データによると、中国には抜け毛で悩んでいる人が2億5千万人以上いるという。言い換えれば、平均して6人に1人が悩んでいる計算になる。「95後(1995年から1999年生まれ)」と「00後(2000年代生まれ)」で抜け毛の悩みがある人の割合は、いずれも33%に達したという。
ここ数年、抜け毛の悩みがますます深刻化していることから、黒ごまを団子状に丸めた「黒芝麻丸」という栄養食品が大きな注目を集めている。商務部(省)が重点ECプラットフォームに対して行ったモニタリングのビッグデータによると、2022年の旧正月の年越し用品では「黒芝麻丸」の売上が前年同期比105.9%増加し、各ECプラットフォームには月の売上が10万個を超える店舗が少なくない。
「生え際の後退は改善しないのに、体重は0.5-1kg増加」
「黒芝麻丸」はほぼ「一夜にして」人気商品になった。
「『黒芝麻丸』を毎日2個食べれば、生え際の後退もなんとかなる!」。人気ライブ配信パーソナリティの李佳琦さんがライブコマースで1箱100元(1元は約18.6円)余りの「黒芝麻丸」を紹介すると、販売開始からものの数分で2万個余りが売れた。
夜更かしをする人、抜け毛が多い人、産後の女性など、ストレスを感じやすい人であれば、誰でも「黒芝麻丸」に「救いを求める」ことができる。
「デザインの仕事をしていて、夜遅くまで残業することは日常茶飯事」と自虐気味に話す珂さんは、「大学を卒業してから3年たつが、お金は全然貯まらないのに、頭の生え際はかなり後退してしまった」と話した。
珂さんは数百元をはたいて3ヶ月分の「黒芝麻丸」を買った。「3ヶ月食べてみたが、生え際の後退は改善しなかった。それなのに体重は500グラムから1キログラムくらい増えてしまった」という。
珂さんはそれでもコツコツと買い続けている。というのも、「これを食べれば、現代の労働者の暮らしの中のあらゆる悩みや苦しみが、すべて解決したような気がする」からだ。
年6500元の出費 ストレスを感じたら「黒芝麻丸」
「90後(1990年代生まれ)」の林さんは個人メディアを仕事にしており、「よく夜遅くまでプランを練っている。収入が徐々に増えるにつれて、生え際がだんだん上がってきて、抜け毛もますます増えるようになった」と話した。
林さんは毎日「黒芝麻丸」を4個食べ、出張の時も日数分を持っていって欠かさず食べる。食べているのは1個4.5元ほどの「黒芝麻丸」で、計算すると「黒芝麻丸」に年に約6500元を使っていることになる。
「黒芝麻丸」で抜け毛は本当に予防できるか?
栄養という視点から言うと、黒ごまにはビタミンB族、不飽和脂肪酸などの栄養成分が豊富に含まれるが、髪の毛が生えるとか髪を黒くするなどの効果をうたうのはあまりにも大げさだ。取り過ぎれば副作用も出る。今年2月に発表された(疑似科学による誤った理解の是正を目的とする)「トンデモ科学ランキング」によると、人体内のメラニン細胞が作り出すアミノ酸誘導体は、黒ごまに含まれる色素と同じ物質ではなく、黒ごまを食べても体内でメラニンが作られるのをサポートしたり、白髪を減らしたりすることはできないという。
現代の抜け毛で悩む人の多くは「脂漏性脱毛症」で、皮脂の分泌が過剰なためカビ(真菌)が繁殖して毛包が炎症を起こすというものだ。一方で、黒ごまは油の原料になる作物で、油の含有量が非常に多い。過度に摂取すると皮脂の分泌を増やし、頭皮のかゆみや赤みを引き起こす可能性がある。
心理カウンセラーの廖峻瀾さんは取材に対し、「心理学的に見ると、大学院生や社会に出たばかりの若者たちは、恋愛や結婚、仕事などに対する悩みをすべてある1点に投影している。その1点というのがつまり、抜け毛の悩みだ。心理学ではこのような心理現象は拡大効果とも呼ばれる。こうした若者たちは、直面する不安が多すぎて多くの現実的状況を自分でコントロールできない中で、抜け毛についてはどうにかなると考える。『黒芝麻丸』人気とはすなわち、自分の容姿に自信を持てなくなってしまった人々に対し、自分でどうにかできるという安心材料を提供しているということなのだ。しかし、実際にはこうした方法で不安を解消することはできない」と述べた。
廖さんは、「心理的な面から、外見への不安を受け入れること。そして、外見への不安を内面の向上と結びつけることだ。例えば時々『充電』する、修養を積むなどするとよいだろう」とアドバイスしている。(編集KS)
「人民網日本語版」2022年3月17日