今年の「ダブル11」(11月11日のネット通販イベント)には、多くの若者の非理性的消費(衝動買い)が伝統的な無形文化遺産と老舗に向かっている。天猫(Tmall)によれば、プレセール第一弾が始まると、「00後(2000年代生まれ)」の消費者の無形文化遺産関連商品の購入金額、購入者数がいずれも前年同期比100%以上増加し、筆・墨・紙・硯の文房四宝が今年の「ダブル11」の人気商品になった。善璉湖筆、栄宝斎、李廷珪などの無形文化遺産の伝統工芸品を扱う店舗も売上高が2倍以上増加した。今年の「ダブル11」期間に、天猫は前衛芸術家とトレンドのデザイナーの計10人に依頼し、無形文化遺産の伝統技術に新たな息吹を吹き込んで、若者の嗜好に合わせた商品を打ち出し、コラボ商品の専用販売サイトも開設した。「北京日報」アプリが伝えた。
千年にわたり伝承されてきた陶磁器の「定窯」がトレンド玩具のフィギュアになり、鳳翔の年画が医薬品の馬応龍とコラボした商品を発売……無形文化遺産はもはや博物館の棚にしまい込まれた「骨董品」ではなくなり、インターネットの世界で若者に人気の「新国潮(国潮とは中国伝統の要素を取り入れたおしゃれな国産品のトレンド)」に生まれ変わった。
「定窯」の継承者の厖永輝さんは、現代アートの張詩浩がデザインした「定窯」モチーフのトレンド玩具のスケッチを見て、「定窯も日用品に生まれ変わって、現代人の審美眼とニーズに応えられるようにならなければ、若者にアクセスすることはできないし、伝承もできなくなる。この若きアーティストのアイデアで感覚を一新した」と感慨深そうに話した。
張詩浩は「80後(1980年代生まれ)」のマルチアーティストで、このたび天猫の依頼で無形文化遺産に新たな息吹を吹き込むプロジェクトに参加し、デザインを通じて「定窯」を一揃いのトレンド玩具に変身させた。デザインのインスピレーションは若者に人気があるメディアコンテンツ「明日深淵」シリーズのキャラクターから来ており、宇宙飛行士や犬型ロボットのモチーフが取り入れられ、伝統的な「定窯」の造型を保ちながら、トレンド要素を巧みに溶け込ませている。
厖永輝さんは河北省保定市曲陽県の厖家窪村の出身で、村から東に1キロメートルのところに古代の定窯の遺跡があり、遺跡の陶磁器の破片の上で成長したという。大規模な遺跡で「定窯」の栄華と衰退の歴史が記録されている。「定窯」は唐の時代に始まり、宋の時代に盛んになり、かつては汝窯、官窯、鈞窯、哥窯とともに宋の5大名窯と呼ばれていたが、元の時代になると徐々に衰退に向かった。厖さんは1992年にこの仕事を手がけるようになったが、当時は県内にある陶磁器工房は厖さんのところだけで、発展は一時困難にぶつかり、職人に給料も払えないような状態だったという。
「定窯」の運命は多くの無形文化遺産の発展の歴史の縮図だ。公表されたデータによると、無形文化遺産の70%以上が農村にあり、国が認めた継承者の平均年齢は60歳を超える。多くの無形文化遺産が現代のニーズや審美眼に合わず、伝承が途絶える直前の状態だという。
「無形文化遺産はかつて盛んだった時代には、新しい技術であり、新しいトレンドだった。というのも、当時の市場に呼応して生まれたものだからだ。そして今、発展が困難な状況にぶつかったのは、新たなトレンドという要素が足りないからだ」と話す厖さんは、ここ数年は「定窯」を活性化し、保護する道を探り続けており、自身の淘宝(タオバオ)店舗も開設した。
阿里巴巴(アリババ)集団の董本洪最高マーケティング責任者(CMO)は、「若者が無形文化遺産を好むのは、単に歴史が古く、高度な技術があるからだけでなく、遺産と若者の新たなニーズとの間で息がぴったり合ったからだ」との見方を示した。
ECは無形文化遺産の活性化と保護を推進する重要な力になりつつある。中国社会科学院中国世論調査実験室と「中国旅行報」が阿里巴巴と共同でこのほど発表した「無形文化遺産EC発展報告2021」によると、過去1年間に無形文化遺産産業ベルト14ヶ所の淘宝・天猫における取引額が1億元(約17.8億円)を超え、その半数近くは県及びそれ以下の地域にあるものだった。無形文化遺産のECが発展して、大勢の若者が故郷に戻り起業するようになり、アンケート調査に答えた淘宝の手工芸職人の40%近くが「90後(1990年代生まれ)」だった。今年の「ダブル11」プレセール第一弾では、ヨーグルトが人気の食品メーカーの安慕希と安徽省産の名墨「徽墨」のコラボ商品が爆発的な売れ行きを示し、国潮グルメランキングのトップ3に入ったという。(編集KS)
「人民網日本語版」2021年11月5日