この動画は、米国オハイオ州イースト・パレスティーンの住民が最近撮影した「災禍の一幕」だ。中央テレビニュースが伝えた。
動画の中ではもうもうたる煙が空高く立ち昇り、暗く重い空には大きな黒い雲が流れ、空気中にはタイヤが燃えたような刺激臭が充満している。
有毒な化学物質を積んだ列車が脱線し、有毒ガスが「制御放出」され、動物に中毒症状が生じている。そして、この事態を生中継した記者は逮捕された。米国の主要メディアは、自国で起きているこうした事態に対して余り関心がないようだ。
■オハイオ州で一体何が起きたのか?
2月3日夜、オハイオ州イースト・パレスティーンへと走っていた列車が脱線し、炎上した。貨物輸送用列車で、約50車両のうち10車両に有毒な化学物質が積まれていた。炎上は3日夜から4日朝まで続いたが、幸い火の勢いは抑え込まれ、死傷者は出なかった。
しかし、これで終わりでは全くなかった。その後列車のクロロエチレン(「塩化ビニル」とも)を積んだ5車両の減圧装置が機能を停止し、うち1車両の内部で「急激な温度変化」が生じており、爆発の危険があることに作業員が気づいた。災害の発生を回避するため、列車を所有するノーフォーク・サザンは、この5車両の積載物に対して「制御放出」を行うことを決定した。
■「制御放出」とは何か
かいつまんで言えば、人為的に放出し、事前に準備した坑道内でクロロエチレンに点火するということだ。同日午後、現場では激しい火の手が上がり、巨大な黒い煙が立ち昇った。脱線後、イースト・パレスティーンは緊急事態に入り、住民4000人余りのうちすでに半数が緊急避難した。いわゆる「制御放出」の決定後、地元政府は避難対象範囲を事故発生地点の周囲1.6キロから3.2キロの住民にまで広げた。いわゆる「制御放出」が制御できていないことは明らかだ。
■クロロエチレンはどれほど有毒か
クロロエチレンは無色で可燃性の気体で、発がん性がある。クロロエチレンの爆発・燃焼後に生じるホスゲンと塩化水素も有毒な気体だ。ホスゲンは嘔吐や呼吸困難を起こし得る。第1次世界大戦時には、化学兵器として用いられた。
しかし、クロロエチレンだけではない。ノーフォーク・サザンが13日に公表した車両積載の化学物質には、列車の脱線・炎上時に大気中と土壌中に放出された有毒な化学物質として、さらに2-ブトキシエタノール、アクリル酸2-エチルヘキシル、イソブテンも含まれていた。オハイオ大学大気質センター長は、「アクリル酸2-エチルヘキシルは発がん性物質で、接触すると皮膚や目の火傷や痛みが生じ、吸入すると鼻や喉の不快感、荒い呼吸や咳を引き起こし得る。イソブテンを吸入すると、眩暈や倦怠感・眠気を引き起こし得る。2-ブトキシエタノールは目、皮膚、鼻、喉の痛み、及び血尿症、神経系阻害、頭痛、嘔吐を引き起こし得る」と指摘する。また、燃焼がほとんど終わった後も、これらの有毒物質は依然として土壌中に浸透する可能性があり、浄化作業が必要となるという。
オハイオ州の危険物専門家はメディアの取材に対し、今回の事故は「化学物質を用いて小さな町を壊した」ようなものだと指摘。「5~20年後、地元の人々に数多くのがん患者が生じるかもしれない。化学物質漏洩により生じ得る影響を防ぐため、住民の健康診断を行ってもらいたい」と述べた。
■地元住民は帰宅できたのか?
イースト・パレスティーン住民に対する強制避難命令は8日に撤回された。サンプル調査の結果、現地の大気と水が安全であると示されたことがその理由で、住民は帰宅してよいと告げられた。
米紙ワシントン・ポストによると、一部住民は帰宅後に頭痛や吐き気などの症状を訴えている。オハイオ州の自然資源当局によると、列車脱線による化学物質の漏洩によって、すでに約12キロに及ぶ河川で3000匹余りの小魚が死んだ。化学物質漏洩のもたらす未知のリスクを前に、一部住民は再び避難を選択した。今後が不透明な中、彼らは事態がもっとはっきりしてから帰宅を考えることにしたのだ。
■真相はいつ明らかになるのか?
地元政府は8日、今回の事故についてプレス・ブリーフィングを行ったが、会場では記者1人が生中継中に警察に乱暴に逮捕され、5時間後にようやく釈放された。この記者は、生中継したのは住民が知るべき事実と真相を伝えたかっただけだと述べた。
有毒な化学物質の「制御放出」には、もっと深いレベルの目的があったのか?
いつでも起こり得る二次災害を前に、「脱線」してしまった住民の生活はいつになったら正常な軌道に戻るのか?
自国民の安全に関わる出来事であるにも関わらず、この件に対する関心は他のいわゆる「注目事項」に遠く及ばない。重大な問題を避けて他の問題ばかり論じる米国は、一体何を覆い隠そうとしているのか?
災害を前にして、地元の住民、そしてより多くの大衆が必要としているのは、真相だ。(編集NA)
「人民網日本語版」2023年2月15日