瀬口氏は筆者からの質問に対し、「緊密に、より緊密になる」というシンプルでポジティブな答えを出した。
瀬口氏によると、「日本企業はこれまでリスクを回避するため、分散投資を行うのが一般的で、中国だけでなく、ASEANなどの国にも工場を建設した。技術の流出を恐れて、重要な部品はとりわけ中国で製造しようとしなかった。中国で感染症が発生すると、日本企業を含む多くの在中国の外資系企業が経営困難に陥った。意外だったのは、中国の各地方政府が3月上旬から経済回復に向けて動き出し、外資系企業を積極的に支援したことだ。感染症が世界中に拡散すると、米国などでも日本企業は同じような問題にぶつかったが、支援は受けられなかった。そのため、各国企業は中国の支援システムを高く評価し、中国で集中的に製品を生産するのが最も安全なやり方かもしれないと考えるようになった。さらに今年施行された『中華人民共和国外商投資法』は知的財産権に対する保護を強化しており、ここから中国の投資環境が徐々に改善されていることがわかる」という。
また一方で、感染症流行中に日本はEC、遠隔医療、オンライン教育、人工知能(AI)、モバイル決済などのハイテクの重要性を認識し、こうした分野で中国がはるかに先行していること、インフラ建設のレベルも日本を上回ることを認識した。瀬口氏は、「未来に着目する日本企業はどこも手を尽くしてこうした分野で中国とリンクしようとし、中国に研究開発センターを設立することを考えるところも多く、以前にも増して中国市場を重視するようになった」と述べた。
瀬口氏には「チャイナノミクス」というオリジナルの理論があり、「中国との経済協力を強化することが、日本が経済復興を実現するための最良の方法」と主張する。瀬口氏は、「中国の経済規模は2009年に日本に追いつき、2010年に日本を追い越して世界2位のエコノミーになった。中国の現在の経済規模は日本の3倍で、将来はさらに差が拡大するだろう。日本にとってみれば、機会がこれまでよりも多くなる。また中国企業はここ数年は製品の品質をより重視するようになり、品質こそまさに日本企業の十八番であり、両国経済の双方向の動きを持続的に推進すればウィンウィンの局面をもたらすことに疑問の余地はない」と述べた。
瀬口氏は、今年の中国の政府活動報告で国内総生産(GDP)成長率の数値目標が提示されず、中国経済が高速発展ばかりを強調しなくなったことについて、「今年はGDP成長率の数値目標を設定しなかったのはごく当たり前のことだ。中国とグローバル経済との関係はますます緊密になり、海外で感染症がまだ抑制されていないこと、経済活動が制限されていること、輸出をめぐる状況が不透明なことなどによりGDP成長率の予測が難しいからだ。今は中国経済は確かに感染症の影響を受けているが、今年下半期から徐々に正常な軌道に戻るはずで、中国経済は全体として安定した状況を維持するとみられ、GDP数値目標を発表しなかったことは問題にはならない」と分析した。