矢口史靖監督(53)がメガホンを取った「ダンスウィズミー」が22日、中国で公開された。矢口監督の「ウォーターボーイズ」や「サバイバルファミリー」は口コミが高く、中国でも人気を集めた。しかし、コメディミュージカルの「ダンスウィズミー」は、中国では「大コケ」となっている。映画情報サイト・猫眼専業版の統計によると、22日から24日までの3日間の興行収入は48万4000元(1元は約16円)にとどまっている。うち初日は33万7000元で、土曜日の23日だけを見ると10万元にも届かなかった。羊城晩報が報じた。
「ダンスウィズミー」の興行収入は、ジャンルそのものがマイナーで、日本の公開から約1年半遅れで、作品のクオリティがそれほど高いわけでないことなどの影響を受けているものの、「大コケ」していることは、日本の実写映画が中国で公開されても興行収入が伸びないことが多いという近年の状況を反映しており、その代表的なケースとも言える。
中国でも人気の監督だが、同作品ではパターン化の落とし穴に
矢口監督は、コメディ映画の分野では安定した実力を発揮し、ヒット作品を数々生み出してきた。中国のコミュニティサイト・豆瓣では、矢口監督の作品のうち、レビューが8ポイント以上の作品が5作品あり、うちレビューが最も高いのは、2014年の「WOOD JOB! ~神去なあなあ日常~」で、8.6ポイント。以下、「スウィングガールズ」、「ウォーターボーイズ」8.4ポイント、「ひみつの花園」8.3ポイント、「サバイバルファミリー」8.1ポイントと続く。
ストーリーは自由奔放で、気軽にリラックスして見られる作風で、少し「悪趣味」なところもあるものの、コア・スピリットは温かみがあり、ポジティブというのが、多くの映画ファンが矢口監督の作品に夢中になる原因でもある。あるファンは、「矢口監督の映画のストーリーは簡単で、コア・スピリットもシンプル。でも、映画を見ると心の底から感動する」と話す。
しかし、「ダンスウィズミー」を見ると、矢口監督は「気を抜きすぎ」という落とし穴にはまった感じを受ける。「催眠術」という方法で、従来のミュージカル映画の「言葉が見つからなければ踊る」というパターンを皮肉ることで笑いを誘っているものの、ミュージカル映画を手掛けるのは初めてであるためか、ダンスシーンや作品の緩急がうまくコントロールできておらず、作品全体のクオリティを下げてしまっている。豆瓣には、ある映画ファンから、「見ていてちょっと困惑してしまう。作品の緩急が全然コントロールできていない。ストーリーも平凡で、おもしろいところがいつくるかとずっと待っていたけど、結局、最後まで同じパターンだった」や「監督は、お決まりのパターンから外れようとすればするほど、それにはまっている。後半の1時間は、思いつきでストーリーが進んでいくような感じで、完全に道からそれてしまっている。ミュージカルも後半になるほどレベルが落ちる」との声を寄せている。実際には、「ダンスウィズミー」は日本でも興行収入がそれほど伸びず、1億円ほどにとどまっている。豆瓣では、5600人がレビューを寄せ、平均6.8ポイントとなっている。この数字は、46%のコメディ映画と25%のミュージカル映画を上回っているにすぎない。
アニメ映画は大ヒットも、実写版映画はイマイチ
ミュージカル映画というジャンルそのものがマイナーで、矢口監督も「ミス」を犯していることのほか、一般の映画鑑賞者の間では日本映画の知名度はそれほど高くないというのも、「ダンスウィズミー」の興行収入が全く伸びない原因の一つとなっている。2015年以降に中国で公開された日本映画を見てみると(2015年以前に中国で公開され興行収入が3000万元を超えた日本映画はなし)、現時点で、興行収入トップ10に入っているのは、全てがアニメーション映画。トップ3は、2016年に中国で公開された「君の名は。」(5億7500万元)、2015年に中国で公開された「STAND BY ME ドラえもん」(5億2900万元)、2019年に中国で公開された「千と千尋の神隠し」(4億8800万元)となっている。トップ10のうち、「君の名は。」と「天気の子」が新海誠監督の新作であるほかは、宮崎駿監督の「となりのトトロ」や「千と千尋の神隠し」、長寿アニメの「名探偵コナン」、「ONE PIECE」など、いずれも中国と日本の人々にお馴染みの名作映画ばかり。「ドラえもん」に至っては、劇場版4作品がランク入りしている。
2020年は、新型コロナウイルスの影響で、中国で公開された日本映画は9作品と、2019年と比べて半分以下に減った。9作品のうち、実写版映画が3作品、アニメーション映画が6作品。興行収入トップ5を見ると、4作品がアニメーション映画で、トップは1億2500万元の「デジモンアドベンチャー LAST EVOLUTION 絆」。実写版映画を見ると、木村拓哉と長澤まさみが主演の「マスカレード・ホテル」がなんとか4位に食い込んだだけだった。2019年は日本映画が中国で「爆発的」に公開された年となり、計24作品が公開された。しかし、興行収入トップだったのは、約20年前の2001年に日本で公開された「千と千尋の神隠し」だった。2018年に中国で公開された日本映画のうち、興行収入トップは「ドラえもん のび太の宝島」(2億900万元)で、やはりアニメーション映画だった。この年は矢口監督のヒット作品「サバイバルファミリー」も公開されたものの、興行収入は1140万3000元にとどまった。
実写版映画が、2次元(アニメ・漫画・ゲームなどを総じたジャンル)によって完全に脇に追いやられる状況は、日本の興行収入の状況とも一致する点は注目に値する。例えば、2017年を例にすると、日本の映画の興行収入トップ10に入った実写版オリジナル映画は1作品もなかった。(編集KN)
「人民網日本語版」2021年1月28日