「仕事漂流」にみる日本の若者の仕事の現実 (2)

人民網日本語版 2019年09月04日11:20

焦燥感と不安は「時間」からくるものもある。賞味期限があるということだ。東京大学法学部の大学院を卒業して、経済産業省で働く国家公務員の原口博光さんは、入学式で教授の言った、「東大卒の賞味期限は2年から3年」という言葉をよく覚えており、「社会は変化している」、「ルールは変化している」という自分の見方を確かめたいという。有名校の万能パスポートを持っていても、それでは通過できない関所もある。前出の山根さんは、「もうすぐ30歳になる。年齢が上がるほど、再就職の選択の余地は小さくなる。その後、仕事を変えて職業コンサルタントになって、仕事の残酷な現実をつくづく目の当たりにした」と話す。

焦燥感と不安は「危機感」からくることもある。1人の人の市場価値をがんじがらめにして、あおることをやめない。大手電機企業の研究所に勤める大野健介さんは気楽な現状に明らかに満足しているが、切れ目なくやって来る「不安」をどうすることもできずにいる。「見えないどこかに手があって、絶えず誰かを快適な場所から押し出そうとしているような感じがする」という。父親の武史さんは、「日本人自身が一所懸命に働いて経済を飛躍的に発展させたのではなく、あのような時代だからこそ、一所懸命に働くことができた」と話す。必ず毎朝6時に起きて自分の専門を勉強し、外資でコンサルタントを務める長山和史さんは淡々とした毎日を送っている。「自分たちのような業界では、知識を売ってお客様から高額の報酬を受け取る。ふさわしいサービスを提供できない人はやめるしかない」からだという。

守り抜く人があれば、姿を消す人もある。苦しみの果てに喜びが訪れた人もいれば、翼を失って失意のうちに終わる人もいる。

「仕事漂流」は処方箋のような本で、読んで落ち込むような本ではない。社会人8人の漂流はプラスのフィードバックを得ており、それぞれがよるべき理由を見つけて自分を首尾一貫したものにし、安定した心の秩序を再構築している。英雄の旅を終えて、最後に褒美をもらったような感覚になる。成長なのか妥協なのか見極めは難しいが、そもそも両方を兼ねているといえる。

実はこの本は新しくはなく、初版は2010年4月だ。筆者の稲泉氏は3年後の改訂新版のあとがきに8人のその後を記しており、中には再び漂流する人もいる。彼らは「理想の仕事」に近づいたのだろうか。長山さんの言葉を借りると、「結果として正しい答えは何も出ていないけれど、きっと自分が正しいと思う答えが正しい答えなのだと思う。社会が多様化しているからだ」。

初版発行から9年後に中国語版を読んだ。時間と場所は違っても、「迷える世代」や「就職氷河期」は過去のことではない。迷わない世代などいないともいえる。これまでのどの世代も「これまでで最も困難な就職シーズン」と言われてきたではないか。

夜が明け、「午前7-8時の太陽」のような若者たちは今日も整然とした秩序ある一日を送り始める。(編集KS)

「人民網日本語版」2019年9月4日

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