ある日本人研究者の中国ゴビ砂漠科学調査の旅

人民網日本語版 2025年03月07日10:52

「1億年前の化石を手にした時、時間が私の手の中で止まったかのようだった」。中国科学院古脊椎動物・古人類研究所の化石でいっぱいの研究室で、日本国立科学博物館の古生物学者、木村由莉さんは初めて化石に触れた感動を振り返った。中国新聞網が伝えた。

北京での出会い

木村さんは今年、学術交流を行うため、約10年近くぶりに北京を訪れた。出発前、彼女はこの旅に特別な目標を立てていた。それは中国の出版社を訪れることだ。

木村さんは「化石探偵」という本を指さし、「昨年、この本が中国で翻訳出版されると聞いて、とても驚いた」と話した。「化石探偵」は日本の作家の高士与市氏が執筆し、漫画家の吉川豊氏が作画を担当した化石に関する科学読物で、木村さんはその再版時の学術顧問だった。

「化石探偵」は1988年に日本で初版が発行されたが、一部の内容が時代に合わなくなっていたため絶版となっていた。その後、木村さんの手によって修正が加えられ、2022年に日本で復刊され、さらに今年は北京科学技術出版社によって中国で出版された。木村さんは、「この本は私が古生物学者を志したきっかけの一つであり、中国との縁の始まりでもある」と話す。中国版がしっかりと丁寧に作られていたことで、出版社に直接感謝を伝えたいと考えたのだという。

2月25日に北京でインタビューを受ける木村由莉さん。木村さんが見せているのは「化石探偵」のキャラクター紹介ページで、木村さんもキャラクターとして同書に登場している。(撮影・蘇婧欣)

2月25日に北京でインタビューを受ける木村由莉さん。木村さんが見せているのは「化石探偵」のキャラクター紹介ページで、木村さんもキャラクターとして同書に登場している。(撮影・蘇婧欣)

本から現実へ

木村さんは幼い頃、恐竜展で小さな化石を手に入れた。「1億年前の化石を手にした時、時間が私の手の中で止まったかのようだった」。小学校に上がると、彼女は図書館で「化石探偵」を見つけ、その魅力に引き込まれた。これらの体験が彼女に古生物学者になりたいという憧れを抱かせた。その後、彼女は日本の古生物学者、富田幸光氏に手紙を書き、進路についてアドバイスを求めた。そして、そのアドバイスに従って早稲田大学の関連専攻学科に進学した。

「化石探偵」の第2巻には、アメリカの学者が中国のゴビ砂漠で恐竜の卵の化石を発見した物語が描かれている。これは木村さんが最も好きな物語の一つで、彼女の心に「ゴビ砂漠」のイメージが深く刻まれることになった。

2004年、木村さんは初めて中国内蒙古(内モンゴル)自治区のゴビ砂漠を訪れた。この経験を通じて、彼女は古生物学者になる決意を固めた。「当時、中国の調査隊には女性研究者が多く、とても感動した」と木村さんは話す。木村さんによると、当時、日本では古生物学者と言えば男性のイメージが強かったため、将来についてずっと不安を感じていたが、中国に来て「女性は研究者になれるだけでなく、優れた成果を上げることができる」と確信したことが、大きな励みとなった。

その後、彼女はアメリカに留学し、2009年に中米協力プロジェクトを通じて再び内蒙古のゴビ砂漠を訪れた。この時、木村さんは重要な学術的ブレークスルーを達成し、化石からステップオナガネズミ属の新種を発見した。この発見により、この種の地質学的歴史がこれまでより長くなっただけでなく、ステップオナガネズミの祖先が北アメリカからアジアに移動したという長年の仮説が否定された。

2009年、内蒙古で科学調査を行う木村由莉さん。(写真提供:取材対象者)

2009年、内蒙古で科学調査を行う木村由莉さん。(写真提供:取材対象者)

島と大陸の化石の対話

中日両国の古生物分野での交流と協力について木村さんは、日本列島はかつてユーラシア大陸と繋がっており、多くの種が移動してきたが、その後島と大陸が分離したことで新しい変化があったと語った。

「私たちは化石を分析することで古生物の姿を推測するが、日本は地震が多く、火山活動が頻繁なため、完全な化石が残りにくい。そのため、私たちは他の地域の類似した動物化石の研究、特に中国の動物化石を重視している。それらは日本の動物の祖先かもしれないからだ」。木村さんは、もし中国の学者が動物の島での変化を研究したいなら、日本の化石がより多くの情報を提供できるとし、「このような協力関係は双方にとって有益で、相互補完を通じて新しい発見をすることができるはずだ」と述べた。

木村さんは将来、頻繁に中国を訪れて交流を深めることを願っており、機会があれば中国のもう一つの「化石の宝庫」である雲南省も訪れたいと考えている。(編集SC)

「人民網日本語版」2025年3月7日

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