CCTV記録番組「京劇」、「魅力伝わらない」と物議=中国
中国中央テレビ(CCTV、日本のNHKに相当)がこのほど放送を開始したドキュメンタリー「京劇」(シリーズ全8回)をめぐる議論が絶えない。批判の声を挙げているのはほとんどが京劇ファンで、中には業界人も少なくない。批判はすべて史料の真実性や全体的な京劇への理解度といった点に限られている。例えば、精緻で美しい画面や婉曲で含みのあるナレーション、こだわりのある番組作りといった長所と同時に、「京劇」の壮大な叙事の中に、京劇が本来備えている芸術的な魅力が埋もれてしまっているという鋭い指摘の声も挙がっている。「東方網」が伝えた。
毎回、京劇の古典演目の名前をタイトルにつけている同ドキュメンタリーは、視聴者に200年にわたる京劇の歴史における、時代の変遷や、家や国家の栄枯盛衰と個人の命運などを反映させた番組を提供すると同時に、京劇の伝承の移り変わりや融合的な発展、包括的な革新を描き出している。
番組のチーフディレクターの蒋◆曾氏(◆は木へんに越)はドキュメンタリー「京劇」のコンセプトについて「これは、発展を遂げた京劇史の構図を借りながら、近代中国の庶民の生活を紹介する文化・生活のドキュメンタリー番組だ。しかし、このドキュメンタリーは京劇ファンが京劇について語っているような形式にさらに似ており、いわゆる文献に基づいて製作する正式なドキュメンタリーの基準で撮られたものではなく、文芸的なドキュメンタリー番組といえる」と説明する。
視聴者や専門家の批判について、蒋氏は「京劇ファンの皆さんからの関心は非常に有難い。多くの意見は非常に的を得たもので、製作チームは前向きにこれらの意見に対応していくつもりだ」と語った。また、「同番組の京劇に対する意義は全体像を提示することで、普及を促し、入門篇としての役割を担うことであり、すべてを盛り込むことは非常に難しい」と指摘し、「製作チームは現在、急ピッチで撮影を行っており、極めて短い限られた時間の中で、指摘された誤りや遺漏を修正していくつもり。再放送前には必ずすべて修正する」と語った。
誤りを直ちに修正するというこのような態度は非常に評価できる。ただ1人の京劇ファンとして、魅力的なはずのドキュメンタリー番組「京劇」を見ても、京劇芸術の魅力は伝わってこない。「壮大な叙事の中に京劇の芸術的な魅力が埋もれてしまっていることが、このドキュメンタリーの致命傷となっている」
多くの昔からの観客にとって、京劇はすでに既定のパターンまたはある種の型が出来上がっており、すでにそれだけでとても美しく、完璧なものとして捉えている。これらのファンにとって、伝統劇だろうと、あるいは新しくリメイクされた劇だろうと、いずれも既定のパターンに当てはめればいいだけで、それと合っていれば良く、合っていなければ良くないと判断する。ドキュメンタリーの中である専門家がこのような現象について「1920-30年代の京劇界には『3大賢』と呼ばれる役者たちがいた。『3大賢』には2種類あって、ひとつは、中年以上の人物に扮する京劇俳優の余叔岩、馬連良、高慶奎の3人を指した。もうひとつは、より一般的に使われ、女形を演じた梅蘭芳、男性を演じた余叔岩、武士や勇敢な若者を演じた楊小楼といった京劇の代表的な役者3人を指した。役者の舞台芸術を見に行った多くの京劇ファンは、人気を誇った楊小楼や余叔岩、梅蘭芳が前後して舞台から去ったことで、劇場に足を運んで京劇を見るという欲望を失ってしまった。京劇芸術の魅力は、すなわち役者の芸術だ。ドキュメンタリー『京劇』はこの面で、京劇芸術の魅力を充分に描ききっておらず、これが恐らくドキュメンタリー『京劇』の質を疑問視される主要な原因となっている」と指摘した。(編集MZ)
「人民網日本語版」2013年6月17日