12月10日、会期3日間の中央経済政策会議が終了した。今年の会議では「穏(安定)」が最も突出したキーワードになった。会議の様子を伝えた5千字足らずの文書には、「穏」の字が25回も出てくる。また「住宅」に関わる部分が165文字あり、二酸化炭素(CO2)排出量ピークアウトとカーボンニュートラルは2年連続で取り上げられた。
なぜこれほど安定が強調されるのか。今回の会議ではどのような重要なシグナルが発せられたのだろうか。
なぜこれほど安定が強調されるのか?
経済の下方圧力に対処することが、真っ先に考えなければならない問題だ。
新型コロナウイルス感染症と百年間なかった大変動が重なり、外部環境はより複雑で厳しく、不確実なものになっている。会議は今年の中国経済発展が獲得した貴重な成果を評価したと同時に、需要の縮小、供給への打撃、期待値の低下という目下直面する3重の圧力を特に指摘した。
今年の中国経済は安定回復したと同時に、増加ペースが「前高後低」の様相を呈し、第3四半期(7-9月)には経済成長率が5%を割り込んで、経済の下方圧力が高まったことを示した。基数的効用など複数の要因の影響を考慮し、経済の下方圧力が常態化することを防止し、マクロ経済の大局を安定させることが、来年の経済政策をしっかり進めるための重点になる。
中国の発展段階から考えて、安定の重要性は言うまでもない。
現在、中国は国内総生産(GDP)が100兆元(1元は約17.8円)の大台を突破し、1人当たりGDPは1万ドル(1ドルは約113.5円)を超え、高所得国へ向かって進んでいるところだ。この段階の経済発展の特徴は成長率が鈍化することで、同時に経済社会の発展の中で多くのリスクや課題に直面することにもなる。この法則から考えると、経済の安定が特に重要になる。
目下の中国全体の環境を考えても、安定は必要だ。会議で指摘されたように、来年は中国共産党第20回全国代表大会が開催される。これは党と国の政治における大きな出来事であり、そのためには安定した健全な経済環境、国が安定し国民が安らかに暮らせる社会環境、清廉で正しい気風の政治環境を維持する必要がある。
財政政策
今回の会議では、政策の力を発揮するには適度な前倒しが必要であり、財政が支出の進捗を加速する必要があることが提起された。これについてはどのように理解すればよいだろうか。
中国社会科学院数量経済・技術経済研究所マクロ政策研究室の馮煦明室長は、「目下の経済が下方圧力に直面する状況の中で、財政政策は引き続き積極的な取り組みを維持し、効果を高める必要がある。積極的な財政政策は来年、3つの次元からの新たな内容として体現されることになるだろう。力の入れ具合について言うと、新たな減税・費用削減政策を実施し、引き続き適度な財政支出を行い、民間部分の需要低下を相殺する」と述べた。
馮氏は、「構造について言うと、財政支出の構造を最適化することになるだろう。具体的には次の3つの強化がある。(1)中小・零細企業、自営業者、製造業、リスク解消などへの支援を強化する。(2)『両新一重建設(新型インフラと新型都市化の2つの建設、交通や水利など重要プロジェクトの建設)』、技術改良、生産能力のグリーン化などの分野への支援を強化し、財政支出により供給側の基礎固めをサポートする。(3)教育、文化、スポーツ、介護、医療などの公的サービスの分野での供給拡大と品質向上を強化する」と続けた。
また、ペースにおいては、財政支出のペースを適宜前倒しし、特にインフラ投資を適切に繰り上げて展開する。
金融政策
今回の会議では、「安定した金融政策」という基調は変わらなかった。ただ、表現としては昨年の「柔軟・精確、合理的・適度」から「柔軟・適度、流動性の合理的なゆとりを維持」に変わったと同時に、実体経済、特に小規模・零細企業、科学技術イノベーション、グリーン発展への支援を強化する必要があることが再び提起された。
実際、「柔軟・精確、合理的・適度」という表現は昨年の中央経済政策会議から今年中頃の中央政治局会議までずっと続いていたが、12月6日に行われた中央政治局会議では「柔軟・適度」と「流動性の合理的なゆとりを維持」に変わった。中国人民銀行(中央銀行)が11月に発表した第3四半期の金融政策報告にもこの新しい表現がすでに登場していた。
今回の会議では、金融機関が実体経済、とりわけ小規模・零細企業、科学技術イノベーション、グリーン発展に対する支援を強化するよう導くことが提起された。昨年の会議でも同様の要求が打ち出されていた。
分析によると、これは2022年の金融環境が引き続き分化したものになるであろうことを示している。一方では、従来の分野(例えば不動産やインフラ建設)はまだ引き締めが続き、緩和するのはリスク予防に関するものだけであり、ストックを安定させるためには、増加を断固として抑制しなければならない。その一方で、小規模・零細企業、科学技術イノベーション、グリーン発展に対する構造的に緩和された金融政策はこれからも深化し続け、持続するとみられる。再貸出、的を絞った準備率引き下げ、CO2排出量削減支援ツールなどの構造型金融政策ツールは来年も引続き実施される可能性が高い。
インフラ投資
インフラ投資を適度に前倒しして展開することについては、すでに言及がなされており、市場の関心を集めていた。では、なぜインフラ投資を前倒しして展開しなければならないのだろうか。
広発証券の郭磊チーフエコノミストは、「政策の短期的な論理は安定した成長であり、バランスを失った投資率を再び安定させることにある。ここ数年の経験から考えると、固定資産投資の増加率が明らかに低い時に経済はバランスを失うという特徴がある。2021年にはインフラ建設投資が再び低成長の時期にさしかかり、1-10月の増加率はわずか1%だった。そのため短期的な安定した成長のためには、投資率の安定がカギになる」と指摘した。
また郭氏は、「2022年は、製造業の投資でストックが足かせになることや、『CO2排出量ピークアウトとカーボンニュートラル』の後押しなどを受けて、『全体量が減少傾向、構造が活発化』という特徴を示し、インフラ投資が再びバランスの取れた増加率に戻る可能性がある。2022年のインフラ投資は再び安定に向かい、通年の増加率は5-6%の水準を回復するだろう」と指摘した。
住宅
今回の会議では、「住宅は住むためのもので、投機のためのものではないとの位置づけを堅持する」ことが再び提起されたと同時に、「予測の誘導を強化し、新たな発展モデルを模索」し、「分譲住宅市場が住宅購入者の住まいに対する合理的なニーズをよりよく満たすよう支援し、都市の状況に基づいて不動産業の良好な循環と健全な発展を促進」するなどの内容が重点的に強調された。
上海易居不動産研究員シンクタンクセンターの厳躍進研究ディレクターは、「今回の会議は不動産の発展に新たな基調路線とアプローチを提起しており、2022年の不動産市場政策などを理解する上で重要な役割を果たす。住宅関連で重点的に注目すべき内容には、▽「不動産は住むもので投機するものではない」との位置づけは揺らがない▽期待の誘導を明確にする▽新たな発展モデルの模索を進める▽合理的な住宅需要を支援する▽発展目標を調整する、の5点がある」と述べた。
CO2排出量ピークアウトとカーボンニュートラル
2020年の中央経済政策会議で初めて「CO2排出量ピークアウトとカーボンニュートラルの取り組みをしっかり行うこと」が新たな1年の重点任務とされたのに続いて、2021年の同会議は「新たに増加した再生可能エネルギーと原材料のエネルギー消費はエネルギー消費の総量規制に組み込まない」ことなど、さらに新しい要求を打ち出した。全体の要求の中には、「石炭・電力・石油製品・天然ガス・輸送と重要工業製品及び原材料などの調節を強化し、電力のゆとりある供給を促進する」との表現が加わった。
2021年中央経済政策会議では、CO2排出量ピークアウトとカーボンニュートラルを正確に理解・把握する必要があるとの見方が示された。CO2排出量ピークアウトとカーボンニュートラルを実現することは質の高い発展を推進するための内在的な要求であり、揺るぎなく推進する必要はあるが、一気にすべてを解決することはできない。
CO2排出量ピークアウトとカーボンニュートラルの目標が提起された後、今年は一部の地方でエネルギー消費の多いプロジェクトを「一律に」停止するなどの行為や、ペースの速すぎる脱石炭の動きにより、停電したり電力使用が制限されたりした地方もある。今年中頃に開催された中国共産党中央政治局会議及び関係当局は相次いでコメントを出し、「一律型の炭素排出削減」を是正した。
経済運営は動態的なプロセスだ。今回の会議は問題のはっきりとした方向性を伝え、タイミングや強弱、効果をしっかり把握し、長期的目標を短期化させず、体系的目標を断片化させず、持久戦を突撃戦にしないことを強調し、「安定を維持しながら前進」をどうやって実現させるかについて明確に方向を指し示した。(人民網日本語版論説員)
「人民網日本語版」2021年12月14日