漂流記のような始まりだが、サバイバルなストーリーではない
「レッドタートル ある島の物語」は小説「ロビンソン漂流記」のような始まり方だが、ファンタジックな要素も含まれている。同作品は「ロビンソン漂流記」とは違い、「本来いた場所に戻る」ことはなく、ファンタジー要素にあふれ、次から次へと奇妙なできごとが起きるストーリー展開となっている。
同作品に対しては「人と自然を極力映し出し、人が自分の心と向き合うストーリーになっている」と評価されており、さらにそれをシンプルで生き生きとした画風で深い哲学的思想を表現するというのがドゥ・ヴィット監督の一貫したスタイルだ。1953年生まれのオランダ人アニメーション作家のドゥ・ヴィット監督は早くからイギリスに移り、サリー・インスティテュート・オブ・アート・アンド・デザイン(現UCA芸術大学)でアニメーションを学び、同校で東欧アニメーションの短編作品をたくさん鑑賞した。ドゥ・ヴィット監督は宮崎駿氏とロシアのアニメ巨匠であるユーリ・ノルシュテインなどの作品から学び、同校を卒業後、商業アニメ制作に従事していた。しかし、そのようなインスタントで創意工夫の幅に制限のある創作スタイルにすぐに嫌気が差し、個人のスタイルが表せる短編作品の制作を始めるようになった。十数年前にドゥ・ヴィット監督が手がけた8分間の短編作品「岸辺のふたり」は第73回アカデミー賞の短編アニメ賞を受賞した。同作品はドゥ・ヴィット監督のシンプルかつとても深みのある叙述スタイルを確立したものとなった。さらに、宮崎駿氏は同作品を見て、ドゥ・ヴィット監督のスタイリッシュでいきいきとした画風の背後にある思想を感じ、生死の意義に関する哲学的野心について次々と質問し、「もしスタジオジブリ以外のアニメ制作者と協力するなら、ドゥ・ヴィットを選ぶ」とドゥ・ヴィット監督の才能を認めるコメントをしている。
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