「村おこし」を進めているのは何も日本だけではない。むしろ都市との経済格差や教育といった各方面における差がまだまだ大きい中国において、今や地方都市だけでなく、農村も市場化への道をひた走っているといっても過言ではない。今回訪れた金溪古村落の竹橋村もその一例。同村は現在4A景勝地の申請を進めているということで、市政府も歴史的建造物の保存を第一に、その有効利用を促すためバックアップしているという。
村に入ると、天日干しにされた真っ赤な唐辛子がまずひと目を引く。そして溜め池の一角には外国人記者たちに伝統的な農村の食べ物を味わってもらおうと、村民たちが様々な昔ながらの食べ物とその製作過程を実演していた。麦芽糖で作ったお菓子や餅つきなどは日本でも目にすることができるが、欧米の記者たちにはもの珍しかったようで、餅をついたり、麺を伸ばしたりといった体験を楽しんでいた。搗き立ての餅にはきな粉と砂糖、ゴマなどがまぶされ、とても懐かしい味がした。
ガイドに案内されて、村内の家屋を一つ一つ見学していく。人の住む気配が失われた家屋もあれば、すでに部分的な修復を開始し、民宿経営の投資を募るため、一部を客室に改造した家屋もある。記者に家屋内を見学させるため、入り口の鍵を開けに来てくれた村民の余さんに家屋の構造などについて質問をすると「最近は物忘れがひどくて」と恥ずかしがりながらも、自身の覚えている範囲で色々と解説してくれた。雨水を取り入れ、明り取りのために設けられている天窓、その昔、貴重品を隠していたという床下、本妻と二番目の妾に嫉妬され、中二階に住むことを余儀なくされた美しい三番目の妾など、建物のそこかしこに物語が潜んでいる。余さんは「この村には本当にたくさんの物語があるんだ。私はずいぶん忘れてしまったが、私の父はよく村の子供たちを集めてはそういった物語をいくつも話してくれた」と懐かしそうな表情で語ってくれた。現在、彼の家は村の外にあり、今もこの村に居住する村民たちは政府の援助を受けて、村外に移転しつつあるという。伝統的な家屋を修復し、保存していく。その一方で人が住む村から人の住まないテーマパークへと姿を変えていく村。何が村民にとって、観光客にとって、良いことなのかは簡単に答えの出る問題ではないだろう。
しかし、「こんなの撮っても全然綺麗じゃないよ」としきりに恥ずかしがりながらも洗濯する姿を写真に撮らせてくれたおばあさんと孫の姿がこの村で一番心に残るシーンだった。(文:玄番登史江)
「人民網日本語版」2016年12月1日
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