の芸術家~その弐~

人民網日本語版 2023年08月03日13:09

鳥かごと団扇を手に持ち、ゆったりとしたランニングシャツに半ズボンという北京下町のおじさんの「夏の定番コーデ」のパンダや、ビール樽の上でビールジョッキを掲げるパンダ、清代コスプレで故宮にたたずむパンダなど、版画家・丁未堂さんの作品の中のパンダたちにはどれも「クスッ」とさせられてしまう。北京市の歴史ある胡同・楊梅竹斜街にあり、ワークショップなども体験できるアートスペース「乾坤空間」で作品を発表している丁未堂さんの中国に対する思いや創作活動などについてお話を聞いた。人民網が伝えた。

丁未堂さんのパンダシリーズポストカード(撮影・玄番登史江)。

丁未堂さんのパンダシリーズポストカード(撮影・玄番登史江)。

年画とポスター版画に魅せられて

北京市にある中央美術学院の修士課程で3年間木版画を学び、その後も北京で創作活動を続けている丁未堂さんが中国に来たきっかけの1つは、天津郊外の楊柳青という場所で作られている木版年画だったという。年画とはプクプクと太った妙にリアルな子供が金魚やら桃を抱えている姿や縁起物などが色鮮やかに描かれ、春節(旧正月)に家の室内や玄関などに飾る絵だ。そして中国の解放前後に作成された白黒の版画もまた丁未堂さんを惹きつけてやまなかったという。それを描いていた教授が中央美術学院にいたため、その教授に師事するため、中国にやって来たのだという。

丁未堂さんの版画作品「お正月の駅」(丁未堂さんご本人提供)。

丁未堂さんの版画作品「お正月の駅」(丁未堂さんご本人提供)。

タイムスリップできるなら中国の漢代に!

「中国美術はどれも色がすごく強いと思います。作品からバーンと出てくる生命力があります」と中国の美術はどれもすごく魅力的と話す丁未堂さんだが、なかでも特に好きなのが漢代の画像石(墓室の壁の部分に彫られた彫刻)なのだという。また漢代の墓の前に並ぶ石像や副葬品も好きだということで、「私は中国のどこかの時代にタイムスリップできるなら一番行きたいのは漢代です。色も形もシンプルながら3千年も4千年も経っても、まだまだ作品が主張してくる力を持っていて、そうした美術品を作りあげた審美眼が多分今の中国の全ての美術の源流になっていると思います」としている。

刷り上げた作品と版木(撮影・張若涵)。

刷り上げた作品と版木(撮影・張若涵)。

創作におけるイノベーション

パンダシリーズを始め、丁未堂さんの作品は伝統工芸とトレンドを見事に組み合わせた作品が多いと感じるが、その点に関しては、「自分勝手なようですが、私にとって創作は自分の技術との闘いです。それを通して皆さんに楽しい気持ちになっていただきたいという気持ちはもちろんありますが、トレンドを意識して追っているのではなく、興味を持っている素材や出会ったテーマを使うことで、私がこれのために何ができるかなという視点から作ることが多いです」としている。

現在は「チョマ」、日本ではカラムシと呼ばれている木綿以前の繊維を使用した作品作りに挑戦しているが、「特にイノベーションという自覚はなく、この生産量が激減しているチョマの絶滅の日が1日でも延びるかも」という気持ちでモノづくりをしているのだという。

丁未堂さんの版画作品「花嫁行列の車」(丁未堂さんご本人提供)。

丁未堂さんの版画作品「花嫁行列の車」(丁未堂さんご本人提供)。

王京さんから見た丁未堂さんとは?

そんな丁未堂さんの創作活動に対する真摯さと情熱について「乾坤空間」のオーナーである王京さんは、「丁未堂さんのパンダシリーズはとても人気があるんです。とても特徴的で、その難易度も高いです。彼女の作るカードは全て木版画印刷で、手作業で版木を彫り、印刷していきます。そのため、全く同じデザインのカードを見つけることはできないと言っても過言ではありません。これほど工業化が進んでいる現代において、極めて伝統的な方法で工芸作品を表現しているのです」としている。

そして長年にわたり創作を続ける丁未堂さんから聞き、王さんがとても印象的だったというこんなエピソードも紹介してくれた。「丁未堂さんは中央美術学院に在学中、クラスの大半を占める中国人のクラスメートから『外国人留学生は中国に来て学んだとしても、帰国してしまうし、日本人女性の場合、結婚したらほとんどが仕事をしないそうだから、帰国したらあなたは多分木版画から離れてしまうでしょう』と言われたそうです。でも彼女はその日、私たちにこう言ったのです。『私のクラスメートのほとんどが今はもう木版画から離れてしまったけれど、私は卒業から今までずっとこの道を進み続け、しかも自分のスタイルを見つけることもできました』と。彼女は中国で多くを学んだだけでなく、この国にも多くを捧げ、貢献してくれていると思います。そしてこれらは人々の尊敬を得るのに値することだと考えています」と王さん。

「若い人たちへのバトンタッチは年長者の義務」を実践

丁未堂さんは自身の創作活動のほか、「乾坤空間」で木版画や伝統工芸などのワークショップも開き、若い人たちにその技術を紹介している。以前は次の世代に残すことは一つの責任だと思いつつも、明確に意識したことは無かったという。ただある時、「乾坤空間」での雑談で、「若い人たちに確実にバトンタッチするのは我々年長者の義務である」という話になり、「私たちもどんどん年を取るし、私も人に教えるほどの技量は自分には無いと思っていたけれど、折角貴重な先達の皆さんが残してくれたものを少しでも若い人たちにバトンタッチしなくてはと思い、今はワークショップを開いています」と話す。そして今後については、「やりたいことはたくさんあるのですが、さしあたっては1枚でも多く木版画を作って、自分の技能力も上げて、そしてそれを私もやりたいという人たちにお教えすることを1つでも多くこなしていきたいです」とその展望を語った。(文・玄番登史江)

「人民網日本語版」2023年8月3日

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