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植物はなぜカタカナで書かれるのか【前編】

人民網日本語版 2022年04月11日14:46

みなさんが、日本語の文章を読むとき、動植物はなぜカタカナで書かれているのか考えたことがあるでしょうか。漢字ならわかりやすいと思ったことはないでしょうか。ひらがなではなく、あたかも外来語のようにカタカナで書かれるのでしょうか。日本では、あたかも英語の文章でラテン語の生物名が斜体で書かれるのと同じように、カタカナを使っているのだと考えている人がいますが、実際はそんな単純な話ではなく、実は日本語における漢字の扱いが、カタカナ表記になった根本的な要因なのです。(文:浙江工商大学東方語言文化学院副教授・久保輝幸)

動植物名を統一して仮名で書くようになったのは、明治時代からです。分類学は植物の分類が先行していたため、分類の規則(リンネの二名法など)は最初に植物に対して定められたあと、動物に適用されました。日本の植物分類学を牽引した東京帝国大学では、植物名をすべて仮名で表記することにしていました。ただし、図1のように、論文や公文書など広く公開する文章は正文をカタカナで書いていたため、動植物名はひらがなで書かれている場合が多いです。

さて、漢字表記を避けた理由は、著名な植物分類学者である牧野富太郎(1862-1957)による主張などから窺い知ることができます。これら当時の植物学者の見解をふまえたうえで、わたしは、「植物の漢字名は読み方が分かりにくい」という点が最も大きな理由だろうと思います。

「桜(櫻)」を「サクラ」と読むことは多くの人が知っているでしょう。しかし、「椿」「梨」「柿」「栃」「杉」「桐」はどうでしょうか。N2以上でないと、読み方が分からない人が多いように思います。さらに、「花梨」「木槿」「木瓜」「桔梗」「竜胆」「杜若」「躑躅」などの漢字になると、それらを読める人は日本でも多くありません。むろん、中国語を母語とする人にとって漢字語の意味を理解することは比較的簡単かもしれません。しかし、それらの読み方を知っていることも重要です。植物名がカタカナで書くことにすれば、一般的な国語辞書ですぐに調べることもできますし、口頭で手軽に教えてもらうこともできます。植物名がカタカナで書かれている場合、中国語母語話者はたしかに意味をすぐに理解することはできませんが、読み方は即座に知ることができます。これは一長一短で、中国人にとって読解ならば大きな支障はないでしょうが、日本語の語彙の習得としては不完全で、会話では障害になります。

中国語として読む場合、形声文字ならば、その字を知らなくても発音を推測することができることがあります。同様に、日本語でも「蘭」「芍薬」「海棠」「連翹」「黄連」「蝋梅」のように漢字を音読みするならば、同様に発音を推定することができる場合もあります。しかし、「山茶花」「沈丁花」はどうでしょうか。「山茶花」(中国語名「茶梅」)は「サンチャカ」ではなく「サザンカ」、「沈丁花」の「花」は「カ」ではなく、「ゲ」と読みます(おそらく呉音に由来する発音)。ほかにも「花梨(カリン)」「木槿(ムクゲ)」「木瓜(ボケ)」「桔梗(キキョウ)」「竜胆(リンドウ)」「銀杏(ギンナン)」「遠志(オンジ)」「西瓜(スイカ)」などは漢字の音読みが訛り、規範的な読み方ではありません。「胡瓜(キュウリ)」の読み方はさらに複雑です。「黄瓜(キウリ)」の読み方が「胡瓜」に転用された結果と考えられていて、「黄」は音読み(訓読みがない)、「瓜」は訓読みです。

実は、このように慣用的な読み方をする植物漢字は少なくありません。また、「桜」「杜若(カキツバタ)」「躑躅(ツツジ)」、「椿(ツバキ)」「梨(ナシ)」「柿(カキ)」は日本語では訓読みですから、漢字から読み方を推定できません。このような漢字は、日本語において形声文字の音符はほとんど無意味になっています。

加納善光『植物の漢字語源辞典(新装版)』(2022)

植物漢字の字源と語源を解説し、

日中同形異義や「国字」(日本の創字)を検証したもの。

日中翻訳にも役立つ。動物編もある。

植物には専用の漢字が多く、中国人にとっても読み方がわかりにくいという特性があります。たとえば、“栎(lì)”、“蓟(jì)”、“稗(bài)”、“桧(guì)”、“荜茇(bì bá)”、“川芎(chuānxiōng)”、“白术(báizhú)なども読み間違いやすい漢字です。また、“(芜)菁”、“苋(菜)”、“(苜)蓿”、“(神)麹”などの形声文字の音符は、その字の音を正確に再現しておらず、かえって誤読を招く恐れがあります。

また、枸杞(gǒuqǐ)と枸橘(gōujú)、荠菜jìcài)と荸荠bíqi、桔子júziと桔梗jiégěngなど、植物によって発音が変わる多音字の問題もあります。

日本語で使われる漢字は更に複雑で、大多数が多音字です。「常用漢字」2136字を例にすると、音読みの総計は2352個、訓読みの総計は2036個あり、あわせて4388個となります。つまり、ほとんどすべてに音訓で2通り以上の読み方があるということを意味しています。日本語の漢字を学ぶ際、中国語より多くの読み方を覚えている必要があるのです。N1でも、漢字を約2,000字学んでいることが要求されていますが、これらにも複数の読み方があり、学習者の負担となっています。これは、日本語学習の難しさの一つと言えるでしょう。

「人民網日本語版」2022年4月11日

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