「中国人はどこへ行っても、何か方法を考えて野菜を育てることができる」。
これまで、こんな言葉で中国人の「家庭菜園へのこだわり」が言い表されてきた。ベランダでも、海外の洋館の庭でも、家族の年長者は空き地がありさえすれば何か植えようとしたものだった。
しかし現代では家庭菜園は年長者の専売特許ではなく、都市部の若者たちの間でのブームになっている。ECプラットフォームが発表した「ベランダ菜園報告2022」によると、今年第1四半期(1-3月)に各種の野菜の種の売り上げが前年同期に比べて激増し、購入者数の増加率は3年連続で100%を超えた。うち北京、上海、杭州の3都市は購入者がとりわけ多かった。
ベランダ菜園は新たな100億元市場(1元は約19.1円)とみなされる。野菜栽培経済だけでなく、こうした「シティ・ファーマー」のライフスタイルも都市に微細だが軽視できない変化をもたらしつつある。
SNSでは、多くの野菜栽培の初心者たちが各自の栽培プロセスを競うように公開し、野菜を育てる時の心得をやりとりしている。先輩は後輩に経験を伝え、どんな野菜が最も育てやすいか、土の配合はどうするか、肥料はどうやって使うかなどを教えている。
突然発生した新型コロナウイルス感染症が、せわしない都市の生活リズムを減速させ、多くの人が家庭菜園のような自給自足の昔ながらのライフスタイルを再び選ぶようになった。
2020年初め頃、深セン市のイラストレーターのechoさんは、色とりどりのきれいな花を育てるのに夢中で、「野菜栽培は年長者のすること」と思っていた。しかしその後、感染症で家に閉じこもって2ヶ月あまりがたつうちに、毎日がだんだん退屈になってきた。そんな時、思いついて土の中にサツマイモを埋めてみると、すぐに芽が出ることを発見した。さらにニンニク、ネギ、ホウレン草の根っこなどを栽培すると、花よりも早く芽が出ることに気づき、野菜栽培は「ペースが速い上に食べることができる」ことを発見した。
echoさん宅のベランダ。(画像提供は取材対象者)
その後、新居に引っ越したechoさんは、あらかじめベランダ菜園計画を立てた。ガーデニング用の散水ノズルから排水溝まで、植物育成用ライトから2面のグリーンウォールまで、夫と長い時間をかけて練り上げた。自宅の5.9平方メートルの北向きのベランダが余すところなく利用され、今はナス、ミニトマト、レモン、ホウレン草、ニラ、万能ネギ、唐辛子、ミントなどが植えられている。
「ベランダ菜園は野菜を買わなくていいというレベルまではできないが、そこから得られる安心感は本当にお金では代えられないものだ」とechoさん。今年3月中下旬、深センでは不要な外出をしてはいけなくなった。スーパーに大量にあった野菜が売り切れても、echoさんは全然心配することなく、「植物をたくさん育てているので、家には野菜がいっぱいあり、いわば『家に食糧があれば、慌てずに済む』の心境だった」という。
ベランダの「桃源郷」
echoさんが育てたミニトマト。(画像提供は取材対象者)
種をまくと早ければ1日から2日で芽が出て、2ヶ月もすれば成果が食卓に上る。家庭菜園をする人の中には、「野菜を育てた時の達成感 > 花を育てる >> 子育て」などと冗談を言う人もいる。
野菜そのものの実用的な価値だけでなく、野菜を育てることによる癒やしの効果もますます重視されるようになり、「暮らしの困難から救い出してくれる良薬」などと呼ぶ人もいる。中国農業大学農産物市場研究センターの韓一軍センター長はかつて、「都市農業とベランダ農業は、都会人のイライラを解消してくれる極めて重要な手段だ。ベランダ菜園は園芸療法が持つ他のものでは代わることのできない役割をある程度果たしている」と説明した。
echoさんは、野菜は自分のストレスを軽減してくれる一つの手段であり、小さなベランダは自分にとっての「桃源郷」だと話す。
Echoさんが飼っている鳥。(画像提供は取材対象者)
深センで新型コロナ感染症が発生している時、echoさんが栽培のプロセスをネットで公開すると、大勢のユーザーがechoさんのフォロワーになった。感染症対策の第一線で働く医師はechoさんに、「毎日仕事のストレスが大きく、ストレス解消はechoさんの投稿を見ること」と話した。多くのechoさんのフォロワーが更新を心待ちにしているとコメントし、育てたナスをどうやって食べるかに本人よりも関心を寄せている。(編集KS)
「人民網日本語版」2022年5月18日