原発汚染水をこのまま海に流しても本当に大丈夫なのか?
抗議の声が収まらない中、結局、福島の「あの水」は海に流された。
筆者は日本のマスコミに関心を払ってきたが、今回、日本のマスコミでは誤解を招くような主張が大量に出回っており、人々を誤った方向に導いている。立ち位置によって見方は決まるものだが、理性的な人であれば科学的常識や社会の共通認識から大きく逸脱する考え方はしないはずだ。すでに原発汚染水の海洋放出が始まった今、いくつかの根本的な問題について理非曲直を再び正す必要がある。
(1)なぜ「原発汚染水」と呼ばなければいけないか
福島原発事故で生じた汚染水は溶融した炉心に直接触れたものだ。世界の多くの科学者は、こうした汚染水には64種もの放射性物質が含まれており、ALPS(多核種除去設備)で完全に取り除けないことが共通認識となっている。東京電力(東電)はALPSを通じて規制基準を満たすまで浄化処理できると言い張っているが、実はトリチウム以外の核種の多くは現在のところ取り除く技術がない。このALPSという装置は稼働開始前に十分な試運転を経ておらず、理論上のデータだけでこれほど厄介な原発汚染水の処理に使用されてしまった。東電のデータによると、現時点でALPSで処理された水の約7割は依然として規制基準を超えている。ましてや、「基準以下」というのはなくなったということではなく、どれだけ希釈しても放射性物質の総量が減るわけではない。
よって、「処理水」という言い方は概念のすり替えであり、海洋放出されたのは正真正銘の原発汚染水である。
(2)放出された原発汚染水は危害を及ぼすのか
東電は、ALPSはこの先30年あまり効果的な運転が可能で、60余の核種を取り除いて安全な水にできるとしている。これは科学的には誰も保証できない。また、日本は「トリチウムだけが問題」であるかのようにミスリードし、他の核種については言葉を濁している。放出された汚染水は今後も循環し続け、世界中の海の隅々まで広がり、海の中の放射性物質は食物連鎖によって濃度が高まり、人が摂取した結果大きな被害をもたらすかもしれない。汚染水の長期にわたる大量放出は、全人類と海洋環境に対する生化学実験であり、その結果は予測不可能で取り返しもつかないものだ。災難レベルの影響が発生した場合、誰が責任を負うべきであり、誰が責任を負うことができるのだろうか。
しかも、日本の現在の検査プランは系統的かつ包括的ではなく、現在発表されているモニタリング方法やモニタリングデータだけに基づき、海洋放出が安全で無害であると主張するのは説得力がない。データのほとんどは東電自身によってサンプリングされて検査が行われ、結果が発表されているが、東電はデータの改ざん、隠蔽、虚偽のデータ報告という不誠実な行為を行っており、とうに世界からの信頼を失っている。自分に有利な証拠だけを開示し、自分で自分を評価するやり方で、公正さや公平さを保証できるはずはない。
(3)IAEAの報告書は海洋放出の「許可証」になるのか
日本は国際原子力機関(IAEA)の汚染水海洋放出に対する「理解」と「支持」を頻繁に取り上げ、「許可証」にしようと企てている。IAEAの発言を見てみると、同機関は、報告書は原発汚染水の海洋放出に関する政策勧告ではなく、放出を承認したわけでもないと繰り返し強調しており、「これに関して責任は負わない」と書いているようなものだった。さらに詳しく見てみると、 報告書は海洋放出の場合のみを評価し、他のプランについては評価していない。また、主に日本の現在の管理措置が安全基準を満たしているかを評価するものであり、結果の評価ではなく、ましてや長期的な結果については評価していない。さらに、主に日本から提供されたデータや情報に基づいた判断であり、独立した完全なサンプリングとモニタリングは行われていない。
IAEAの技術タスク・フォースに参加している中国原子力科学研究院の劉森林研究員によると、この報告書はIAEA事務局長の名義で公表されている。IAEA事務局は報告書草案についてタスク・フォースの専門家に意見を募ったが、専門家に与えられた期間は限られたものだった。事務局はフィードバックを受けたものの、報告書の修正や意見の採用について専門家らと再度議論し合意を得ることなく、性急に報告書を公表したという。
(4)福島の原発汚染水は他国の原発の廃水と同じなのか
日本は自身が潔白であると主張するために、科学的常識を無視して他国を中傷し、中国や韓国の原子力発電所からの廃水放出を繰り返し取り上げている。福島原発の汚染水が原子力発電所の通常稼働による廃水とは根本的に異なることは、基本的な科学的常識である。原子力発電所の冷却水は密閉された炉心の外側を循環しており、核燃料と直接触れないものだ。例えて言うと、原発の廃水が卵をゆでる水だとすれば、福島原発汚染水は卵スープだ。両者の放射線被曝量、放射性物質量、危険性には雲泥の差があり、両者を混同することは馬鹿げた話で、人々を馬鹿にするようなものだ。
(5)国際社会のほとんどが海洋放出につい「理解」しているのか
日本のメディアは、国際社会のほとんどが海洋放出を理解し、受け入れていると主張しているが、おそらく日本のメディアからすれば、米国など一部の国だけが「国際社会」なのだろう。世界には200近くの国々があるが、原発汚染水の海洋放出を支持している国々はごくわずかである。ロシア天然資源省は、海洋放出により、地域諸国は海洋環境と生物資源における放射性物質状況の監視規模と強度を拡大する必要があると述べた。韓国首相は、海洋放出された日本の原発汚染水で検出される放射性元素が濃度基準に合っていないことが判明すれば、直ちに日本に放出の中止を求め、国際訴訟を起こすと述べた。韓国の共に民主党は、原発汚染水の海洋放出は「環境テロ行為」だと指摘した。ドイツ環境相は、海洋への法外ないかなる放射性物質放出行為も厳しく批判するとし、海洋放出は他の手段を尽くした後にやむを得ず行うものであるべきで、科学に基づいて実施し、プロセスの透明性を保たなければならないと表明した。ソロモン諸島首相は日本の原発汚染水海洋放出決定に強く反対し、ソロモンの国民、海、経済、暮らしに影響を与えるとした。バヌアツ副首相兼外相は日本の海洋放出を阻止することを呼びかけた。類似した声は他にもたくさんある。これほど反対が広がっているのに、日本政府はなぜ全く耳を貸さないのだろうか?
日本の原発汚染水の海洋放出を「評価する」コメントを発表した米国ですら、今年上半期に日本からの農林水産物の輸入が減少したと報道している。日本は米国に何を心配しているのかと尋ねてみてはどうか。
日本国内でも、反対の声は現在に至るまでも収まっていない。数年前、日本政府と東電は、関係者の了解なしには原発汚染水のいかなる処分も行うことはないと約束した。今に至るも、漁業関係者は同意していない。それにも関わらず、原発汚染水は海洋放出された。約束はどうなったのか?信用はどこへいってしまったのか?
(6)海洋放出以外には選択肢がないのか
これは明らかに違う。日本が自身で行った検討報告書にも、以下の6つの案が示されている。
【第1案】原発汚染水を希釈または放射性物質を分離した後に海洋に放出する。想定費用は34億円。
【第2案】原発汚染水を蒸発させて、排気管を通じて大気中に放出する。想定費用は349億円。
【第3案】原発汚染水とセメントなどの材料を混合し固化させ、地下に埋設する。想定費用は2431億円。
【第4案】原発汚染水を深さ2500メートル前後の地層中に注入する。想定費用は少なくとも180億円。
【第5案】原発汚染水を電気分解し、生成された水素を大気中に放出する。想定費用は1000億円、106ヶ月間を要する。
【第6案】貯蔵タンクの増設、コンクリート固化などの方法で、原発汚染水を陸上で長期保管する。
IAEAの報告書では、海洋放出と水蒸気放出はどちらも実現可能だと指摘。固化技術が非常に成熟した国は多く、さまざまな解決策を提案している世界中の専門家も多くいる。より安全な解決策があるにも関わらず、日本は最もコストが低い海洋放出を選択した。現在の日本政府にとって、全人類の健康と安全、そして海洋環境の安全の価値は、このコストの差にしかならないのだろうか?
質問は以上の6 点だ。実は、状況はまったく複雑ではない。公平性を重んじているのであれば、自ずと科学的かつ合理的な判断を下すはずなのだ。日本政府はこれらの問題をごまかして切り抜けようとしているが、まさに「頭隠して尻隠さず」と言える愚かな行為だ。
「日本政府による海洋放出の決定は本当に大丈夫なのか?パンドラの箱が開けられた今、日本に未来はあるのか?子々孫々に未来はあるのか?」と日本の人々も心の中で問いかけざるを得ないだろう。
まず、日本製品は「放射性物質汚染」のレッテルを脱却できなくなる。日本政府はここ数日、中国政府の日本産水産物全面輸入禁止に衝撃を受けており、「砂の中に頭を隠すダチョウ」のように、現実を直視しようとしていない。中国は終始一貫して、海洋放出に反対の態度を変えていない。しかも中国だけでなく、日本は国際社会全体の疑念や反発も無視している。今回の事件は日本製品の評判を落とす決定的な出来事になると筆者は大胆な予測を立てている。水産物だけでなく、日本製品すべてが「放射性物質汚染」のレッテルを貼られることになるだろう。日本産業界が何世代にもわたり、そして数十年にもわたって積み重ねてきたものが、このパブリックイメージの災害レベルの大幅低下により一気に崩れる可能性も十分にある。
次に、安全保障上米国に縛り付けられていることである。周知の通り、世界が正しくないと言っていることを日本があえてやるのは、米国の支持を得たいためだ。ただし、どんな事にも代償がつきものだ。米国の戦車にきつく縛り付けられている日本は、戦略的な余地を失うことになる。米国の覇権はいずれ終わりを迎えるが、この先30年間日本を支え続けることはできるのか?その時、日本はどう対処すればいいのか?
最後は、道義上の歴史的負債である。日本はかつてアジア及び世界の人々に多大な苦痛を与えた。日本が原発汚染水の問題で独断専行し、再び禍の元になれば、歴史の恥辱の柱にきつく縛られ、これから終わりのない責任追及に向き合わなければならなくなるはずだ。大和民族は人類の歴史にどう記されることになるだろうか?
覆水盆に返らずということわざがある。こぼれてしまった水を元に返すにはもう遅いかもしれないが、こぼすことをやめることはできるし、やめなければいけない。日本に残された時間は少ない。(文・周亜欣/国際関係学者)
「人民網日本語版」2023年9月4日
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