ストーリーに巧妙に埋め込まれたミシュラン格付け評価の秘密
ストーリー設定について見てみると、「グランメゾン東京」は業界ドラマの定番路線を踏襲している。職場で挫折し、人生に失望した主人公が、新たに態勢を立て直し、再起を目指して奮闘するストーリーを主軸に、ほとんど知られていない業界の内幕を明らかにし、職場の神話を創り上げていく。さまざまなカテゴリーの日本のグルメドラマのうち、「王様のレストラン」や「Dinner」、「 Chef〜三ツ星の給食〜」などがこのタイプに入る。「グランメゾン東京」のユニークな点は、ストーリー設定においてミシュランの要素を大きく扱い、ミシュランの格付け評価体系の秘密を明らかにしながら、その核心的価値について説明し、ミシュラン三ツ星レストランとは何かを専門的な角度から示し、視聴者に新鮮なグルメドラマ体験をもたらしている点にある。
そしてラブストーリーをメインに据えがちな多くのグルメドラマと異なり、「グランメゾン東京」は登場人物の感情描写において、意図的に愛情の要素を薄めている点は注目に値する。尾花と倫子が曖昧にしている本当の気持ちはストーリーの中に見え隠れするものの、2人の親密で隙のないチームとしての協力体制と、「実力ある者は実力ある者を重んじる」という優れた職人同士の友情を際立たせることにさらに多くの時間が割かれ、「日9」ドラマ枠の主要な視聴者層の職業ドラマに感情移入したいという気持ちと期待に応えただけでなく、作品全体の爽やかな雰囲気にもマッチしていた。料理人の情熱と美食のもたらす癒しは、月曜からまたストレスの多い仕事に戻る社会人たちに新たに活力と希望を注ぎ込んだ。
「グランメゾン東京」の人物設定も非常に好感が持てる。さまざまな性格の料理人たちは、友情を大切にし、理想があるだけでなく、いずれも素晴らしいテクニックの持ち主だ。尾花は性格に欠点はあるものの、その人格的な魅力と超絶的な料理テクニックは、やはり優れた技を持つ料理名人たちを魅了し、どんなことがあってもついていこうと思わせるに十分だ。レストランのシェフたちから伝わってくる「信念を持ち続け、仲間を信頼し、夢を追求する」精神は、まるでリアル版「ONE PIECE」のようで、人の心をつかむ。ライバルの丹後学ですら、職業上の道徳を守り、職人としての自尊心を保ち、何度もレストランを危機から救っており、見る者に尊敬の念を抱かせる。職人たちの前向きな競争と料理の頂上対決は、視聴者に名人が技で勝負する伸びやかさを感じさせ、またミシュランという栄誉の背後にある苦労を実感させた。そして、ひたすら商業利益を目的にして、職人の尊厳を踏みにじるライバル店のオーナーにすべての罪を着せている。こうした設定は単純で荒っぽいものだが、見ている視聴者はスカッとすることができた。
日本文化の美食へのこだわりを余すところなく表現
美食はこのドラマの最大の見どころで、職人たちが美食の最高の境地を追求する様子を描き出したと同時に、制作チームは視覚的な満足が得られるグルメドラマを目指して力を尽くした。手の込んだ料理の盛り付けや、美しい照明デザイン、躍動感のあるカメラワーク・構図などで、ミシュラン・フランス料理の美感を超クローズアップのショットで余すところなくテレビの視聴者に伝え、食文化ドキュメンタリー番組「舌尖上的中国(舌で味わう中国)」を見慣れた中国人の視聴者ですら、食欲が大いに刺激された。
日本文化の美食に対するこだわりは、「グランメゾン東京」において余すところなく表現されたと言えるだろう。食材選びから調理テクニック、メニュー開発、レストランの営業、飲食サービス、美食のテイスティング評価から格付け審査まで、さながらミシュラン星付けレストランの起業指南のようだ。ストーリーは最高級フランス料理をテーマにしているが、ドラマに登場する食材を通じて、日本産食材の優れた品質と豊富さがさりげなくアピールされていた。もちろん、この日本のドラマで、視聴者は飲食業の職場の魅力や、シェフたちの匠の精神、そして業界トップになりたいという信念とモチベーションを知ることもできた。ドラマ全編は、さっぱりとした味付けの上品なフランス料理を食べたかのように、くたびれた中年が日々の生活で重いプレッシャーを受けて感じる無力感を忘れさせてくれた。エンディング主題歌の「RECIPE」の美しくリズミカルな旋律が始まると、山下達郎のやさしく透明な歌声には、日本ドラマのファンを一瞬にして日本ドラマ黄金時代に戻ったかのような気持ちにさせる魔力があるように感じられる。(文/華東師範大学伝播学院副教授・羅薇)(編集AK)
「人民網日本語版」2020年1月16日