北京の故宮博物院に収蔵されている北宋の絵巻物「千里江山図」を舞踊で表現する舞踊詩劇「只此青緑」は、2021年に上演が始まって以来、その独特な芸術的な魅力と奥深い文化で、瞬く間に社会的に注目を集めた文化作品となり、より多くの人々がそのインスピレーションの源となった「千里江山図」や、その背後にある中華伝統文化について理解を深めるきっかけとなっている。その後、同作品は「只此青緑(日本語タイトル「千里江山図」)」というタイトルで映画化され、11月に開かれた第37回東京国際映画祭で特別上映された。中国の美しい自然を表現した舞踊は日本の観客たちを感動させることができるのか?中国の物語を同作品はどのように発信しているのだろうか?「只此青緑」をプロデュースした中国東方演芸集団有限公司の党委員会書記を務める景小勇董事長や主要キャストが人民網のインタビューに答え、同作品に込められた中華民族の精神及び制作の過程における思いなどについて語ってくれた。人民網が報じた。
質の高い文化作品を制作して、民族の精神を発揚
中国東方演芸集団有限公司の党委員会書記を務める景小勇董事長(写真提供・中国東方演芸集団)。
景董事長は、「多くの観客が『只此青緑』を見て、心を動かされるのは、そこに込められた奥深い文化と密接な関係がある」とした。「只此青緑」は、中国の山水画の代表作である「千里江山図」からインスピレーションを得ており、中国の伝統的な絵画における余白の空間に込められた奥深い画境や、天と人は本来一体であるとする「天人合一」の哲学思想と、優美で躍動的な現代舞踊芸術をうまくコラボレーションさせている。「千里江山図」は、山や川、花、鳥、魚、虫を繊細なタッチで描き出し、中華民族が古くから追求してきた「人と自然の調和ある共生」という思想を表現している。山や川といった大自然に込められた開放、包摂、不屈といった民族の精神も、舞踊で余すところなく表現されている。「只此青緑」は、伝統文化の伝承であるだけでなく、伝統的な芸術のイノベーションでもあり、現代的な芸術の手法で、「千里江山図」に込められた文化と精神を表現し、伝統文化に新たな息を吹き込んでいる。
また「只此青緑」を映画化するという革新的なプロジェクト実施の背後には、たくさんの思惑があったという。景董事長は、「米国やインドといった国には代表的なミュージカル映画がある。当社は中国全土、ひいては全世界の人々に中華の文化と芸術をPRするという使命を担っており、中国独自の特色あふれるミュージカル映画を制作する責任があり、それを実行する能力もある。映画は、より広範囲にわたる影響を及ぼし、より多くの人に触れてもらい、中国の伝統文化を理解してもらうことができる。また舞台芸術を映画化するというのは全く新しい試みで、芸術スタイルのイノベーションを促進し、観客により豊かな鑑賞体験を提供するものだ」とした。
「只此青緑」は中国国内で大きな注目を集めただけでなく、世界でも高く評価されている。ロシアやトルコ、シンガポール、日本など国や地域で舞踊詩劇や映画の上演が行われた。景董事長は、「『只此青緑』が海外でも好評を博したことは、中国伝統文化は強い生命力と影響力を備え、文化の違いを越えて、世界の人々の心を動かすことができるほか、世界中の人々に中華民族の開放、革新、たゆまず努力する精神を伝えることができるということを裏付けている。涙を目に浮かべながら見ていた欧州の観客や、拍手喝さいした日本の観客は、この作品には世界的な影響力があることを裏付けている。さらにそれは作品の質の高さだけでなく、中華文化には普遍的価値と国を越えた魅力あることも示している」とした。
「只此青緑」の海外進出成功は、グローバル化が進む世界で、中華文化を発信し、中国の物語を語る上で、モデルケースとなっている。その点について、景董事長は、「まず細部まで丁寧に表現した傑作を制作しなければならない。質の高さは、文化が海外進出する上でベースとなる。クリエイターは、芸術イノベーションを追求し続け、伝統文化を深く掘り起こすと同時に、現代の人々が好むスタイルで表現しなければならない。次に、発信力を強化し、影響力を拡大させなければならない。伝統的な劇場での上演といったスタイルのほか、ソーシャルメディアやショート動画といったニューメディアプラットフォームをフル活用することで、現地の人々の習慣により合わせて、さまざまなスタイルで発信することができる。最後に、開放と包摂、『美与共(良きものを分かち合い、より良きものを創り上げる)』という思いを抱いていなければならない。国際文化交流に積極的に参加し、中国と海外の芸術交流のプラットフォームを構築しなければならない」とした。
景董事長によると中国東方演芸集団有限公司は、中国伝統文化や愛国精神を示す華人華僑をテーマにした舞踊劇をいくつか制作し、奥深い中国伝統文化や歴史上の人物が示したそれぞれの時代の精神を掘り起こし、さらに多くの国際的な影響力を持つ質の高い文化作品を通して、中華の素晴らしい伝統文化を発揚するために、より一層貢献することを計画しているという。
中国ならではの美学を現代的なスタイルで表現
「只此青緑」は、舞踊や音楽、映像といった多様な手法を通して、中国伝統の絵画の画意と詩意、さらには絵画の余白といった要素を絶妙にコラボレーションさせており、「千里江山図」に対する理解を現代的なスタイルで表現していると評価されている。
「只此青緑」の周莉亜監督(写真提供・中国東方演芸集団)。
舞踊詩劇の映画化は容易なことではない。舞踊と映画には、それぞれに長所がある。そして、リズムの美しさや形式美が特徴の舞踊と、ストーリー性やビジュアルとオーディオを組み合わせた表現が特徴の映画を、いかに組み合わせるかについて、クリエイターには踏み込んだ思考が求められる。「只此青緑」の周莉亜(ジョウ・リーヤー)監督と韓真(ハン・ジェン)監督は、北京舞踊学院で学んでいた時のクラスメイトで、長年一緒に仕事をしてきたこともあり、制作の過程でも「阿吽の呼吸」で協力することができたという。
「只此青緑」の韓真監督(写真提供・中国東方演芸集団)。
韓監督は、「舞踊詩劇と映画は異なるメディアで、その表現方法と感情をメインに表現する点などが異なる。舞台パフォーマンスは、その場の没入感を重視し、観客はパフォーマーのボディーランゲージや感情表現を至近距離で感じることができる。それに対して、映画は視覚的物語を強調し、映像言語を通して細部を表現し、主観性ある映像を作り出す。そのため制作チームは、異なる芸術の表現方法の特性を尊重しながら、適切に調整し、新しいものを作り出さなければならない」とした。
周監督は、「舞踊劇『只此青緑』は、『千里江山図』から生まれている。そして映画やコンサートなどは、舞踊劇から生まれた二次創作だと言える。『千里江山図』が展示されたのは、過去約100年で4回だけ。『千里江山図』が一般公開されていない時も、多くの人に中国の伝統文化の素晴らしさを感じる機会があって欲しいと思っている。また映画なら舞台と異なり、劇場といった制限を受けることなく鑑賞でき、伝統文化の発信により有益だ」とした。
海外での発信という面を見ると、映画「只此青緑」には、舞踊劇から生まれた作品ならではの強みがある。韓監督と周監督は、「言葉の壁があったとしても、観客はボディーランゲージや感情表現を目にすることで、作品が伝えようとしている美的価値を感じることができる。『只此青緑』が世界中で上演され、世界各国の人々に楽しんでもらえることを願っている」とした。
「希孟の役に出会えて感謝」
映画「只此青緑」で舞踊俳優の張翰が演じた画家・希孟(写真提供・中国東方演芸集団)。
「千里江山図」を描いた画家・希孟の役を演じるために、舞踊俳優の張翰(チャン・ハン)は、まず様々な歴史的資料を読み、専門家の指導を受け、「千里江山図」を模写をするなど、様々な角度からこの天才画家の心の世界を感じ取るよう努めた。張翰は、「夜中に、しょっちゅう稽古場に行き、自分は『希孟』だと想像し、美しい山や川の絵を描いた。また、実際に希孟が眺めた山や川まで足を運び、歴史の重みを感じた」と振り返る。こうして全身全霊を注ぐことで、舞台において張翰は希孟になりきることができたという。
希孟に関する歴史的記載はほとんどないものの、張翰は何度も思考や分析を重ねることで、希孟の経歴や性格などを生き生きと演じた。そして練習と上演を重ねるうちに、張翰の希孟に対する理解を深めていった。張翰は、「芸術の表現にゴールはない。公演では毎回、希孟の異なる瞬間と側面を表現しているようなもの。その人物に心からなりきらなければ、希孟を舞台に立たせることはできない。この役を演じる過程で僕も成長し、変化することができた」とした。
舞踊俳優のキャリアにおいて、はまり役に出会えたことについて張翰は、「幸運だった。まるで知らない間に希孟と縁で結ばれていたみたいだ。僕を通して、希孟について知り、舞踊や伝統文化の魅力を感じることができたという人も多いだろう。もし希孟に言葉をかけることができるのであれば、『あなたを演じさせてくれてありがとう』と言いたい」とした。
映画「只此青緑」で舞踊女優の孟慶暘が演じた「青緑」(写真提供・中国東方演芸集団)。
「青緑」の役を演じ、リードダンサーを務めた孟慶暘(モン・チンヤン)は「千里江山図」の画意を具現化するという重要な使命を担った。練習の最初の段階で、彼女は北宋の美的スタイルや文化背景を深く研究し、「青緑」という役に込められた意味を把握することに励んだという。また、故宮の文化財修復技術者と深く交流し、無形文化遺産に関わる技法への理解を深めることで、「青緑」が象徴する伝統文化を深く理解することに努めた。
孟慶暘は、「『青緑』は、希孟と絵巻物を紐解く『展巻人』を時空を超えて繋ぐ架け橋であり、過去と現在を繋ぐ架け橋でもある」とし、通常であれば、上演を重ねるごとに役が馴染み、洗練されていくのと異なり、「『青緑』は上演を重ねれば重ねるほど難しくなっていく。演技を重ねるほど、『青緑』や『伝統文化』に対する理解が浅く、『青緑』の背後にある1千年以上受け継がれ続けてきた文化に手が届かないと感じた」とした。そのため孟慶暘は、役の心のより奥深くへと入り、この役に対する自分なりの理解を少しずつ積み上げているという。「他の公演と異なり、『青緑』は、観客とは心を通わせず、冷ややかさや距離感を出している。『青緑』が表現しているのは人ではなく、重なり合って険しくそびえている山の岩であり、文化人の気勢を象徴しているからだ。『青緑』はいわば希孟の『目』のような存在で、彼に代わり、壮大な山河を見渡しているのだ」とした。
映画「只此青緑」で舞踊俳優の謝素豪が演じた「展巻人」(写真提供・中国東方演芸集団)。
「只此青緑」において、観客を希孟の世界に誘う「展巻人」の原型となっているのは、2017年に故宮で開催された「千里江山図」を展示する特別展のキュレーターだった王中旭氏だ。「展巻人」の役作りをする上で、舞踊俳優の謝素豪(シエ・スーハオ)も紆余曲折を経たという。彼はまず、「展巻人」の立ち姿や本のめくり方などを真似ることで、その外見や仕草から役作りをし始めたという。しかしその外見や仕草を真似るだけでは、全く不十分であることにすぐに気づいたといい、「実際に舞台に立った時、外見や仕草というのは見せかけに過ぎず、内面を演じなければ本当の意味での役の重みを演じあげることはできない」とした。
そこで謝素豪は、「展巻人」の気持ちを理解することを手始めに、1千年以上の歴史を誇る名画と深い絆を結ぶ「展巻人」の心の世界を感じ取ることに努めた。「『展巻人』は希孟の夢の中に入り、希孟の喜びを感じることができるものの、この天才画家を手助けできず、若くして亡くなった希孟に心を痛め、同情を覚えている。こうした複雑な感情があることを知って、この役に深く共感を覚えた」とし、「只此青緑」に出演できたのはとても幸運なことで、「僕は舞踊を愛しており、舞踊のためになら喜んで全力を尽くす」とした。
海外で上映され好評博す
(写真提供・出品者)
舞踊詩劇「只此青緑」は2021年に上演が始まって以来、各界で高く評価されてきた。例えば2022年には、第17回文華大賞を受賞したほか、中国国務院新聞弁公室が発表した「新時代の中国の青年」白書にも記載された。また今年2月、中国外交部(外務省)の招待で複数の国の在中国使節が「只此青緑」を鑑賞した。その見事な公演は、使節たちの間で高く評価され、「中華文化の独特の魅力と革新的な発展を反映しており、中国の歴史や未来をより理解する助けとなった」といった評価を得た。また3月以降、シンガポールやトルコ、ロシアなどで、海外公演が行われ、高い反響を呼んだほか、称賛の声が寄せられた。
第37回東京国際映画祭で特別上映された映画「只此青緑」も高い注目を集めた。ある日本のネットユーザーは、「舞踊の素晴らしさを最初から最後まで楽しむことができ、涙があふれた」や「名画をこのような形式で表現できるとは想像もしていなかった。中国の伝統文化の奥深さを感じることができた」、「優雅で優美。芸術性が極めて高い。是非舞台も実際に見てみたい」といった感想が寄せられた。また在日華人からも、「映画の上映が終わると、会場全体から盛大な拍手がおきた。パフォーマンスも舞踊もとても感動的だった」や「海外でこんなに質の高い映画を鑑賞することができて、とてもうれしい。今後、中国の伝統文化の素晴らしさを表現するさらに多くの作品が出てくることを願っている」、「舞踊劇の『只此青緑』も、日本で1日も早く上演されることを願っている」など、高く評価する声が寄せられた。
「只此青緑」の成功は、中国文化のソフトパワーの力量を再び証明している。それは単なる優れた芸術作品に留まらず、中国文化の輝かしい「名刺」でもある。中国文化のソフトパワーが強化され続けるにつれて、さらに多くの優れた作品が世界に進出し、世界の人々に多様で、包摂的、かつ活力にあふれる中国を知ってもらえるようになるに違いない。(編集KN)
「人民網日本語版」2024年11月29日
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