日本の蔦屋書店は1983年に大阪で創業し、今や日本全国に1500店以上の店舗を構える。現在、日本の実店舗の書店は経営困難または倒産の危機に直面するものが85%に上るが、蔦屋書店は生き残っているだけでなく、営業成績が年々上向いてもいる。蔦屋書店は日本で最大の書店チェーンであり、最も人気のある書店でもある。東京の代官山店は一日の来店客がのべ1万人を突破し、週末ともなればのべ3万人を突破する。蔦屋書店の魅力はどこにあるのだろうか。「中国文化報」が伝えた。
第1に、本が中核という点が魅力だ。蔦屋書店では本が中核であり、中心に位置する。蔦屋書店は複合書店で、店内には飲食、事務、美容、ショッピングなどさまざまな要素が備わるが、あくまで中核は本だ。他の要素はすべて本の延長であり、本を中心にした多角経営だ。たとえばショッピングなら、蔦屋書店でまず目に入るのは本であり、商品は本の間に置かれている。代官山店で最も注目を集めるのは、店舗の中央にある長さ55メートルの雑誌コーナーだ。「料理コーナー」には各種の料理本やレシピ本が置かれ、食材を紹介する本もあり、本で紹介された食材の実物が一緒に置かれ、料理本を買うついでに食材を買うことができる。また旅行に関する本の棚の横には、旅行会社が入っており、航空券の購入やホテルの予約など、旅行の手配ができるようになっている。また蔦屋書店は世界で最新の、豊富な雑誌をそろえており、たとえば自動車関係なら世界の主要国の自動車雑誌の最新版をここで買うことができ、日本語のものも外国語のものもある。自動車の販売、試乗体験、自動車関連サービスなどと一体になり、本も車もここで買える。キッチンツールを紹介する本の隣にキッチンツール、酒を紹介する本の隣に酒、トレーニングマシンを紹介する本の隣にトレーニングマシン、化粧品を紹介する本の隣に化粧品もここでは当たり前の光景だ。本にあるものは店内で買えるということで、本と物が融合し、虚の世界と実の世界が融合している。
蔦屋書店の創業者・増田宗昭さんは、「蔦屋書店がやっていることは『本を通じて新しいライフスタイルを売ること』」と話す。蔦屋書店は従来の図書の分類をやめ、形態による分類は行わず、内容での分類に切り替えた。たとえば旅行コーナーでどこかの都市への旅行を紹介する場合、単なる観光地の紹介にとどまらず、その都市の歴史、建築、文化、風景、科学技術、地理などに関する本を一緒に置く。同時に旅行に関する本、CD、地図、さらには旅行用品も置く。ここに来れば旅行関係のさまざまな商品を買うことができる。図書分類の再構成であり、書店という空間の再構築でもある。
増田さんは、「蔦屋の商品はDVDとCD、または本と雑誌だと考えたことは一度もない。これまでずっとお客様に提供してきたのは、個々の実物商品ではなく、その中に現れたライフスタイルだ、数えきれない映画、音楽、書物の中に描き出されたライフスタイルこそ、蔦谷の本当の商品だ」と話す。こうした本を中核とした理念があればこそ、蔦谷書店は本という主業務から離れることはない。蔦屋書店の売上高のうち、本が占める割合は30%を超えている。
第2に、お客様が中心という点が魅力だ。蔦屋書店の理念は、利用者の評価と満足度を唯一の基準とするというものだ。蔦谷書店は「売り場」を「買い場」に変化させることを提起する。売り場は売り手が中心だが、買い場は買い手すなわちお客様が中心だからだ。
代官山店はターゲットを中高年に定めている。現在の中高年とは第二次世界大戦後の第1次ベビーブーム世代を指す。この層は1960年代中期〜後期の日本経済の飛躍を引っ張り、今では相当の資産を保有する。統計によると、この層が日本の個人資産の90%を保有するという。この層は紙の本とともに育ち、紙の本に愛着があり、紙媒体を読む習慣を維持する世代で、金もヒマも愛着もあるのが特徴だ。日本では高齢化が進行し、この層はますます規模が拡大していく。中高年の顧客に向けて、蔦屋書店は本の選択、マーケティングと営業販売、店内のデザイン、色の選択など、すべて大量のデータを分析して決定する。店内には専門家がガイド役を務めており、たとえば代官山店の旅行コーナーには65歳の旅行家がいる。世界100ヶ国以上を旅し、ガイド本を10数冊出版した旅のエキスパートだ。音楽コーナーには200回以上コンサートを開き、ジャズのプロデューサーでもある音楽家がおり、料理コーナーにはたくさんの料理本を出版した料理界の有名人がいる。こうしたガイド役は買い付けから売り場での配置まですべてのプロセスに責任を負い、お客様に商品を薦める。ガイド役には豊富な専門知識や最新の情報が必要で、専門家でなければ務まらない。こうした専門家が薦めることで、顧客の側では信頼感や依存度が高まるといえる。