ここ数年、次世代情報技術の後押しを受けて、デジタル経済が勢いよく発展し、働く環境や働き方を大きく変え、数多くの新しい労働形態を生み出している。
デジタル化した雇用や感情労働、テレワークやシェアリング社員など、雇用の新しい形態やスタイルが急速に成長し、活気を呈している。新労働形態とは何か。その新しさはどこにあるのか。どんな意義を持つのか。
新労働形態とは何か?
デジタル技術のイノベーションがシェアリングエコノミーやオンライン経済の発展を牽引し、クラウド(オンライン)顧客サービスやショート動画、オンライン教育などのコンテンツプラットフォームによってフレキシブルワークの環境が作られ、時間や空間、スタイルにおいて職業選択の可能性が広がり、供給サイドの雇用ポジションが増加した。
首都経済貿易大学中国新職業形態研究センターの張成剛センター長は数年にわたる調査研究に基づいて、新労働形態で働く人の「群像」を次のように描き出した。新労働形態で働く人は「95後(1995年から1999年生まれ)」と「00後(2000年代生まれ)」が中心で、4年制大学と高等職業大学(学校)を卒業した人の割合が高く、主体的に選んだか、起業や再就職のための「ステップ」と考える人が多く、同じ条件であれば従来の労働形態より収入がやや多い。また、こうした人々はある程度の自主性と創造性を備え、市場ニーズに迅速に対応し、変化することができるという。
求人ニーズを見ると、中国人民大学労働人事学院が発表した「中国フレキシブルワーク発展報告(2021年)」によれば、2020年の中国企業のフレキシブルワークの採用率は約55.7%で、19年より約11ポイント上昇し、また企業の30%近くがフレキシブルワークの規模を維持するか拡大しようと考えている。また、中国社会科学院社会学研究所の朱迪研究員は、「インターネット経済が切り開いた新しいブルーオーシャンが、フレキシブルワークに就こうとする若者にフィットするより多くの雇用ポジションのプラットフォームを生み出している」と指摘している。
新労働形態はどこが「新しい」か?
新労働形態によって従来の雇用よりも自主的で自由な、より柔軟な労働機会が生み出されたことで、個人価値の最大化が実現された。新労働形態によって、次の3つの転換が実現した。1つ目は「会社に在籍する社員」から「オンライン上の個人」への転換、2つ目は「1人1職業」から「1人複数職業」への転換、3つ目は「雇用先所属者」から「社会所属者」への転換だ。プラットフォーム型企業について言えば、多くの資産を抱えた経営スタイルから少ない資産での身軽な経営スタイルへの転換が実現した。
新労働形態の「新しさ」はどこにあるのだろうか。
まず、働く時間がより柔軟になった。デジタル技術によって、労働時間が相対的に固定された従来の生産スタイルが変化し、新労働形態の労働時間がより柔軟になった。また、デジタル技術が商品やサービスの供給サイドと需要サイドを効率よく結びつけ、個人が注文や製品、サービスを直接獲得する流通ルートを提供し、これによって製品の開発やデジタルコンテンツの制作、商品の販売、サービスの提供をより独立した形で行えるようになった。これはつまり、労働者がより高い自主性と柔軟性を与えられ、自身の好みや習慣、能力に基づいて労働時間を自分でコントロールできるようになったことを意味する。
次に、働く場所がより柔軟になった。モバイルインターネット、モノのインターネット(IoT)、人工知能(AI)などの次世代情報技術とデジタルインフラの発展に伴って、働く人はプラットフォームや企業、同僚、ユーザー、設備などとリアルタイムでつながり、企業からの指示、ユーザーからの要求、プラットフォームからの注文、設備のフィードバックなどの情報を随時受け取り、ネットプラットフォームを通じてサービスを提供し、ネットのビデオ通話を通じて顧客と高効率のコミュニケーションを実現し、テレワークシステムを通じて同僚や協力パートナーとの遠隔での協業を実現し、インダストリアル・インターネットのシステムを通じて機械設備の遠隔操作・コントロールを行い、物流配送システムを通じて実物商品を引き渡すことなどが可能になった。こうして、従来の社会化された大規模な生産環境における機械との分業による物理的な労働空間の制限が打ち破られ、働く人はより柔軟に働く場所を選択できるようになった。
さらに、仕事の内容がより多様になった。新労働形態の下では、人々は同時に複数の職業に就くことができ、1つの仕事に専業することなく、複数の身分を使い分けられるようになる。プラットフォームを土台としたギグエコノミーには複数の異なるスタイルがある。たとえば、ソーシャル・イノベーション・プラットフォームで仕事を引き受け、製品の開発や生産に携わることが可能になった。そして、ECプラットフォームを通じて自分で店舗を構え、商品を販売できるようになった。また、ライブ中継や動画配信、SNSプラットフォームで配信パーソナリティをしたり、さらにはネット上の有名人になったりすることも可能になった。さらに、教育や知識共有型のプラットフォームを通じて専門的な知識を伝達することが可能になった。このように、デジタルインフラやネットプラットフォーム、スマート端末の力を借りて、自分の知識や技能を十分に活用できるようになり、仕事の内容がより多様になっている。
新労働形態の意義は?
全体として次のことが言える。新労働形態は、社会の中にバラバラに存在し、十分に利用されてこなかった物的資本と人的資本を動員し、より多くの雇用機会を生み出し、人々に働く時間と場所、仕事の内容などでより多くの選択肢を与えるもので、個人がそのポテンシャルをよりよく発揮する上でプラスになる。また企業の雇用の柔軟性を増強し、企業の外にある人的資源をより十分に利用し、オフィスのある場所の賃料と人件費を削減し、経営効率を高めることが可能になる。
最新のデータを見ると、今年1-7月の中国都市部の新規雇用者数は822万人に達し、通年目標の74.7%を達成した。中国国家統計局の付凌暉報道官は、「目下の雇用情勢が安定している大きな原因は、新たな原動力が力強く成長し、フレキシブルワークが増加したことだ。大衆による起業・イノベーションが急速に発展するにつれ、シェアリングエコノミーとプラットフォーム経済が急速に成長し、新業態と新スタイルが次々に登場し、就業牽引効果が高まっている」との見方を示した。
公式データによれば、中国のフレキシブルワーカーはすでに2億人を超える。中国財政科学研究院の劉尚希院長は、「デジタルプラットフォームやデジタル産業、デジタル経済の発展に伴って、新しいフレキシブルワークの規模がますます大きくなるだろう。新しいフレキシブルワークは一時的な現象ではなく、工業経済からデジタル経済への移行過程で形成される労働形態の長期的な流れになるだろう」と指摘した。
保障+政策的誘導による追い風
新労働形態の下で、社会保障がどうなるかに注目が集まっている。調査研究によると、ライブ配信やデリバリー配達などの職業に従事する若者約1万人のうち、25%が「社会保障または職業上の保障が何もない」と答えた。ここから容易にうかがえるのは、労働者と雇用プラットフォームとの間の労使関係の境界線の曖昧さ、都市戸籍・農村戸籍の制約、「複数のプラットフォームにまたがり、複数の雇用主がいる」といった状況が社会保障の不十分さに影響する要因になっているという点だ。
実際には、関連政策という「追い風」は以前から吹いている。6月末に国が発表した「人的資源・社会保障事業発展の第14次五カ年計画」は、複数ルートの柔軟な雇用に特に言及している。7月7日に開催された国務院常務会議では、労使関係、労働報酬、労働保険、職業技能訓練、年金・医療保険などの面で、新労働形態における労働者の権利保障の強化に関するいくつかの政策措置が決定された。
その後、人的資源・社会保障部(省)、国家発展改革委員会など8当局が共同で「新労働形態労働者の労働保護と権利保障に関する指導意見」を発表し、プラットフォームの責任や報酬、休暇、労働保険など注目を集める複数の問題を初めて明確にし、デリバリー配達のドライバーやオンライン配車サービスのドライバー、ECのライブ配信パーソナリティなどのために権利の「セーフティネット」を構築した。
トップレベルでの政策的誘導の下、地方政府も関連措置を明らかにしつつある。縦方向では、多くの二線都市と三線都市が人材の認定や定住のために便宜を図り、ビジネス環境の最適化や政策の実施推進などに力を入れており、フレキシブルワーカーがこうした都市へと移り始めている。横方向では、競争メカニズムの規範化、業界の監督管理の改善、「悪貨は良貨を駆逐する」といった現象の厳格な抑制が行われ、フレキシブルワークに十分な保障を提供している。(人民網日本語版論説員)
「人民網日本語版」2021年9月29日