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【中国キーワード】デジタル通貨の発展加速がもたらすものは?

丸わかり!中国キーワード

人民網日本語版 2021年03月09日11:08

ここ数年、デジタル通貨が高頻度で登場するキーワードになっている。広東省深セン市でデジタル人民元のテストが初めて行われたのに続き、今年の春節(旧正月、今年は2月12日)期間には江蘇省蘇州市や北京市などの都市で抽選によるテスト用デジタル人民元の配布が相次いで行われ、中国ではデジタル人民元の応用テストがどんどん加速し、消費シーンがますます豊富になっている。

デジタル人民元とビットコイン、モバイル決済との違いは何?

単純化して言うと、デジタル人民元とは法定通貨がデジタル化したもの、つまり私たちが普段使っている人民元の紙幣がデジタル化したものだ。

メディアでよく取り上げられるビットコインと比較すると、デジタル通貨には特殊性がある。最も重要な違いは、デジタル通貨には国家の信用の裏書きがあることであり、価値が安定しているという点だ。中国のデジタル人民元は中国人民銀行(中央銀行)が発行するデジタル形式の法定通貨であり、その価値が安定していて法律により保証されるという特徴がある。デジタル人民元は紙幣や硬貨の人民元と等価値で、人民元札で買えるものはデジタル人民元でも買えるし、人民元札で両替できる外貨はデジタル人民元でも両替できる。

多くの人が、デジタル人民元は微信支付(WeChatペイメント)や支付宝(アリペイ)と同じようにスマートフォンを使って決済し、機能も似ているので、競合関係になると考えている。これについて中国人民銀行デジタル通貨研究所の穆長春所長は以前、「微信支付、アリペイとデジタル人民元とは同じ次元のものではない。微信支付とアリペイは金融のインフラであり、『ウォレット』だ。一方、デジタル人民元は決済のツールであり、『ウォレット』の中身だ。デジタル人民元の発行後も、消費者は引き続き微信や支付宝で決済することができる。ただ『ウォレット』の中身に中国人民銀行のデジタル通貨が加わるだけのことだ。モバイル決済がますます普及するにつれて、人民銀行はモバイル決済が時代と共に前進するよう後押しし、トップレベルデザインを通じてデジタル形式の法定通貨を打ち出すことが必要になった。デジタル人民元は『人民元のデジタル化』に過ぎず、いずれかの決済手段に取って代わるものを追求しているわけではない」と説明していた。

デジタル人民元で私たちの日常生活はどう変わるか?

デジタル人民元の1つ目の特徴は利便性だ。各インターネットプラットフォームで個人の銀行口座と紐付けしたり、オフラインで複数の銀行カードを処理したりといった無駄な手間が省ける。2つ目の特徴はセキュリティだ。デジタル人民元は匿名の決済に対応しており、決済のセキュリティが大幅に向上し、個人のプライバシーが保護される。3つ目の特徴は越境取引のコスト低下だ。国境を越えた決済がさらに便利になり、これまでの越境取引における手数料が減り、取り引きと決済・清算のスピードが向上する。

現在、デジタル人民元の応用シーンはスーパーやガソリンスタンドなどのオフラインシーンから、「オンライン+オフライン」のシーンへと広がり、利用方法も最初の単一の決済手段から、QRコードによる決済、端末どうしを接触させるスタイルの決済など広がりをみせ、さらにネットがない環境でも利用が可能だ。またオフラインでもオンラインでも、デジタル人民元の利用に対し、人民銀行は個人からも運営機関からも取引手数料を一切徴収せず、決済システムの効率を高めると同時に、取引コストを極めて大幅に引き下げることができる。

試行テストの成果は予想以上

昨年下半期以降、一般市民も参加したデジタル人民元試行テストの実施ペースが徐々に加速している。全国に先駆け、深セン、蘇州、雄安新区、成都、それから来年には冬季五輪会場で内部閉鎖型のテストが行われる。昨年10月以降、深セン、蘇州、北京などで一般市民が参加した試行テストがたびたび行われており、今後は試行テスト実施都市がさらに拡大する可能性がある。

光大銀行金融市場部の周茂華アナリストは、「試行テストの状況をみると、デジタル人民元は消費にあたっての決済がスムーズで効率が高く、運営が安定し、応用シーンが絶えず広がり、人々の受容度が高く、試行テストは期待通りの成果を上げたといえる。通貨の発展進化の法則から考えると、デジタル通貨には低コスト、高効率、豊富な応用シーンといった特徴があり、デジタル人民元は人民元発展のトレンドになるものと期待される。また中国国内ではオンライン決済技術がすでに成熟しており、デジタル人民元テストの推進拡大の条件が整っていることなども、各地域の試行テストへの意欲をかき立てた」と述べた。

安全性、利便性、金融の安定性などさまざまな要因が複合的に作用し合った結果、デジタル通貨の必要性がさらに高まり、ますます多くの国がデジタル通貨の研究開発をスタートさせている。2020年7月には、主要7ヶ国(G7)が中央銀行間のデジタル通貨をめぐる協力展開を決定した。欧州中央銀行(ECB)は、ユーロ圏のデジタル通貨の準備作業には2-4年かかるとみており、これまでにパブリックコメントを終えている。米連邦準備制度理事会(FRB)は、中央銀行のデジタル通貨の研究開発は優先度が非常に高いとみている。日本は日本銀行(中央銀行)のデジタル通貨の段階的実験を徐々にスタートする予定で、これには発行や分配といった基本的な問題が含まれる。英国のイングランド銀行(中央銀行)は、独自のデジタル通貨を打ち出すことを検討しており、研究をほぼ終えている。国際決済銀行(BIS)が20年1月に発表した調査結果によると、19年末には世界の中央銀行66行のうち、80%がデジタル通貨の研究または試行テストを開始しており、18年末に比べて10ポイント上昇した。このうち40%が試行テストの段階に入り、10%が実際のデジタル通貨を利用した試行テストの段階に入っている。

デジタル通貨とデータ主権

注目されるのは、デジタル通貨とデータ主権との密接な関係だ。欧米の場合、現在はデータ主権をめぐり協力よりも競争の方がよく行われている。20年7月16日、欧州司法裁判所は16年に調印された枠組「欧米間プライバシーシールド」は「無効」との判決を下した。これは元々、欧州連合(EU)と米国の間で成立した、大西洋をまたがる個人データの伝送に関する一連の規定だった。同裁判所は、この協定は米国がEU各国国民の個人データに対して大規模なモニタリング・コントロールを行えるようにするもので、EUのプライバシー保護の要求に合致しないと判断した。

この判決は、フェイスブック(FB)、グーグル、アマゾンといった米国のインターネット大手にとって課題をつきつけることになった。最も直接的な影響は、こうした企業が米国のサーバーにEU各国国民の個人データ・情報を保存できなくなったことだ。米国は判決に強い反応を示している。今後、双方のデータのプライバシー保護をめぐる主権のぶつかり合いがさらに激しくなることが予想される。

データ主権をめぐり協力よりも競争が行われている環境の中で、デジタル通貨が自国の国際金融市場における主導的地位を揺るがすのではないかという点について、欧米双方がより慎重になったことは確かだ。19年以来、米国の監督管理機関はデジタル通貨に対してそれほど積極的ではなく、自前のデジタル通貨「リブラ」を立ち上げようとするFBに圧力をかけ続けてきた。FBの「リブラ白書2.0」をみると、リブラは米ドルに対抗するものという性質を弱めたが、依然として米ドルにもその他の主権国家の通貨にも構造的な脅威を与えるものとなっている。

言い換えれば、デジタル金融の時代にあって、通貨の発行・流通に関わる革命がひっそりと始まっているということだ。かなりの確率で言えるのは、既存の国際経済金融の秩序の基礎(米ドルの世界的覇権、ユーロの地域での主導的地位)を揺るがすものは、新興国の中央銀行が発行する法定通貨や中央銀行デジタル通貨とは限らず、プライベートなデジタル通貨である可能性もあるということだ。

グローバルデジタル経済の時代、通貨の発行は戦略的に攻略すべきポイントであり、複数の国際的行為主体(国家、多国籍大企業、個人を含む)が今後、激しい戦いを繰り広げる重要な舞台でもある。(人民網日本語版論説員)

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「人民網日本語版」2021年3月9日

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