デジタル人民元の消費クーポンを利用し、デジタル人民元でシェア自転車の料金を支払うなど、デジタル人民元は今、人々の暮らしに溶け込みつつある。しかしこの新たな決済方法に対し、心の中でいろいろな疑問を抱く人は少なくない。そこで、中国人民銀行(中央銀行)の総裁がデジタル人民元について述べた内容から、そうした疑問に対する答えを探してみよう。新華社が伝えた。
デジタル人民元の発行規模はどれくらい?
数年にわたる努力の結果、中国のデジタル人民元テストは、テストエリア10ヶ所と北京冬季五輪・パラリンピック会場でテストが行われる「10+1」という状況になっている。今年10月8日の時点で、テストシーンは350万ヶ所に達し、累計で1億2300万の個人向けウォレットが開設され、取引金額は560億元(1元は約17.8円)に上った。
デジタル人民元は今も開発テストの段階にあり、発行規模は相対的に限られている。しかし今後、テスト範囲が拡大を続けた場合、発行規模は人々のニーズを満たせるだろうか。
人民銀行の易綱総裁はこのほど、フィンランド銀行(中央銀行)の新興エコノミー研究院設立30周年記念イベントで行ったビデオ中継によるスピーチの中で、「私たちが一貫して強調しているのは、中央銀行のデジタル通貨の利用と普及推進は市場化の原則を遵守しなければならないということだ。つまり、利用者が両替したい分だけ、私たちはデジタル人民元を発行する」と明確な回答を打ち出した。
デジタル人民元と実物の人民元は並行して発行される。すると、「必要なだけ発行されるとしたら、『通貨の超過発行』にならないだろうか」と懸念する人が出てくる。
人民銀行は関連の制度・規定を策定する際、こうした問題について十分な検討を行った。
まず、デジタル人民元は2層の運営システムを採用し、人民銀行が中心化管理を実施する。易総裁は、「消費者がデジタル人民元を利用する時に接する商業銀行や決済機関は『仲介者』であり、利用者のためにデジタル人民元の両替を行い、決済サービスを提供するだけだ。人民銀行はデジタル人民元を投入する過程においても中心的な位置にいて、通貨発行と通貨政策の調整コントロール能力を保障し、指定の運営機関に『通貨超過発行』の問題が起こるのを回避することができる」と述べた。
同時に、デジタル人民元は主に流通している現金(M0)を代替するものとの位置づけで、利息は付かないため、人々が大量の預金をデジタル人民元に両替することはないだろう。さらに、金融仲介機関離れが起きたり、金融政策の伝達効率が低下したりすることもないだろう。
このほか、デジタルウォレット残高の上限額や取引金額の上限額が設定されるといった措置により、取り付け騒ぎなどのリスクの可能性を効果的に引き下げることができる。
人民元の現金はなくなるのか?
「デジタル人民元が行き渡り、手に入れやすくなっていくと、徐々に現金に取って代わるようになる」と考える人がいる。人民元の現金は暮らしの中から姿を消すのだろうか。
易総裁は、「中国は地域が広大で、人口も多く、地域の発展格差が大きい。こうした要因と利用者の決済習慣により、予見可能な未来において、現金は長期的に存在し続けることが見込まれる。現金へのニーズがある限り、中央銀行は現金の供給を停止しないし、行政命令によって現金をデジタル人民元に置き換えるということもしない」と明確に述べた。
現在、高齢者がモバイル決済分野で陥る「デジタルデバイド」の苦境は軽視できなくなっており、かなりの高齢者がデジタル人民元の効率の高さと便利さを享受できていない。また、一部の遠隔地や貧困地域では、電子決済用の装置を全面的に設置することが難しい。そのため、今後も人民元の現金を必要とする人も多く、こうした人々の決済の選択も尊重しなければならない。
こうしたことから、実物の人民元には他の決済手段では代替不可能な特性があり、今後も長期にわたりデジタル人民元と共存することになるとみられる。
デジタル人民元はプライバシーを保護できるか?
ここ数年、モバイル決済が急速に発展している。昨年の決済金額は前年同期比で約25%増加し、普及率は現時点で86%に達した。
易総裁は、「しかし、現在の電子決済ツールは主にリテール部門が提供するもので、市場の分割や個人情報漏洩などのリスクが見込まれる。中央銀行発行デジタル通貨(BCDC)により、中央銀行はデジタル経済時代において信頼できる安全な決済手段を引き続き提供し、決済効率を高めると同時に、決済システムの安定を維持することができる」との見方を示した。
それでは、デジタル通貨はプライバシー保護と犯罪防止の関係をどのように処理するのか。易総裁は、「現在の国際社会の基本的な共通認識では、CBDCは完全に匿名ということはあり得ない。そうでなければ、マネー・ロンダリングやテロ資金供与などの違法取引のリスクが増大し、社会の利益を損ねることになる。そのため、デジタル人民元にはコントロール可能な匿名性という特徴が備わることになった」と述べた。
また易総裁は、「私たちはデジタル人民元における個人情報保護問題を非常に重視しており、これに関する制度や技術設計を採用している、デジタル人民元は匿名性において『小口は匿名、大口は法律に基づいて追跡可能』との原則を採用し、個人情報を収集する際には『最小限、必要な場合』との原則を遵守し、収集する情報量は既存の電子決済ツールよりも少なくなる。同時に、個人情報の保存と使用を厳格に抑制する。明確な法的要求がある場合を除き、人民銀行は関連の情報をいかなる第三者機関またはいかなる政府機関にも提供してはならない。このほか、中国が最近制定した『データ安全法』や『個人情報保護法』などは、法整備の面からデータのセキュリティとプライバシー保護を強化した」と説明した。
デジタル人民元はいつから国境を越えて使用できるのか?
現在、110を超える国がそれぞれCBDC業務を展開している。デジタル人民元はいつから国境を越えて使用できるようになるのか。
易総裁は、「国境を越えた利用の複雑さを考えると、デジタル人民元は今のところ国内の小売ニーズへの対応が中心になる。国境を越えての利用や国際市場での利用は相対的に複雑で、マネー・ロンダリング対策や顧客のデューディリジェンスなど法的問題に関わり、国際市場では踏み込んだ検討が進められている。人民銀行は各国の中央銀行や国際機関とともにデジタル通貨分野の協力を強化したいと考えている」と述べた。
少し前には、中国人民銀行デジタル通貨研究所、香港金融管理局、タイ中央銀行、アラブ首長国連邦(UAE)中央銀行が共同で、多国間の中央銀行デジタルブリッジ通貨研究プロジェクトを立ち上げ、CBDCの国境を越えた決済における役割と技術面の実行可能性の共同研究をスタートした。また、人民銀行は欧州中央銀行ともCBDCの設計をめぐった技術レベルの交流を展開している。
易総裁は、「今後、中国人民銀行は引き続き開放的で包摂的なスタイルによって、各国の中央銀行及び国際機関とCBDCの標準・原則を探求し、国際通貨システムの前進発展を推進するプロセスの中で、各種のリスクや挑戦に適切に対応していく」と述べた。(編集KS)
「人民網日本語版」2021年11月12日