新中国成立70周年

ソフト・パワー事業のあり方について (2)

人民網日本語版 2019年10月09日11:21

中国でも先駆的な民俗学的研究を行った人物として周作人や茅盾らが挙げられるだろう。また、1960-70年代に全国各省で行われた中草薬調査は、非常に素晴らしい成果を挙げた事業である。伝統医学が規範化され、統一教科書で医師を育成するようになれば、こうした民間医療知識は次第に淘汰される運命にある。しかし、それらの知識が時として重要な情報源となりうることは、青蒿素発見の際に民間の薬物知識の収集と検証が抗マラリア研究の重要な起点になったことからもわかる。マラリア治療薬については、それ以前にも例えば17世紀に南米のスペイン人がキナノキに抗瘧効果があることを知り、それが宣教師を介して中国に伝わり、康熙帝が非常に重視した例もある。南米では現在でも新たな薬用植物の発見を期待して調査が行われているが、中国の伝統医薬知識にもまだそうした可能性はあるだろう。

しかし近年、国学などのハイカルチャーが重視されつつある一方で、図書館や学術雑誌などを見る限り、こうした民俗・風習・伝承の研究は未だに重視されていないように感じられる。それどころか、近年の地域産業振興で、残念ながら伝統文化が歪められているケースも目にする。また「外訳項目」(外国語翻訳事業)という、中国の主要古典を外国語に翻訳する活動も盛んであるが、多くの古典は二千年に渡る先行研究を咀嚼する必要があり、ふつう解釈が一定ではないので、現代中国語への翻訳ですら容易ではない。さらに外国語への翻訳となれば、1、2年で終えられる事業ではない。中国古典への幅広い知識と外国古典への十分な素養があって、初めて良い翻訳ができるので、安易な翻訳はかえって古典の価値を下げることになりかねない。加えて、「輸出」とは本来、相手国の需要があって成立するものであるから、需要を生み出すため、少なくとも品質は十分に満足させられるものでなければならない。さらに中国人が重視する文物や文化を、外国人も同じように価値を認めるとは限らないし、中国人が価値を置かないものに、外国人が価値を見出すこともある。たとえばジョセフ・ニーダムの中国科学史研究は、その好例といえるだろう。文化輸出に成功している国は、往々にして文化輸出を意図せずして成功している。したがって、文化輸出事業は一方的に紹介するだけではなく、外国人自身に選べる素材と機会、環境を提供することにも十分に配慮した方が効果的である。外国人からの視点を重視するため、小泉八雲(Lafcadio Hearn,アイルランド系イギリス人)のような外国語を母語とする専門家を長期的な計画で育てて、深い理解と体験を伴った古典翻訳を出版する方が有意義ではなかろうか。

中国は、日本よりも多様な文化と長い歴史をもつ国家であり、それらは欧州全体の歴史と文化に匹敵すると言ってもよいほど文化資源に恵まれた地域である。しかし、すでに述べたように、経済が発展すると生活スタイルが大きく変化し、社会や文化の多様性、とくに少数民族を含めた民俗文化や言語は急速に失われている。また周辺地域の民俗や伝承、伝統との比較も重要であるから、国内だけに注目するだけでは足りない。私はイスラム(イベリア半島を含む)や南アジアの医薬史に関心をもっているが、それらの古文書には中国に関連する記載が多いことはあまり知られていない。こうしたアジアの古典籍を中国語に翻訳することも、ソフト・パワーの強化にとって非常に重要な事業になると思う。ソフト・パワー強化には、今後より多面的な事業が必要になるだろう。

「人民網日本語版」2019年10月9日

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