会計事務所大手のプライスウォーターハウスクーパース(PwC)はこのほど発表した「在中国日本企業の発展の調査研究報告2021」の中で、新型コロナウイルス感染症、外資の安全審査の実施規定の改定、「地域的な包括的経済連携(RCEP)協定」などはいずれも、日系企業が中国で発展しようとするときによく注意するマクロ要因だと指摘した。
今年1月1日に発効したRCEPにより、中国と日本は初めて二国間関税減免の合意を達成し、歴史的なブレークスルーを実現した。商務部(省)のデータでは、中日間で直ちに関税が撤廃される割合はそれぞれ25%と57%で、最終的に日本から中国に輸出される製品の86%、中国から日本に輸出される製品の88%が、それぞれ関税ゼロの恩恵を受けることになるという。
調査に回答した日系企業は、「RCEPが貿易と海外市場に与える影響、とりわけ東南アジアをカバーする業務に与える影響は、主に2年後に顕在化するだろう」との見方を示した。
これについて、PwC中国国際税務パートナーの李子聡氏は、「現在、多くの日系企業がRCEPの効果について主として様子見の態度を取っている。しかし注意しなければならないのは、このプラットフォームが登場すると、これまで日系企業が中国でターゲットにしてきたのは人口14億人の市場だったが、今後は日系企業の中国にある工場がターゲットにするのは22億6千万人の人口を抱えたRCEP全加盟国の市場になる、ということだ。そのためRCEPの発効は日系企業の中国国内での生産展開にとって重要なヒントになる可能性が高い」と述べた。
李氏はこれまで注目を集めてきた日系企業のサプライチェーン移転の問題について、「日本の製造部門が東南アジアに移転するようになったのは4-5年前からのことで、当時は日系企業の大部分が『中国+1』の戦略をとり、一部の相対的に低レベルの製造ラインを東南アジア諸国に移転させ、現地の安価な労働力を利用することにした。しかし実は数年にわたり、移転した日系企業の東南アジア各地での発展は上手くいっているところもあればそうでないところもあるといった状況だ。たとえば一部の日系企業は、東南アジア現地の従業員の技術や能力は中国に及ばないことに気がついた」と述べた。
李氏は続けて、「そこで、製造コストを考える時は、絶対的製造コストを見るだけではだめで、現地の従業員がもたらす実際の生産性を見なければならない。たとえばベトナムの企業の製造コストは中国の3分の1かもしれないが、現在の中国の労働力には生産性がおそらくベトナムの8倍になるという優位性がある。そのため、企業のサプライチェーン調整が東南アジアにも及ぶ場合、実際にコストが低下すると一概には言えない」と述べた。
上海国際問題研究院の陳友駿教授は、「RCEPがその始まりから現在まで歩んできた道のりは容易ではなく、実施・発効したことは東アジア地域のすべての国が将来の地域経済一体化の推進に対し決意と原動力を秘めていることを示し、地域内の貿易の流動を促し、協力を増やす上でプラスになる」との見方を示した。
陳氏は、「もちろん、新型コロナウイルス感染症は多くの企業が製造部門の移転や製造チェーンの再構築を行うプロセスにとって重要な検討要因になっている。実際のところ、感染症の下では、日系企業のサプライチェーンの移転・再構築に関するデータは変動が大きく、時間の流れと感染状況によって変化するため、RCEPの本当の効果を見るには、時間による検証が必要になる」と強調した。(編集KS)
「人民網日本語版」2022年1月14日