いつの頃からか、劉芳さん(27)と祖母(72)の会話はいつも平行線をたどるようになった。祖母の話によく出てくるのは親戚のおじさんやおばさんばかりなのに対して、劉さんの話には友達や同僚、同級生くらいしか出てこないからだ。中国青年報が報じた。
劉さんは、「私と祖母はジェネレーションギャップがあるような気もするし、ジェネレーションギャップよりもっと複雑なものがあるような気もする。祖母は以前はずっと田舎で暮らしていて、家の周りには親戚がたくさん住んでいたので、暇な時には互いの家を訪ねておしゃべりを楽しみ、何か用事がある時は一声かければ、親戚数人がすぐに駆けつけて手伝ってくれていた」と話す。
社会人になる前、劉さんは必ず1年に1回は田舎の実家に帰っていた。しかし社会人になってからは、不定期になり、元々それほどよく知っているわけではなかった親戚とはさらに疎遠になってしまったという。そのため、祖母から、「親戚も知らないなんてどういうことなの。今後、何かあった時、誰に助けてもらうの?」と文句を言われることも多く、劉さんは、「仕方ないわ。だって私の交際範囲の中に関わってくる親戚なんて、数えるくらいだから」と苦笑いするしかないという。
劉さんのような90後(1990年代生まれ)を「ノンルーツ世代」と呼ぶ人もいる。都市で生まれ育ち、物質的には恵まれていても、人情味ある交流は少なく、親戚との関係もどんどん希薄になっていく一方、友達との絆は強まっている世代だ。
上海社会科学院社会学研究所の副研究員・劉汶蓉氏は、「親戚関係が希薄になるというのは都市化発展において避けることのできない流れだ。しかし、その希薄さがイコールノンルーツだと単純に結論付けることはできず、この世代の人々の文化や道徳を批判することもできない。実際の社会環境を考えて、理解し、分析する必要がある」との見方を示す。
貴州省に住む定年退職者の方志梅さん(52)は、「子供には自分の交際範囲があるので、自分と同じように親戚全員を知っていなければならないと求めるのは難しいと思う。子供が他の地域で家庭を築いたら、家族の規模は小さくなっていくだろう。しかし、子供たちには親戚と全く連絡を取らなくなり、自分の『ルーツ』がどこにあるのかを忘れてしまってほしくはない」という考えだ。
一部の若者にとって、親戚というのは、春節(旧正月)や祝祭日の時に会う人で、「それほど楽しくはないひと時」というイメージを抱いているかもしれない。親戚とは血縁関係にあることは知っていても、自然と親しみを感じたり、そこに居場所を見つけたりすることはできないという若者も多い。
劉汶蓉氏は、「社会が変化するにつれて、家族の規模も縮小傾向にある。農業時代の人々は生まれた場所で生まれ育ち、一生を過ごした。一方、今の若者は、新しい都市の環境にいかに根を下ろすかという極めて現実的な問題に直面している。都市の核家族を見ると、子供と親の絆は強いが、それ以外の親戚となると、関係は希薄になっている」と分析する。
こうした傾向は、中年になりつつある80後(80年代生まれ)に特に際立って見られる。
80後の教師・鄭宇さんは2010年に、実家のある吉林省長春市を離れて、広西壮(チワン)族自治区南寧市の大学の修士課程で学び始めた。そして今、南寧市に定住し、ローンでマイホームや車も買い、両親を呼び寄せることも考えているという。
もちろん、新しい場所に根を下ろすことができるかに関心を抱いているものの、鄭さんは、「親戚というのは、親戚以上でも以下でもない。親戚だからといって、いつも一緒に過ごす必要があるわけではない。北京や黒竜江省哈爾浜(ハルビン)を通ることがあれば、親戚の家に寄ったり、微信(WeChat)の親戚のグループチャットに時々メッセージを送ったりするなど、意識的に親戚と連絡も取っている。会うことは少なくなったと言っても、十数年会っていない親戚でも何かあれば、必ず助けの手を差し伸べる」と話す。
劉汶蓉氏は、「現在の環境において、若い世代の親孝行のスタイルにも明らかな時代の特徴が表れている。例えば、祭りや伝統の儀式よりも、若者は自分なりに考えて、健康やファッション、旅行などの分野で、自分が良いと思う物を親と共有することを好む」と指摘する。
儒教の文化の影響で、東アジアの社会では、家族のネットワークが、個人の発展を支えるネットワークと見られがちだ。では、年長者が守ってきた親戚関係が、子供の世代で薄れてしまい、親孝行のスタイルも、儀式重視から実践重視へと変化しているということは、「ノンルーツ」になっているということなのだろうか?劉汶蓉氏は、「それを基準に、若者の世代が『ノンルーツ』であると断言する必要はない。『ルーツ』というのは、後ろではなく、前に目を向けるべき。若者がいかに自分で根を下ろすことができるようにするかというのが、現代化の過程で向き合うべき問題だ」との見方を示している。(編集KN)
「人民網日本語版」2022年1月10日