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米プロバスケットボール協会(NBA)のヒューストン・ロケッツのゼネラルマネージャー(GM)のダリル・モーリー氏が香港に関して誤った発言をした問題が拡大を続けている。NBAのコミッショナーのアダム・シルバー氏は関連のコメントの中で謝罪しなかっただけでなく、「表現の自由」を言い立てた。過去30数年にわたり、NBAは中国市場から非常に大きな利益を得てきたが、今回の問題が絶えずエスカレートし拡大するのにともない、中国でのビジネス戦略が重大な挑戦に直面する可能性が出てきた。
主権への挑戦が「表現の自由」だろうか?
10月5日、モーリー氏が誤った発言をツイートすると、たちまち大きな論争を引き起こした。モーリー氏は非難や抗議に直面しながら、一言も謝罪していない。シルバー氏も、「モーリーGMの表現の自由を支持する」とのコメントを発表した。
こうした発言に対し、中央広播電視総台のスポーツチャンネルは、「私たちは、国家の主権と社会の安定に挑戦するいかなる言論も、表現の自由の範疇には入らないと考える」と報じた。
NBAのブルックリン・ネッツのオーナーのジョセフ・ツァイ氏がコメントで述べたように、「NBAには開放的であることを重んじる価値観があり、選手や関係者がさまざまな話題について各自の意見を発表することを認めるが、問題は、特定の国家、社会、クラスターの中で『地雷原』になる話題もあるということだ。人種問題は米国の『地雷原』、主権と領土保全は中国ではこれ以上に大切なものはなく、『政経分離』や『小異を残して大同につき、一致点を集めて相違点を解消する』ということはほぼ不可能だ」。
つまり、NBAは企業であり、中国で市場を開拓したからには、中国の主権と領土保全を尊重し、中国の法律を遵守し、中国国民の民族的感情を尊重しなければならない。これは他国に投資して事業を興し、協力を展開するすべての企業が最低限遵守すべきことだ。
中国市場は小さすぎて価値がないのか?
問題の発生から現在まで、さまざまな意見が錯綜し、今回NBAがこれほど傲慢な態度を取るのは、NBA全体で80億ドル(1ドルは約108.0円)に上る収入に対して中国市場の寄与は微々たるものだからだという見方もあった。モーリー氏が掌握するロケッツの場合、中国市場と中国企業の収入への寄与度は10%に満たない。
中国市場は、本当に小さすぎて気にかける価値もないのだろうか。
ほかの全てのプロスポーツリーグの運営と同様、NBAビジネスの本質は「ファン経済」だ。高いレベルの多層的な試合を運営して、影響力をもったスターを絶えず生み出し、観客に試合を見に来てもらい、テレビやインターネットで観戦してもらい、関連グッズを買ってもらって多額の収入を得る。
収入の構成をみると、NBAの収入の中核は放映権料、そして広告料、チケット収入、関連グッズの売り上げだ。
収入の中で一番多いのは放映権料収入だ。放送機関が支払う放映権料収入は、試合を見る人が多ければ多いほど高くなる。ボールスポーツファン3億人の基数を擁する中国市場が、NBAのビジネスにとってどれほどの価値をもつかは、言わずとも明らかだ。
実際、米国でNBAは4大プロスポーツリーグの1つに過ぎず、アメリカンフットボールのナショナルフットボールリーグ(NFL)、野球のメジャーリーグベースボール(MLB)に続く3番手だ。ただNBAは4大リーグの中で最も稼いでいるわけではないが、国際化された普及拡大路線で圧倒的に先行していることは確かだ。
中国において、NBAが最も強い影響力と集金力を備えたスポーツイベントであることは間違いない。過去30年間の発展を通じて、世界最大のバスケットのプロ組織として、NBAにとって中国市場は米国市場に次ぐ世界で2番目の市場になった。NBAの中国での歓迎のされ方と影響力は、米国でのそれをはるかに上回りさえする。
夢よもう一度 NBAの中国ビジネス計画に大きな打撃
NBAが毎年中国でどれくらい稼ぎ出しているか、今は正確なデータはないが、各方面の報道を総合して統計を取ると、放映権料、広告料、チケット収入、関連グッズ販売などの収益モデルにより、中国で毎年生み出される商業価値は100億元(1元は約15.2円)を上回り、さらに飛躍的なペースで増加していることがわかる。
新華社の報道によれば、NBAの2018年の中国での時価総額は40億ドルに上った。NBAの副コミッショナーのマーク・テイタム氏は昨年のNBA中国シーズン中にメディアに対し、「2008年にNBA中国が発足してから、毎年の収益は2けた増加を続けてきた」と明かした。
NBAが中国市場を開拓してきた30年間は、あふれんばかりの大きな収益を上げた30年間だったといえる。
ロケッツについて言えば、02年に姚明が入団すると、中国のスポンサー企業がたくさん集まった。燕京ビール、匹克、方正集団、統一企業、崑崙潤滑油、中興、水性科天、■(にんべんに尓)我貸、普車房網、浦発銀行など多くの中国企業が提携関係を結んだ。またロケッツのバーンズ、ムトンボ、フランシス、スコラなど10人近い選手が李寧、匹克、安踏などの中国ブランドと提携し、CM出演料が1億元を超えたケースもあった。マグレディやランドリーといったかつてのスター選手もしばしば中国に来て稼ぎを上げている。
05年、ロケッツ前コミッショナーのレスリー・アレクサンダー氏はNBAで最も貧しいコミッショナーだったが、その翌年には個人資産が12億ドルに急増し、前年の15倍になった。アレクサンダー氏は06年に取材に答える中で、「姚明が来て、私に12億ドルの富をもたらしてくれた。中国市場の開発が自分にとって最大のビジネスチャンスだったからだ」と明かした。17年にロケッツを売却した際の取引価格は22億ドルで、買収価格の25倍に跳ね上がっていた。
17年にロケッツを引き継いだ現コミッショナーのティルマン・フェティータ氏も相当の収入を上げている。17年以降、ロケッツの中国市場開発は加速し、中国のスポンサー企業は12社に増える見込みとなり、総収入に占める中国市場の割合も20%に上昇した。17年以前は、中国のスポンサー企業ブランドは4-8ブランドを維持し、総収入(放映権料収入とライセンス料収入を除く)への寄与度は8-10%だった。
NBAにはより大きな収入が入った。NBAはスポーツイベントの知的財産権所有者であり、ビジネスモデルでは無形資産を有形化して収入を生み出してきた。NBAの知財権は中国では商品から試合、会場へと及び、一つの生態圏を構築している。今回の問題発生後、虎撲体育を含むバスケフォーラムやトレンド商品取引アプリ「毒」も影響を受けることになるとみられる。
こうした業務が将来どれほどの影響を受けるか、しばらく様子を見る必要がある。中国新聞網の「国是直通車」は、「おおまかな試算によると、ロケッツは毎年4億元の損失を出すことになる。NBAというビジネス連盟にとって、14億人の人口を擁する中国市場を失えば、顕在的・潜在的な損失がさらに大きくなることに疑問の余地はない」との見方を示した。
30年と3日 NBAの中国での発展はどこへ向かうか?
30年前の1989年、当時のNBAコミッショナーのデビッド・スターン氏はビデオを持って中国中央テレビを訪れ、受付でかなり待たされた後、中国における放映権料なしでの試合の放映にこぎ着けた。コミッショナーという高いポジションにありながら、見返りを求めずに中国人とNBAとの出会いを創り出したことに、スターン氏の勇気と誠実さがうかがえる。
スターン氏は中国市場のドアを叩いた。その後しばらくNBAの人気は盛り上がらなかったが、10数年の成長期を経て、今では中国で最もよく知られたスポーツイベントになった。
02年に姚明がトッププレイヤーとしてロケッツに入団すると、NBAは中国市場での黄金期を迎えた。NBAの公式の統計では、姚明の入団から退団までの間に、観客数は3億7千万人増加したという。
姚明が退団し、易建聯が中国に戻って自国で活躍するようになると、NBAには代表的な中国人選手がいなくなった、しかしネットライブ配信の誕生発展にともない、NBAの中国での発展はますます良好になっている。
14年に新コミッショナーに就任したシルバー氏は、中国市場に相当な精力を注いだ。シルバー氏は中国語名を「肖華」といい、これはNBA中国の従業員がみんなで知恵を絞ってシルバー氏のために考えたものだ。シルバー氏が打ち出した一連の行動、たとえば毎年スター選手の中国訪問を企画する、新年の祝賀カードの写真撮影をするなどは、NBAに中国要素を加えるために打ったあらゆる手立ての一つで、大きな成功を収めた。
モーリー氏の問題が拡大を続けるのにともない、NBAの中国での最初の一歩、発展、今日の繁栄など、すべてが一時停止状態になった。NBAは中国市場のドアを開くのに30年かかったが、シルバー氏とモーリー氏によりそのドアはわずか3日で閉じられてしまった。(編集KS)
「人民網日本語版」2019年10月12日