5月22日付のシンガポール紙「聯合早報」は、「在中国日系企業は『移転しようとしてもそれほど簡単ではない』」と題する記事を掲載した。その分析によると、新型コロナウイルス感染症によってサプライチェーンが停滞する環境の中、日本と米国からこのところ企業を中国から撤退させるとの声が同時に上がっているが、経済グローバル化の流れは変わらず、中日両国は経済協力の融合度が高く、自動車や機械など産業チェーンが複雑な製品の分野では企業が競合関係にあるものの、イノベーションや品質向上、コスト削減などでは引き続き共存共栄の相互補完関係にあり、日系企業は中国から安易に撤退することはないだろうし、撤退するとしても難しいだろう。
日本政府は4月7日に打ち出した「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」の中で、「一国依存度が高い製品・部素材について生産拠点の国内回帰等を補助する」、「ASEAN諸国等への生産設備の多元化を支援する」、「強固なサプライチェーンの構築を支援する」とした。具体的には、中小企業が日本国内で生産拠点などを整備する場合の補助率を引き上げて、中小企業への補助率を4分の3、大企業への補助率を3分の2とした。
「聯合早報」の記事は次のように分析している。日本は国家安全保障を考えなければならないが、この政策の目的はサプライチェーンのリスクを分散することにあり、支援を通じて日本企業の中国からの撤退を奨励するものではない。この政策に強制力はなく、日系企業が政府の支援を受けるからといって大規模に中国から撤退することはないとみられるが、今後ミドルクラス・ロークラス製品のASEANへの移転ペースが加速する可能性があり、日系企業が感染症収束後に中国以外のサプライヤーを増やして供給のリスクを回避しようとすることも考えられる。
中国製造業のコストが徐々に上昇するにつれ、一部の付加価値が高く自動化レベルの高い産業が日本に回帰し、労働集約型産業が中国よりも人件費が安価なASEAN諸国に移転するのは、国際分業における必然的な流れだ。また中国企業の成長や製品の品質向上の速さにより、一部の日系企業の製品の競争力が下がり、中国からの撤退を余儀なくされた。
日本貿易振興機構(ジェトロ)が今年3-4月に、中国の華東地域の日系企業710社および華南地域の日系企業457社を対象として、サプライチェーンの移転に関する緊急調査を行った。その結果、華東地域は14%、華南地域は15%の企業が調整を行うと答えた。中米貿易摩擦と感染症という2つの不確定要因の影響により、在中国日系企業の約85%が今は現状維持の態度を取る。実際、在中国日系企業のうち、過去5年間に中国事業の縮小か移転を検討したことのある日系企業の割合はずっと10%程度にとどまっており、全体としては日本の製造業が中国を離れることは難しいとみられる。ただ、一部の付加価値の低い業界は、価格競争力を向上させるためにASEAN諸国へ移転せざるを得なくなった。
日系企業が海外生産を行う主な目的は、現地の低コストの優位性を活かして製品の加工と輸出を行うこと、現地市場をターゲットに地産地消を展開することだ。前者については、今後はASEAN諸国への移転の可能性が高い。後者については、規模の巨大な中国市場に依存することが今や中国のサプライチェーンの重要な一部分になっており、自動車産業がその典型だ。