彼の作品に登場する人物はいつでも記憶の中で、歴史、過去、現在の生活を理解できるよう模索している。過去と現在、自分と社会、真実と幻覚の狭間の中で、存在の虚しさ、無常な命を際立たせている。そのような世界、深淵において、我々は無力であることを身に染みて感じさせられる。小説家であるカズオ・イシグロは、世界と人間性の微妙な部分を感じることに長け、命のはかなさ、虚しさを勇気を持って認めている。彼は、そのようにして初めて、命がミステリアスで、重く、危機に満ちているにもかかわらず、大きな希望を抱くこともできることを知っているのだ。
それでも、カズオ・イシグロが移民の問題に全く関心がないわけではない。実際には、カズオ・イシグロの作品の中で、移民や文化の違いは、物語の中心にはなっていないものの、国際化の大切な意義が反映され、際立っている。カズオ・イシグロの作品について、批評家のバリー・ ルイス氏は、「彼は移民問題の『違い』に注目している」と分析している。その「違い」は、地理的なものだけでなく、文化や価値観における「違い」も含まれる。日に日にグローバル化が進む世界において、そのような文化や価値観の違いは、誰もが向き合い克服しなければならないものだ。そして、「この世界において、小さな自分が努力し、自分らしくあり、愛を探し求める。そして、小さな自分が大きな世界に触れ、そこに溶け込んでいく。『小さな自分』にも、『大きな自分』にも注目し、自分の作品は人と人の関係、人と世界の関係にも注目する」というのが、カズオ・イシグロの創作の目標でもある。
カズオ・イシグロは、世界中の人々を対象に小説を書いている。そのテーマは普遍性を追求し、さらに、誰でも受け入れやすい簡単な言葉で書いている。それも、彼の各作品が売れ続けている原因だ。そのもう一つの原因は、面白い内容と大衆文化をうまく組み合わせている点だ。彼はプロの小説家としての技巧と庶民の気持ちをうまくコラボさせている。小説以外に、彼は音楽も好きで、ヒットした映画やドラマの脚本を手掛けたこともあるという。多くの事柄を包括しているグローバルな作品で、彼は多くの庶民に愛されると同時に、学術界の間でも好評を博している。
カズオ・イシグロの作品は、西洋の現実主義の伝統を受け継ぐと同時に、東洋の美的センスの要素も取り入れている。スウェーデン・アカデミーのサラ・ダニウス事務局長は、「彼の作品は、ジェーン・オースティンと、マルセル・プルースト、そしてフランツ・カフカが少しずつ混ざったようなところがある。これらの要素をたくさんではなく、少しずつ混ぜ合わせると、簡単に言えばイシグロになる」と話した。
これはとても適切な分析で、カズオ・イシグロの寓言法を用いた作品には、究極の疑問に対する熟考が含まれており、言葉遣いは物寂しく鑑賞的であるものの、英国式のユーモアも失っていない。彼の文体のスタイルからは日本独特の美意識も感じられる。特に、日本を背景にした初めの二作「遠い山なみの光」(1982年)と「浮世の画家」(86年)には、日本特有の美的理念「もののあはれ」や伝統文化「浮世絵」などの痕跡がはっきり見える。彼の言葉遣いはさっぱりとしていながら、細やかさがあり、感情をうまく抑え、含みがあり、往往にして複雑かつ繊細で、会得するのが難しく、言葉で言い表せない所では、読者がじっくりと時間をかけて消化し、熟考できるようになっている。
移民作家でありながらグローバルな作品を創作する面で最も模範的なカズオ・イシグロが大きな成功を収めていることに疑いの余地はない。グローバルな作品を書き続けているのは、彼が文学の力、文学が世界を変える力を信じているからで、彼はこの世界に対して強い使命感を抱いている。ノーベル文学賞を受賞した際、カズオ・イシグロは、「受賞できて本当に光栄。ノーベル賞が永続する力になることを願っている。今は世界がとても不安定な時代。全てのノーベル賞が今のように、世界においてポジティブな力になることを願っている。今年、僕がある意味潮流の一部になることができ、とても不安定な時期にポジティブな雰囲気を作り出すことができるのであれば、本当にうれしい」と語った。(編集KN)
「人民網日本語版」2017年10月22日
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