浙江省杭州市にある杭州野生動物園に入園する際に顔認証が必要であることは消費者権益の侵害に当たるとして、浙江理工大学の郭兵・特別准教授がこのほど、動物園を相手に訴訟を起こした。顔認証技術をめぐる中国初の訴訟で、同技術に再び注目が集まっている。
人工知能技術が発展するにつれて、顔認証技術がスマホの画面ロック解除や決済、入退室管理など、さまざまなシーンに応用されるようになっている。前瞻産業研究院の統計によると、2019年、中国の顔認証市場は34億5000万元(1元は約15.36円)規模に達し、今後5年間、その規模は20%以上のペースで拡大し、2024年には約100億元に達すると見込まれている。
しかし、顔認証をめぐっては、プライバシーや安全などの問題も課題として残っており、多くの人にとって非常に敏感な問題にもなっている。では、安全とプライバシー、便利さの間で、どのようにバランスを取ればよいのだろうか?
中国科学院情報エンジニアリング研究所、情報安全国家重点実験室の主任を務める林東岱氏は、「顔認証技術自体に問題はなく、人々の生活を一層便利にしている。人工知能などの関連技術を発展させるためには大量のデータが必要で、必然的に個人情報が問題になる。現状からすると、コンピューターの顔認証の精度は99.15%であるものの、まだファジィマッチングの状態だ。そのため、個人のプライバシーや財産などの重要な情報が関係するシーンでは、複数の方法で認証を行ったほうがいい」との見方を示す。
そして、「関連機関は、個人情報を収集したデータバンクを適切に管理、保護しなければならない。これらの情報は一旦漏洩すると、悪用され、社会に非常に悪い影響を及ぼす可能性がある。どんな状況下でも、顔認証にしても、または他の個人情報の入力にしても、それら情報の収集や使用目的をきちんと確認し、慎重にならなければならない」と注意を呼び掛ける。
さらに、「現在の社会においては、過度な個人情報収集が行われていることに、注意を向けるべきだ。現在、顔データの収集技術は発展途上で、その各部分の保護と確認が必要だ。具体的には、収集側に収集する権利があるのか、収集後安全に管理できるのか、そのデータの使用は合法なのか、被収集者の権利は保護されているかなどの課題がある。例えば、ほとんどのホテルは、宿泊者に個人情報の入力を求める。それらの情報は、その後どのように処理されているのかはほとんどの人が知らず、ホテルがそれを売りさばいていたとしても、当事者にそれを確認する術はない」と指摘。
「現在、情報技術はあまりに急速に発展しており、倫理や道徳の規範化、法律・法規の整備が追い付いていない。顔データやその他の個人情報のデータバンクを構築することは必要であるものの、それらデータバンクをどのように管理、運用するかについての明確な法律や規範も必要だ。顔認証技術をどのような分野に応用すべきか、応用の過程でどのような規則を遵守しなければならないのかといった法律・制度による線引きが急務となっている」とする。
アジア太平洋インターネット法律研究センターのセンター長を務める北京師範大学法学院の劉徳良教授は、「技術は中性で、管理すべきなのはその技術を使う人間だ。顔認証技術をネガティブな目で見るなら、テクノロジーの進歩の足かせとなってしまう」と指摘する。
そして、「顔認証のマイナスの要素に過度にスポットが当てられることがある。今の人はいろんな情報に踊らされやすく、人工知能のような最先端テクノロジ-に、非理性的な見方を抱きがちだ。顔データを保存し、精度が高く、効果的な身分認証を行うというのが、顔認証技術の本質だ。同技術を使用すれば、社会全体の運営效率を向上させることができる。それ自体が人々に何か危害を加えることもない。個人情報にとって本当の意味で脅威なのは、顔データの乱用だ」との見方を示す。
劉教授は現在、個人情報乱用をめぐる法律制定の業務に携わっており、「顔データ乱用のタイプ、方法、主体などを、法律で線引きし、相応の判断と処罰を下せるようにしておくべきだ。顔認証をめぐる法律を整備し、監督管理を強化し、一層規範化して、適切に応用すれば、社会にとっても益になる」と語った。(編集KN)
「人民網日本語版」2019年12月4日