今年の全国両会(全国人民代表大会・中国人民政治協商会議)で、働くことに関連して最も注目されたのは、なんと言っても「職場での35歳の壁を打ち破る」という話題だろう。この話題をめぐり、複数の代表・委員が相次いで発言し、検索ワードランキングでもたびたび上位に入った。
35歳は本当に壁なのか。年齢制限をなくし、「35歳危機」を打ち破ることは可能なのだろうか。
35歳の壁とはそもそもどこから来たか?
一般的な法則から言えば、人間の創造力は生まれつきのものではない。知識や見識が急速に増え、体も健やかに成長するにつれ、その創造力は20歳前後から爆発的に発達し始める。30歳前後になると衰え始めるものの、経験を積み重ね法則を深く理解するようになっているため、創造力は減退することなく逆に高まり、37歳頃にピークに達する。
心理学的に見ると、35歳は生理的な転換点であり、これに社会的な役割の転換点が重なるという。人の生理的機能も30歳前後から老化が始まり、さらに家庭での役割と職場での役割が絶えず変わることや、仕事のプレッシャーが徐々に増大することが加わる。こうした状況をしっかり克服できなければ、「燃え尽き症候群」になることもある。
そのため、過去を振り返ると、社会の年齢構造が相対的に若く、労働力の供給が相対的に充足している状況では、公務員の選抜でも企業の求人でも、35歳を年齢の上限とし、最大の価値を創出することを期待するという傾向が強かった。
35歳の壁は今も理にかなっているのか?
今年の政府活動報告では、「性別や年齢などによる職業上の差別を断固として防止・是正し、労働者の合法的権利を侵害する突出した問題の解決に力を入れる」ことが明確に打ち出された。
全国人民代表大会(全人代)の代表を務める華南師範大学の林勇教授は、公務員試験の35歳未満という年齢制限の撤廃を提案した。そして、「35歳未満という制限が多くの企業・機関が人材を募集する時に設けるハードルになっているが、これは人口の長期的にバランスの取れた発展のニーズに適応していない」と言う。
林教授は、「現在、『90後(1990年代生まれ)』と『00後(2000年代生まれ)』が結婚や出産・育児の中心となっているが、複数の要因の影響を受けて、結婚や出産を遅らせる現象が非常に目立つ。これはつまり、女性が25歳を過ぎてから1人目の子どもを出産するとすれば、2人目や3人目を出産する場合、30歳過ぎになっており、中には35歳になる人もいるということだ。出産を終えて職場に戻りたいと思っても、『35歳未満の制限』により阻まれてしまう」と指摘した。
さらに林教授は、「『35歳未満の制限』を撤廃すれば、女性が適齢期での出産とキャリアアップを両立する上でプラスになり、計画出産政策を調整し、人口増加を促進し、人口ボーナスを高める重要な関連措置になる」と述べた。
精神的に落ち着いた人が必要なポジションもある
「私の読者の中には、35歳以上の人がたくさんいる。この人たちは知識レベルが追いつかなくて仕事を失うのではない。インテリと呼べるような人もいるし、経験のレベルもおしなべて高い。しかし仕事を探す時にはやはり35歳という難関に阻まれてしまう」と話す全人代代表の蒋勝男さんは、有名な脚本家でありネット作家で、膨大な読者層を抱えている。
蒋さんの分析によると、大学を卒業してから35歳になるまでの時期は、何年にもわたって職場で経験を積んでおり、仕事や業務という点でも世渡りの経験という点でも成熟の段階に達し、まさに働き盛りであり、大活躍する時期でもある。
この見方に共感する人もいる。「一部のポジションに関して言うならば、むしろ35歳以上の人の方が適任だと思っている」と話す初一さん(仮名)は、浙江省杭州市の企業のヒューマンリソース部門で働き、最近は人材募集と応募者の面接で忙しいという。「管理職を募集する時は、35歳過ぎがいいと思う。一定のキャリアがあり、仕事が手堅く、精神的に落ち着いた人がよりふさわしい。財務管理の職種では、35歳は働き盛りと言える」と初一さんは話す。
年齢制限撤廃が労働者の生活健康レベル向上にプラス
ここ数年、社会の各界が「トータルライフサイクル」にしばしば言及するようになり、トータルライフサイクルの健康という大きなテーマに関心を寄せるようになった。
そしてたとえば、「今や社会は経済成長の安定期に入り、私たちは社会・民生や福祉保障の向上に関心を寄せなければならない。休日出勤したり時間外労働をしたりしてしゃにむに働き、点滴を打ちながらでも仕事をし続けるといった価値観はもはや現代にはそぐわない。人々の仕事も暮らしもより健康的で秩序があるべきだ、より多くの時間を家庭のことに充て、子育てに関わり、生活の健康レベルを引き上げると同時に、社会の消費を全体として推進し促進するべきだ」といった見方もある。
優秀な人材に対しては年齢を問わず、とすることで初めて、働く人は安全だと感じられる。「自分を高めるために勉強し、家庭を築き子供を育てるには、ある程度の時間が必要だ」。
公務員募集の年齢制限を撤廃すれば良いモデルに
職場における35歳未満の年齢制限をどのように改善したらよいだろうか。蒋さんは、「まず公務員募集で率先してこの殻を打ち破るべきだ。すべての企業が一気にこの制限を撤廃するというのは現実的ではない。公務員の募集を一番最初に年齢制限を打破する突破口にするといいのではないか」と話した。
そして林さんは、差し迫って必要な人材、ハイレベルの人材、専門性の高いポジションや、経済的に立ち遅れている地域では、人材募集時の年齢制限撤廃の試行を検討してはどうかとの見方を示す。それから制限の全面撤廃を模索し、人的資源・社会保障部(省)の「第14次五カ年計画」で打ち出した「小幅の調整、弾力的な実施、分類に基づく推進、統一的計画と各方面への配慮」などの原則を踏まえて、段階的に法定定年の引き上げを適切に実施し、基本養老金(年金)受給に必要な支払期間の下限を徐々に引き上げ、定年の延長実施と公務員募集時の年齢制限の全面的撤廃を統一的に計画し、必要であれば、この2点を同時に進めるべきだとした。
「35歳危機」を回避するために、何をするべきか?
大部分の人が35歳危機にぶつかる根本的な理由は、企業が設けた壁だけでなく、若いときに目先の収入増加ばかり追いかけてきたことにも一因がある。年齢を重ねても、職業上のスキルが深まりや広がりを見せなければ、知らず知らずのうちに将来に多くの問題の種を残すことになる。
そのため、「35歳の壁」を前にして、働く人自身も早くから計画を立て、自分の能力を絶えず高めていく必要がある。
まずは生涯にわたる適応力を高めること。勉強を続けることはキャリアアップの尽きることのない原動力であり、生涯にわたる学びを強化し、新しい知識やスキルを身につけることになり、より多くのキャリアアップのポテンシャルを与えてくれる。
それだけでなく、環境に積極的かつ主体的に適応することも必要だ。突如発生した新型コロナウイルス感染症にしても、デジタル化技術の必然的な流れにしても、こうした不確実な未来というものは、私たちにはコントロールできないものだ。私たちはただ環境の変化に順応し、環境の変化に基づいて自分の行動を絶えず調整するしかない。
自分が時代に遅れないようにして初めて、本当の意味で「35歳危機」が怖くなくなると言えるだろう。(人民網日本語版論説員)
「人民網日本語版」2022年3月16日