博物館で「癒し」を感じる中国の若者たち
中国で今、博物館見学はもうニッチな趣味ではなくなり、若者のライフスタイルの一部となっている。「国際博物館の日」だった5月18日、中国国家文物(文化財)局は、2025年における中国の博物館事業発展関連の最新データを発表した。データによると、2025年末の時点で、登録済みの博物館は中国全土に7188館あり、無料開放率は91%以上となっている。2025年に開かれた陳列と展示は4万5000回で、実施された教育イベントの数は延べ58万3000回、来館者は延べ15億6000万人だった。
中国青年報はこのほど、博物館に求めることや、どんな部分に惹かれるかなどに関して、大学生を中心とした青年を対象にアンケートを実施。1167人から有効回答を得た。調査の結果によると、最も人気だった博物館のジャンルトップ3は歴史系博物館(51.93%)、芸術系博物館(51.59%)、総合博物館(51.07%)だった。
「夏の博物館ブーム」が到来 歴史や文化財と「対話」

殷墟博物館を訪れる来館者(撮影・肖懿木)
夏が訪れ、博物館を訪れる来館者は増加の一途をたどっている。河南省安陽市にある殷墟博物館の展示ホールは大勢の人々で賑わい、課外学習の生徒たちは、甲骨や青銅礼器の展示ケースを囲み、熱心に解説に耳を傾けている。
真夏を迎えている上海の上海博物館では、米国古代文明の特別展「ON TOP OF THE WORLD TREE」が開催されており、週末限定で、「動物の夜」ナイトツアーが打ち出されている。同ツアーでは、米国古代文明の貴重な文化財約3000点を見ることができるほか、上海博物館が上海動物園との画期的な提携によって打ち出した夜間スペシャルイベントを没入型で体験することができ、夜間の文化体験や博物館体験が分野の違いを超えて豊富になっている。
河南省洛陽市北部にある邙山の麓に位置する洛陽古墓博物館は、中国で唯一の帝陵、古墳、及びその付属文化財、石彫、古代壁画が一体となった大型古墳を利用した総合的な博物館だ。同博物館は近年、革新的な没入型ナイトツアーを打ち出すことで、若者たちの人気を集め、「ニッチ」な観光スポットから、超人気観光スポットへと華麗なる変身を遂げている。来館者は夕暮れ時に博物館に入り、絵が刻まれた壁画の前を通り、これまでにない新鮮でミステリアスな体験を楽しむことができる。
「景徳鎮の手工芸磁器産業遺産群」が先ごろ、正式にユネスコの世界遺産に登録され、世界遺産における「磁器」の空白が埋められた。江西省景徳鎮市の御窑廠国家考古遺跡公園内にある景徳鎮御窑博物館を訪れた観光客は、「磁器手作りを見学し、歴代の磁器窯を巡り、優れた磁器の趣を知る」ことで、その独特な魅力を没入的に体感している。
若者が博物館に向かう理由
中国青年報の調査結果によると、回答者が博物館を見学する主な理由は、気晴らし(67.69%)、知識を増やす(65.72%)、体験型アクティビティ体験(36.25%)、交流(31.71%)などだ。
若者が博物館に向かう理由の一つは、歴史が好きだからだ。北京で働く張良さん(仮名)は昨年、1週間で3つの省を巡り、各省で河南博物院、湖南省博物館、湖北省博物館を訪れた。実際に自分の目で見た文化財と自身の知識の「ストック」がリンクして「化学変化」が起き、知識がさらに増え、収穫の多い旅となったという。
山東大学考古学学科の学部生・藍盈盈さん(仮名)は、博物館を見学することで、自分が学ぶ専門分野を好きになることができたという。博物館を見学している時、文化財の背後には自身が知り、感じ取るべき文化があると実感することが数え切れないほどあった。藍さんは、展示物を見ている時、「解説の文章を通して、キュレーターと対話しているような気分になる。また、他の来館者と感じたことを語り合うこともある。文化財の写真を整理してソーシャルメディアにアップすると、ネットユーザーとも新しい繋がりができる」と語る。
「汝窑瓷器」(撮影・慎志遠)
ショート動画や断片化された情報があふれる今、博物館は、「心の癒し」を求める若者たちが集まる場所ともなっている。典型的な博物館のシーンを思い浮かべてみよう。入念に設計された柔らかな光の下で、宋の時代の陶磁器「汝窑瓷器」の前に一人で立ち、時間の経過とともに自然にできたひび割れを見ていると、何かに引き込まれるような気分になり、いつの間にか、ゆっくりと深く、そして一定のリズムで呼吸をするようになり、心が落ち着いていくのを感じるだろう。そのような不思議な状態は、心理学では、「方向づけられていない注意」と呼ばれている。それは、スマホをいじっている時のピンと張った「方向づけられた注意」とは非常に対照的なものだ。最新の研究では、「方向づけられていない注意」の状態になると、脳の不安や恐怖などの感情を感じた時に活動する扁桃体の活動が目に見えて鈍化し、前頭前皮質の機能が回復し、その状態を20分キープすると、体内のコルチゾール(ストレスホルモン)の水準も目に見えて低下することが分かっている。
博物館見学の新たなトレンド
デジタル時代の今、博物館のインタラクティブ性や体験感を高める革新的なスタイルも、若者を夢中にさせている。デジタル化したアプローチによって、博物館見学のハードルが下げられている。山西師範大学に通う左楽言さんは、河南省許昌市のある博物館を訪れた際、文化財のホログラム投影で壁に映し出された動物が動き回っているように見えるプログラムを見たことがある。また、山西博物院では、青銅器「鳥尊」や中国の伝統演劇「戯曲」の人物がアニメ化された展示を見たこともあり、「技術が進歩するにつれて、たくさんの文化財に息が吹き込まれている」と話す。こうした技術がもたらすインタラクティブ性により、来館者と文化財に「繋がり」ができている。

没入型シチュエーション・コメディナイトツアー「徳寿夜宴」
デジタル化により、博物館の来館者は見学者から参加者に変わっている。杭州南宋徳寿宮遺址博物館は今年2月から、没入型シチュエーション・コメディナイトツアー「徳寿夜宴」を正式に打ち出した。このツアーは、南宋時代の宮中庭園遺跡を主な舞台とし、プロジェクトマッピングやホログラム、裸眼3Dといったデジタル技術を駆使して、没入型ストーリーが次々と展開される。来館者の蘇蘇さんは、「私はマーダーミステリーが好きで、普段よく友達と一緒に楽しんでいる。今回、ネット上で『徳寿宮マーダーミステリー』がおすすめだという書き込みを目にし、新鮮味があっておもしろそうと思ったので、初めて博物館でマーダーミステリーに参加してみた。このようなスタイルはとても新鮮味がある。技術を駆使して、文化財に息が吹き込まれている。文化財の背後にあるエピソードや故事に対する理解を深めることもでき、博物館の楽しさがかなり増している」と感想を語る。
調査の統計によると、回答者が重視している博物館の特徴トップ3は、展示されているコンテンツが心を揺さぶるか(59.98%)、展示の形式が充実していて探究心をくすぐられるか(53.30%)、展示の情報が充実していて学べるものがあるか(52.78%)だった。

「長信宮灯」板麺、皿方罍ムース、甲骨文字麺(写真はソーシャルメディアから)。
「博物館で食事」というのも、若者の間で人気となっている。遼寧省博物館で22元の肉も野菜も入った丼や、湖北省博物館の編鐘牛肉麺、内蒙古(内モンゴル)博物院のシュウマイなど、中国各地の博物館は最近、次々と食堂を開設しており、若者たちは博物館に行って文化財鑑賞を堪能するほか、そこの食堂の「各種アイテム」を楽しんでいる。四川博物院の鍾玲副院長によると、博物館の食堂は一般の人が親しみやすい料理を提供することで文化のハードルを下げ、さらにリーズナブルであるため、より多くの人が気軽に博物館に行くことができるようにしているという。またそれにより、博物館の滞在時間が平均1.5-2.5時間伸び、博物館の他のホールを見学したり、文化イベントに参加したりする時間ができ、より多くの人が博物館の展示品や文化に対する理解を深めている。
AIの登場で、変化する博物館

1月6日、上海市歴史博物館で正式に「勤務」を始めたエンボディドAIロボットの「歴小博」(画像提供・上海市歴史博物館)。
2026年1月、上海市歴史博物館でエンボディドAIロボットの「歴小博」が正式に「勤務」を始めた。博物館によると、「歴小博」はその建物の形の特徴に合わせて特別に開発されたガイド・エンボディドAIロボットで、自主的に移動し、音声で交流し、来場者のニーズを理解し、それに対応した解説を提供することができ、来場者はよりユニークな観覧を体験することができる。

5月18日の「国際博物館の日」に合わせ、バイトダンス(字節跳動)傘下のAIアシスタント「豆包(ドウバオ)」は、博物館解説モードを正式に開始した。豆包アプリの対話画面内にある「博物館解説」ボタンをタップすると、専用のビデオ通話形式による解説が提供され、展示物にカメラを向けると、豆包が自動的に対象物を認識し、個別化された解説や館内ガイドを提供する。今回公開された豆包の博物館モードでは、中国国家博物館、浦東美術館、甘粛省博物館、河北博物院、首都博物館、中国美術館など20館以上の博物館・美術館との公式提携を実現した。
人的資源・社会保障部(省)が過去5年間に発表した新職業のうち、AIと密接に関連するものが20を超え、未来産業と直結するものが4割を超えた。同部は今年、「エンボディドAIロボット応用技術者」など12の新職業を追加するほか、「AIエージェント開発者」などの新職種も新設する計画だ。文化・博物館ブームや文化クリエイティブブームがますます広がりを見せる中、文化クリエイティブグッズ企画・運営者、博物館デジタルキュレーター、仮想現実(VR)製品デザイナー、3Dモデリング技術者など、数多くの新職業が相次いで誕生し、より多くの若者にキャリア形成のチャンスを提供している。(編集KN)
「人民網日本語版」2026年8月5日
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